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Seek_2
あなたは、何を探してるの?
しおりを挟む「……あの、名前、聞いてもいいですか?」
唐突に、女がそう言った。
笑顔のままで。
「え?」
戸惑いながらも、反射的に名乗ろうとしたが——喉が詰まる。
何を言えばいいか、一瞬だけ、わからなかった。
自分の名前。
こんな簡単な問いに、どうして返せなかったのか。
「すみません、変なこと聞いて。
でも、お名前わかった方が、見つかる落とし物の候補が増えるかなって」
その言葉は、理にかなっていた。
だからこそ、不気味だった。
「……さ、さ、斎藤です。斎藤・・・けい・・・
・・・えーっと・・・」
咄嗟にでてこない。忘れている訳ではなく、少し消ずつ消えていくような感覚。
ようやく口から出た名前は、自分でもどこか他人行儀に感じられた。
女はその名を繰り返しながら、ゆっくりと頷いた。
「いい名前ですね。……たぶん、見つかりますよ」
それは希望のようでいて、断言のようでもあった。
男がまた名札を取り出す。
少しだけ、擦って、光にかざす。
写真はまだ見えない。
だが、文字がうっすらと浮かんでいた。
名前。
「……これ、あなたのですか?」
男がそう言って差し出したその名札には、
確かに、僕の名前に“似た”字が刻まれていた。
似ているけれど、違う。
けれど、間違いではないような気もする。
「いえ、たぶん違うと思います」
言葉にしたとき、少しだけ寒気がした。
女が名札を覗き込む。
「わたしの知ってる人に、似てる気がする」
「そうですか?」
「でも、思い出せないんですよね」
その瞬間、公園の空気がわずかに変わった。
微細な振動のように、地面の下から何かが伝わってくる。
どこかで、誰かが立ち上がった音がした。
遠くのベンチ。
別の誰かが、こちらを見ている。
「……あなたは、何を探してるんですか?」
女が、もう一度訊いた。
今度は、その言葉の意味が、まるで違って聞こえた。
僕が何を探すのを手伝っている。
ではなく——
僕自身が、“探されているのではないか”という感覚。
そして、“すでにそれは見つかっているのではないか”という確信。
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