死配人ー視捜の狂ーさがしものは、あなたですー

不幸中の幸い

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あなたは、何を探してるの?

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「……あの、名前、聞いてもいいですか?」

唐突に、女がそう言った。
笑顔のままで。

「え?」

戸惑いながらも、反射的に名乗ろうとしたが——喉が詰まる。
何を言えばいいか、一瞬だけ、わからなかった。

自分の名前。

こんな簡単な問いに、どうして返せなかったのか。

「すみません、変なこと聞いて。
でも、お名前わかった方が、見つかる落とし物の候補が増えるかなって」

その言葉は、理にかなっていた。
だからこそ、不気味だった。

「……さ、さ、斎藤です。斎藤・・・けい・・・
・・・えーっと・・・」

咄嗟にでてこない。忘れている訳ではなく、少し消ずつ消えていくような感覚。
ようやく口から出た名前は、自分でもどこか他人行儀に感じられた。
女はその名を繰り返しながら、ゆっくりと頷いた。

「いい名前ですね。……たぶん、見つかりますよ」

それは希望のようでいて、断言のようでもあった。

男がまた名札を取り出す。
少しだけ、擦って、光にかざす。
写真はまだ見えない。
だが、文字がうっすらと浮かんでいた。

名前。

「……これ、あなたのですか?」

男がそう言って差し出したその名札には、
確かに、僕の名前に“似た”字が刻まれていた。

似ているけれど、違う。
けれど、間違いではないような気もする。

「いえ、たぶん違うと思います」

言葉にしたとき、少しだけ寒気がした。

女が名札を覗き込む。

「わたしの知ってる人に、似てる気がする」

「そうですか?」

「でも、思い出せないんですよね」

その瞬間、公園の空気がわずかに変わった。
微細な振動のように、地面の下から何かが伝わってくる。

どこかで、誰かが立ち上がった音がした。
遠くのベンチ。
別の誰かが、こちらを見ている。

「……あなたは、何を探してるんですか?」

女が、もう一度訊いた。
今度は、その言葉の意味が、まるで違って聞こえた。

僕が何を探すのを手伝っている。
ではなく——

僕自身が、“探されているのではないか”という感覚。

そして、“すでにそれは見つかっているのではないか”という確信。
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