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第三章第五節collapse6
見えない指先
翔子の素肌に、静かな冷気が纏いついていた。
何も纏っていないはずのこの身体は、
どこか重い布を掛けられたように感じられた。
それは羞恥の名残か、
観察され続けてきた記憶の重みか。
リビングのソファの上、
身を寄せるようにして座る翔子の唇が、
かすかに動いた。
「……シャワーを浴びさせてください。そのあと……ベッドで」
山路は応えない。
その沈黙が、まるで剃刀のように空気を裂いた。
「ここじゃ……いやなんです……。せめて……ちゃんと……」
言葉に自分の願いを込めようとするたび、声はしぼんでいく。
だが、それでも翔子は訴えたかった。
せめて、行為を“愛”のように錯覚させられる空間で、
すべてを終わらせたかった。
山路はようやく、微笑んだ。
だが、その笑みには慈愛も、妥協もなかった。
「翔子さん」
名を呼ぶ声が、やけに静かだった。
「あなたは……まだ、勘違いしているようですね」
「え……?」
「僕が欲しいのは、“あなたとの交わり”ではない。
……“壊れるあなた”です」
その言葉は、甘さを含んだ毒のようだった。
喉を通った瞬間、翔子の中で何かがはっきりと崩れた。
「壊れていくところを、記録したいんです。
あなたが“八神翔子”としての形を失っていく過程を」
翔子の唇が震えた。
だが声にならなかった。
「さぁ……そろそろ、次の段階に進みましょう」
山路はそう言いながら、
椅子に深く腰掛けると、両膝を開いた。
静かに、指を一本立てて顎をなぞる仕草は、
まるで医師のようだった。
「……“今度は僕の身体を、観察していただきます”」
その言葉に、翔子の心拍が跳ね上がる。
「それは……っ、そんなの……絶対に、嫌……です」
声はかすれていた。
だが、必死だった。
「……主人以外の人と……そういうこと……したくありません。
絶対に……っ、ありえない。……ここは……わたしの、家なんです。
子どもたちが、帰ってくる場所なんです……」
山路は頷いた。
だが、その仕草には同意ではなく、
“予想通り”という余裕が滲んでいた。
「分かりますよ。ごもっともです。正論です。
……でも、正論では、もう逃げられません」
カバンからタブレットを取り出す。
そして、その光を翔子の目の前で灯した。
画面に浮かぶ、自分の姿。
何も纏わず、観察され尽くした“記録”たち。
「これは、学校の職員会議に。
そしてこちらは、PTA保護者会の議題資料として提出できます」
翔子の呼吸が、喉で止まった。
「……そんなこと、されたら……わたし……っ」
「もう、この街には住めませんね。
でも、そうなる前に、まだできることがあります」
山路の口調は、穏やかだった。
だがその“穏やかさ”は、すでに翳りを孕んだ支配の言語だった。
「あなたは……すでに、僕の前で全てを晒しました。
ならば、あとは……“僕の身体”で、観察されてください」
翔子は目を閉じた。
逃げ道は、なかった。
行くも地獄、戻るも地獄。
ならば――
彼女は、決意した。
“観察対象としての女”として。
“母でも妻でもない存在”として。
「……どうすれば、いいんですか……」
山路は、微笑んだ。
「まずは……あなたの口で、
僕のズボンのジッパーを下ろしてください」
翔子は目を開ける。
翔子の視線の先、
布越しでも分かる不自然な隆起が、
彼の股間に浮かんでいた。
布越しでも分かる、硬質な隆起。
ゆっくりと、翔子は膝をついた。
手は使わない。
命じられたとおり、口元を近づける。
金属の匂いが、喉奥に触れた。
歯で、ジッパーの端を咥える。
カチ……カチ……
歯の振動が金属に伝わり、
音を立ててジッパーが降ろされていく。
山路の呼気がわずかに熱を帯びた。
そして、翔子の耳元に静かに囁いた。
「そのまま……続きを、どうぞ」
翔子の喉が、ごくんと震えた。
