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CASE1 広瀬 海翔
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しおりを挟む「ちょっと待ってくれないか」
「ええ、いくらでも待ちましょう、私の花嫁」
「……よく分からないけれど、そのオメガが少ないから戦争になって、大陸にいる種族が滅びそうになるからやめろって言ったのは誰?」
「私たちが崇める女神様です」
女神……。
「女神様がいるの?!」
「私たちにお姿を見せることはありませんが、妖精族の巫女姫が女神様からのお言葉を私たちに齎してくださいます」
どこかうっとりとしたメーアの表情に、拒否感のようなものを感じる。
別に宗教を否定するつもりはないけれど、この女神様とやらはオメガを増やすための異世界から召喚しろって言ったんだよな?
それって何だか違うと思うのは俺だけなんだろうか。
「その女神が召喚しろって言った?」
「そうです。私たちのために異世界からオメガを召喚すればよいと教えてくださいました」
手を思い切り握られて、先ほどの悲壮さなどまるでなかったかのように興奮した表情をみせたメーアに、俺の拒否感はますます募った。
どうしよう。俺、ここにいたくない、かも。
「そしてあなたが私の前に現れたのです。なんと運命的なのでしょう。女性でなかったのは、残念ですが、あなたはとても美しい」
そしてメーアの言葉で俺は、ここに居るのが益々嫌になってしまった。
こいつも本来は女性を愛する人種だと理解したから。
別にそんな事で傷ついたりしないけれど、だったら普通にこの大陸の同じ種族の女性と結婚して子を成せばいいのに、なんでわざわざ異世界から召喚するのか分からない。
しかも、その上、この男、いやたぶんこの世界の人間たちは、俺たちを異世界から召喚したことに対して、なんの罪悪感も感じていないのも分かって、気持ちが悪くなってきた。
「なんで……」
「どうしました? 私の花嫁」
「花嫁なんて言うな! 俺は男だ、オメガなんてもんじゃない!」
こいつの手を振り解こうとしても振りほどけないのは分かってる。
けれど、どんどん気分が悪くなってきた俺は、必死に叫んでいた。
だって、よく分からなくてもこいつは俺を抱くつもりなんだろう。あからさまに部屋の中央に鎮座している天蓋付きの大きなベッドがあるんだ。それに、こいつは最初からやたらと身体を寄せてくる。
しかも、しかも!
俺は自分の身体がなんだか熱くなってきている事に気づいていた。
そして、さっきからなんだか身体がむずむずするのも、これはアレだと思いつく。
何分、綺麗だなんだと俺は散々言われてきたんだ。
特に大学生になって東京の大学に進学してからは、やたらと女性につきまとわれて。
サークルの飲み会だなんだと誘われて、何度、催淫剤もどきを飲ませられたことか。
まあ、最初に半ば意識を失ったような状態でお持ち帰りされそうになったところを、先輩に助けて貰って身体の関係が出来てから告白されたりしたんだけれども。
大学を卒業してからも、俺を手に入れたいという人間はそれなりに居た。
スタイルも良くて顔も綺麗。彼氏として連れ歩くのに丁度いいと言ったのは誰だっただろう。
アクセサリーかペットなのか分からないけれど、俺を求める人間なんてそんなやつらばっかりで。
悲しくて悔しくて、もういい加減にして欲しくて。
俺はゲイだって叫んだ。
それでゲイバレして同僚から白い目で見られて、色々な陰口を叩かれて、仕事にも支障が出るようになったから、もう駄目だと思って逃げたんだ。
なのに。
今度は異世界に召喚されて? オメガだから子供が産めるとか言われるなんて、なんの冗談だよ。
確かにさ、好きになったやつの子供を生むことが出来るなら、それはそれで幸せかもしれないけれど。
クスリでどうにかするつもり満々な男に抱かれるなんて御免だし、そんな奴の子供を産むなんて悪夢でしかない。
「は、なせよ! このヤロウ!」
「嫌です……あなたは口が悪いですねぇ」
手を掴んだまま、身体をソファの端に押し付けられて、上から覗き込んでくる男の表情は、どこか嗜虐的な色が浮かんでいるような気がした。
こいつ変態か!
そう叫びそうになった瞬間だった。
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