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しおりを挟む「オースティン王太子殿下」
「何か」
「アマンダはどうなりますか?」
「うむ」
私の質問にオースティン王太子殿下は、その端正なお顔をくしゃりと歪められました。その表情だけで、私の推測が正しいものだと分かってしまいます。
「この子はランバートの正式な後継者です」
「……だが、この件を騒ぎを大きくしないためには、リーリアもクライヴもその存在を抹消するしか手がないのだ」
「んーんーんー!!」
「……そ、んな……」
オースティン王太子殿下の絞り出すような声に、椅子に縛りつけられているリーリア王女殿下が反応しました。ですが、猿轡を噛まされているために、その声は言葉にはなりません。
でも、それでよかったと思います。ここで王女から何か言われたら、私は何をするか分かりませんもの。それは私の隣に座る父や母、斜め後ろにいる姉も同じだと思います。
「既にテレンス侯爵からは、抹消の手続きをしたと聞いている」
「……そんな、そんなっ、俺たちはただ一緒にいたかっただけで!」
「だったらなぜ、正当な方法で手順を踏まなかった!」
今までずっと沈黙を守っていたエヴァン第二王子殿下が、クライヴに向かって吠えました。
「んー! んー! んー!」
王女はさっきから何か喚こうとしているようですが、誰も相手にしていません。両隣にいる近衛騎士たちも無表情でした。
それでも真っ赤な顔で必死に椅子をガタガタと揺らしている様は滑稽で、無様です。
この王女は、クライヴのいったいどこが好きになったんでしょう。
そしてクライヴも、この王女のどこが良くて、私や娘を捨てようとまで思ったのでしょう。
私の腕の中にいるアマンダは、大人の騒ぎなど気にもならないようで、私の胸元の服をその小さな手で握りしめながら、うつらうつらとし始めていました。
何とも豪胆な子でしょうか。
「たかが男爵位しか持たない男に、王家は姫を嫁がせたりしない、でしょう」
エヴァン殿下に吠えられたクライヴは、まるで苦しい胸の内でも吐露するかのように言います。
「それ以前に貴様は既婚者だろうが」
そんなクライヴの言葉に、至極真っ当な事をエヴァン殿下が言いました。
「分かっています……でも、リーリア姫は俺を愛していると言ってくれた。そして俺もリーリア姫を愛しいと、思って……」
「……なんとも夢見がちで自分勝手な言い分ですわね」
今度は呆れた表情を浮かべたケイリー殿下が冷たく言い放ちます。
「そんな、でも、俺たちの愛は」
「真実の愛とでも言うつもり? ランバート侯爵令嬢と結婚しておいて? 子供まで生まれたのに?」
畳みかけるような言葉に、クライヴも何も言い返せないようでした。うろうろと彷徨うクライヴの視線が、時折、私と私の腕の中で眠るアマンダに向けられましたが、すぐに逸らされてしまいます。
それは罪悪感からなのか、それとも何か違う感情からなのかは、私には分かりませんでしたが。
「ねぇ、ダーリン男爵、あなたは男として、そして騎士として恥ずかしいとは思わないの? 妻を顧みる事もなく、こんな頭の悪い小娘に懸想して。少し調べただけであなたの素行は分かったわよ?」
「なんの事ですか」
「婚約しているときにも、あなたはシェリルふじ……いえ、シェリル嬢……に贈り物をしたことがあるのかしら」
「あります」
「そうね、確かに贈ってはいたみたいだけど、小さな花束とおもちゃのブローチやネックレスだったかしら。でも、それらの品を選んで彼女に渡しに行ったのは誰?」
「え?」
「私の調べではまだ12歳の従卒だったとなっているわ」
ケイリー殿下の淡々とした声に、私は婚約者時代の、あの贈り物がどうして安物だったのかの理由が分かりました。
クライヴが従卒の子に、お小遣いを渡して頼んだのでしょう。
そして頼まれた従卒の子は、女の子が貰ったら喜びそうなものを、その渡されたお小遣いで買って屋敷へと届けてくれていた。
金メッキの土台に、ガラスでできたイミテーションの宝石がついたブローチ。屑石でできたネックレス、シンプルな装飾が施された手のひらサイズの小さな手鏡。
確かにあの時渡されていたものを思い返せば、平民の少女ならきっと宝物に違いありません。侯爵令嬢である私には、あまりにも貧相でガラクタのようなものでしたが。
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