それは、呑み込むことへの微かな拒絶だった。
何も纏っていないはずのこの身体は、
どこか重い布を掛けられたように感じられた。
それは羞恥の名残か、
観察され続けてきた記憶の重みか。
リビングのソファの上、
身を寄せるようにして座る翔子の唇が、
かすかに動いた。
「……シャワーを浴びさせてください。そのあと……ベッドで」
山路は応えない。
その沈黙が、まるで剃刀のように空気を裂いた。
「ここじゃ……いやなんです……。せめて……ちゃんと……」
言葉に自分の願いを込めようとするたび、声はしぼんでいく。
だが、それでも翔子は訴えたかった。
せめて、行為を“愛”のように錯覚させられる空間で、
すべてを終わらせたかった。
山路はようやく、微笑んだ。
だが、その笑みには慈愛も、妥協もなかった。
「翔子さん」
名を呼ぶ声が、やけに静かだった。
「あなたは……まだ、勘違いしているようですね」
「え……?」
「僕が欲しいのは、“あなたとの交わり”ではない。
……“壊れるあなた”です」
その言葉は、甘さを含んだ毒のようだった。
喉を通った瞬間、翔子の中で何かがはっきりと崩れた。
「壊れていくところを、記録したいんです。
あなたが“八神翔子”としての形を失っていく過程を」
翔子の唇が震えた。
だが声にならなかった。
「さぁ……そろそろ、次の段階に進みましょう」
山路はそう言いながら、
椅子に深く腰掛けると、両膝を開いた。
静かに、指を一本立てて顎をなぞる仕草は、
まるで医師のようだった。
「……“今度は僕の身体を、観察していただきます”」
その言葉に、翔子の心拍が跳ね上がる。
「それは……っ、そんなの……絶対に、嫌……です」
声はかすれていた。
だが、必死だった。
「……主人以外の人と……そういうこと……したくありません。
絶対に……っ、ありえない。……ここは……わたしの、家なんです。
子どもたちが、帰ってくる場所なんです……」
山路は頷いた。
だが、その仕草には同意ではなく、
“予想通り”という余裕が滲んでいた。
「分かりますよ。ごもっともです。正論です。
……でも、正論では、もう逃げられません」
カバンからタブレットを取り出す。
そして、その光を翔子の目の前で灯した。
画面に浮かぶ、自分の姿。
何も纏わず、観察され尽くした“記録”たち。
「これは、学校の職員会議に。
そしてこちらは、PTA保護者会の議題資料として提出できます」
翔子の呼吸が、喉で止まった。
「……そんなこと、されたら……わたし……っ」
「もう、この街には住めませんね。
でも、そうなる前に、まだできることがあります」
山路の口調は、穏やかだった。
だがその“穏やかさ”は、すでに翳りを孕んだ支配の言語だった。
「あなたは……すでに、僕の前で全てを晒しました。
ならば、あとは……“僕の身体”で、観察されてください」
翔子は目を閉じた。
逃げ道は、なかった。
行くも地獄、戻るも地獄。
ならば――
彼女は、決意した。
“観察対象としての女”として。
“母でも妻でもない存在”として。
「……どうすれば、いいんですか……」
山路は、微笑んだ。
「まずは……あなたの口で、
僕のズボンのジッパーを下ろしてください」
翔子は目を開ける。
翔子の視線の先、
布越しでも分かる不自然な隆起が、
彼の股間に浮かんでいた。
布越しでも分かる、硬質な隆起。
ゆっくりと、翔子は膝をついた。
手は使わない。
命じられたとおり、口元を近づける。
金属の匂いが、喉奥に触れた。
歯で、ジッパーの端を咥える。
カチ……カチ……
歯の振動が金属に伝わり、
音を立ててジッパーが降ろされていく。
山路の呼気がわずかに熱を帯びた。
そして、翔子の耳元に静かに囁いた。
「そのまま……続きを、どうぞ」
翔子の喉が、ごくんと震えた。
それは、呑み込むことへの微かな拒絶だった。
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