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ENATOS
―残影―
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美咲からの電話が途切れたあと、
角倉貞夫と千絵は、その場でしばらく立ち尽くしていた。
呼び返しても、何度かけ直しても、繋がらない。
あれほど必死な声で「助けて」と言っていた娘が、
突然、世界から切り離されたように消えてしまった。
二人は、その足で警察署へ向かった。
窓口で事情を説明すると、対応した警官は、
最初こそ事務的にメモを取っていたが、
「赴任先はどちらですか」と問い返され、
貞夫が「H県O市F村のO中学校です」と答えた瞬間、手が止まった。
警官は怪訝そうに眉をひそめ、奥の端末を操作し始める。
しばらく画面を見つめたまま、低く息を吐いた。
「あのぉ……確認したのですが……」
言葉を選ぶように、警官は一度口を閉じた。
「その村ですが、二十年以上前に大きな事件が起きていまして。
現在は、正式に廃村扱いになっています。
当然ですが、O中学校も、その時点で廃校になっています」
千絵が思わず声を上げる。
「……え? 廃村? そんな……」
貞夫は身を乗り出した。
「どういうことですか?
娘は、確かにそこへ教師として赴任したんです!」
警官は視線を落とし、周囲を気にするように声を潜めた。
「詳しいことは……正直、あまり表に出せないのですが」
そして、重い口を開く。
「当時、そのO中学校に羽柴という男が教頭として赴任してきました。
その男が、国語教師の若い女性に異常な執着を抱き、
執拗につきまとうなどの常軌を逸した行動に出たと記録されています」
警官の声は淡々としていたが、その内容は凄惨だった。
「村人を次々と殺害し、
学校関係者、保護者、子供たちまで巻き込みました。
有名な津山三十人殺しのような……
いえ、それに近い規模の大量殺人事件です。
F村は、ほぼ壊滅状態になりました」
千絵は口元を押さえ、震える。
「……そんな……」
警官は続ける。
「羽柴本人は、事件の最終局面で、
O中学校の屋上から投身し、自害しています。
その後、村は完全に閉鎖され、地図上からも徐々に消されました」
貞夫は、首を横に振り続けた。
「でも……でも、そんな事件があったとしても……」
彼は、震える手でスマホを取り出した。
「娘が、そこに赴任したのは間違いないんです。
ほら……これ、赴任してすぐに送ってきた写真です。
一か月前ですよ。見てください」
警官が画面を覗き込む。
次の瞬間、空気が凍りついた。
写真に写っていたのは、学校ではなかった。
墓石が並ぶ墓地の中。
その中央に立ち、こちらを見つめて微笑む女。
生気のない、真っ白な顔。
白濁した目。
口元だけが、不気味に持ち上がっている。。
それは、確かに角倉美咲の顔だった。
「……え……?」
千絵が悲鳴を上げる。
「えっ、えっ、なんでぇ……!
写真が……写真が変わってる!!」
貞夫も叫ぶ。
「違う! こんな写真じゃなかった!
娘は……娘はO中学の国語教師で、ちゃんと赴任したんです!!
美咲ぃぃぃ!!」
警察署内に、両親の叫び声が響き渡る。
周囲の視線が集まる中、警官は言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
――場面は変わる。
朝靄の立ちこめるF村。
朽ちかけた門をくぐり、新たな若い女性教師がO中学校に足を踏み入れる。
玄関前には、かつてと変わらぬ顔ぶれが整然と並んでいる。
教頭の羽柴を先頭に、教師たち、生徒たち、保護者たち。
その中の一人が、一歩前に出た。
生気のない肌。
それでも、口元には薄く、丁寧な笑み。
「ようこそ、O中学へ」
女教師は、深く頭を下げる。
「角倉美咲といいます」
校舎の奥で、
また一つ、不快な一日が始まろうとしていた。
角倉貞夫と千絵は、その場でしばらく立ち尽くしていた。
呼び返しても、何度かけ直しても、繋がらない。
あれほど必死な声で「助けて」と言っていた娘が、
突然、世界から切り離されたように消えてしまった。
二人は、その足で警察署へ向かった。
窓口で事情を説明すると、対応した警官は、
最初こそ事務的にメモを取っていたが、
「赴任先はどちらですか」と問い返され、
貞夫が「H県O市F村のO中学校です」と答えた瞬間、手が止まった。
警官は怪訝そうに眉をひそめ、奥の端末を操作し始める。
しばらく画面を見つめたまま、低く息を吐いた。
「あのぉ……確認したのですが……」
言葉を選ぶように、警官は一度口を閉じた。
「その村ですが、二十年以上前に大きな事件が起きていまして。
現在は、正式に廃村扱いになっています。
当然ですが、O中学校も、その時点で廃校になっています」
千絵が思わず声を上げる。
「……え? 廃村? そんな……」
貞夫は身を乗り出した。
「どういうことですか?
娘は、確かにそこへ教師として赴任したんです!」
警官は視線を落とし、周囲を気にするように声を潜めた。
「詳しいことは……正直、あまり表に出せないのですが」
そして、重い口を開く。
「当時、そのO中学校に羽柴という男が教頭として赴任してきました。
その男が、国語教師の若い女性に異常な執着を抱き、
執拗につきまとうなどの常軌を逸した行動に出たと記録されています」
警官の声は淡々としていたが、その内容は凄惨だった。
「村人を次々と殺害し、
学校関係者、保護者、子供たちまで巻き込みました。
有名な津山三十人殺しのような……
いえ、それに近い規模の大量殺人事件です。
F村は、ほぼ壊滅状態になりました」
千絵は口元を押さえ、震える。
「……そんな……」
警官は続ける。
「羽柴本人は、事件の最終局面で、
O中学校の屋上から投身し、自害しています。
その後、村は完全に閉鎖され、地図上からも徐々に消されました」
貞夫は、首を横に振り続けた。
「でも……でも、そんな事件があったとしても……」
彼は、震える手でスマホを取り出した。
「娘が、そこに赴任したのは間違いないんです。
ほら……これ、赴任してすぐに送ってきた写真です。
一か月前ですよ。見てください」
警官が画面を覗き込む。
次の瞬間、空気が凍りついた。
写真に写っていたのは、学校ではなかった。
墓石が並ぶ墓地の中。
その中央に立ち、こちらを見つめて微笑む女。
生気のない、真っ白な顔。
白濁した目。
口元だけが、不気味に持ち上がっている。。
それは、確かに角倉美咲の顔だった。
「……え……?」
千絵が悲鳴を上げる。
「えっ、えっ、なんでぇ……!
写真が……写真が変わってる!!」
貞夫も叫ぶ。
「違う! こんな写真じゃなかった!
娘は……娘はO中学の国語教師で、ちゃんと赴任したんです!!
美咲ぃぃぃ!!」
警察署内に、両親の叫び声が響き渡る。
周囲の視線が集まる中、警官は言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
――場面は変わる。
朝靄の立ちこめるF村。
朽ちかけた門をくぐり、新たな若い女性教師がO中学校に足を踏み入れる。
玄関前には、かつてと変わらぬ顔ぶれが整然と並んでいる。
教頭の羽柴を先頭に、教師たち、生徒たち、保護者たち。
その中の一人が、一歩前に出た。
生気のない肌。
それでも、口元には薄く、丁寧な笑み。
「ようこそ、O中学へ」
女教師は、深く頭を下げる。
「角倉美咲といいます」
校舎の奥で、
また一つ、不快な一日が始まろうとしていた。
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