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30 45年後の話
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「ん……」
「目が冷めたか、愚か者」
冷ややかな物言いにぼやけた意識が鮮明さを取り戻す。
室内は薄暗く、ガラスのローテーブルや床に置かれたモザイクガラスのランプがぼんやりと照らす。ほんの少し鼻につくハーブの香りが混じった夜風は酒で火照った体に心地がよい。
いつになく重い目蓋を持ち上げれば、ティレクはソファによりかかって窓から見える夜景を眺めていた。頭に伝わる硬い腿の感触からティレクの片腿に頭をのせ、ソファへ横になっているようだ。
どうしてティレクに膝枕をされているのか。そういえば、ヴィルスとケイブラムの間に三人目の子供が生まれた祝宴をティレクがティベルクで開いたのだ。その際、オガルス王――アリウスのもとに珍しく誘いの手紙がやってきた。
ヴィルスの婚姻相手としてティベルクにいるケイブラムを迎えに行った以来の再会もあって、いつになく酒を飲みすぎてしまった。
月明かりに照らされるティレクを見つめながら、おもむろに口を開いた。
「なあ、ティレク。俺は皇帝になってから俺なりに身を粉にして尽くしてきたつもりだ」
「それがどうした。国を治めるものならば当たり前のことだろう」
そっけない返しにアリウスは気にかけることなく淡々と呟いた。
「俺がお前に惚れてるかって聞いたとき、お前は罪もない人間を殺した俺を好きになる要素がないって言ってたけど、それって逆に言えばそれを清算したら好きになるってことだよな? なら、今の俺はどうだ」
「やはりくだらんな。今も昔も私は貴様が嫌いだ」
バッサリと切り捨てるティレクは夢――記憶と変わらない手厳しさだ。それが妙に嬉しくてアリウスはふっと口元をつり上げた。
「ところであの時なんでも一つ言うことを聞いてくれるってやつはまだ有効か」
「無効に決まっているだろう」
「保留にしてくれって俺はきちんと言ったぞ」
仰向けになって目をすがめながら文句を言えば、ティレクは相変わらずアリウスを見ないまま淡々と返してきた。
「だとしても、四十五年も保留にされるとは思わぬ」
「枷になるとか言って、俺の想いを奪ったのはお前だろ」
さらに畳みかけて責めるものの、頑としてティレクは認めるつもりないのだろう。うなじあたりに緩く結ばれた煌々と淡く輝く赤髪がかすかにティレクの肩から滑り落ちるとともに、冷ややかな視線をアリウスへ下ろした。
「思いだけじゃなく記憶を奪ってもなお、こじらせていたのだからちょうどいいだろう。まったく、なんなのだ。あの悪趣味な飛空挺やケイブラムに持たせてきたナイフは。気持ち悪いにもほどがある」
ローテーブルに置かれているグラスを手に取ってワインをあおるティレクにアリウスは酒臭い息をそっとつく。
「あのなあ、俺なりに色々悩んでたんだよ」
「どうにかしてやましいことをまとめて叶えようとしていたのだろ」
「そうやって人の純情を踏みにじるのはよくねえぞ。お前は昔から自分の」
じとりとティレクを見上げて言い返せば、ティレクは手にしていたグラスの底をアリウスのこめかみにぐりぐりと押し付けた。
「複数の女性と子どもを作っておいて、なにが純情だ」
「それとこれは別だろう。お前が女だったら既成事実作って意地でも返さなかった」
途端にティレクの目尻がピクリと震えた。そして、無機質な金色の瞳が隠すことなく軽蔑をたっぷりこめた視線を突きつけてきた。
「女だったらだと? なら、男の私にいまだ未練タラタラなのはどういうことか説明してほしいものだ」
「あーいや。さっきの言葉の綾で。そういう意味じゃなくてな?」
先ほどよりも強くグラスの底がこめかみに押し当てられる。職人が作ったこともありグラスの底は精巧なカットが施されてある。あいにく今は精巧さが鈍器として拍車をかけていた。
痛みに顔をしかめながら声を絞り出した。
「俺ばっか責めているけど、お前だって婚約者がいただろうが」
「まるでその言い方だと、私にケニスがいなかったら貴様になびいていたと言いたげだな」
こめかみに押し付けていたグラスが離れた代わりにティレクの手がアリウスの髪を指先ですいてくる。すべてを知っていると言わんばかりの手付きにアリウスは唇を噛み締めた。
四十五年経って、お互い子どももできて、孫の顔もみられた。
ティレクも自分もその分だけ歳を取った。それでもアリウスにとって今でもティレクは美しい。よく見れば目元や手の甲に刻まれたシワも、少し艶がなくなった小麦色の肌と煌々と淡く輝く赤い髪に反して、意志が強い声。そして、はじめて出会ったときと変わらない態度。そのどれもがアリウスにとっては愛おしいのは変わらない。
顎の下と耳の裏を独特のタコがついた無骨でほっそりとした指が交互に撫でていく。本音を言えば、ティレクの愛撫だけで高ぶりが元気になってしまいそうだ。
だが、せっかくの触れ合いを手放したくない。興奮しつつも自分に落ち着けと呪詛のように頭の中で繰り返す。そんなアリウスの気持ちなど露も気にかけず、ティレクが聞いてきた。
「ところで、さっき言っていたお願いとやらは、時効じゃなかったらなにを私に頼む気だったのだ」
「お前の、残り…を……」
「はっきり喋れ。聞こえぬ」
耳たぶをつねられて、痛みで呻く。
いい年してなにを恥ずかしがる必要がある。そう思ってもティレクが関わると事情が変わる。両手で顔を覆いながら、精一杯声を張り上げた。
「お前の残り人生、全部俺にくれって言ったんだよ!」
「言うのはいいが、せめて顔を隠さず堂々と言ったらどうだ」
「うるせえっ! 俺がどんな気持ちで口にしたかお前にわからねえだろ!!」
ティレクの言ったとおり、年甲斐もないのは認める。自分もたくさんの経験をしていい年になった。なったにもかかわらず、ずっと傍にいてほしいというたった一言すら口にできなかったのだ。
なにより今はこれでもかと真っ赤になって情けない顔をしているから見られたくない。
「駄々っ子か。まったく、少しは年相応に振る舞えるよう見直したらどうだ」
「こんな風になるのはお前の前だけだっつーの」
「…………お前が羞恥を感じる点は本当に謎だな」
深い溜め息をついたティレクは耳たぶをつねっていた手を離すと、片手に持っていたグラスをテーブルの上においた。そして、姿勢を直したのか膝枕されている頭が少し揺れるとともにため息が頭上で聞こえた。
「そもそも、貴様はなにを勘違いしている」
「勘違いって。お前、何でも言うこと聞くって言っただろ」
指の隙間からティレクを睨むと、アリウスを見下ろす金色の瞳がすうっと細められた。
「確かに何でも言うことを聞くと言った。が、私はオガルスで余生を暮らす気など毛頭ない」
「はぁあ?! じゃあ、約束を反故にするってことかよ!」
顔から手を離して、これでもかと不満の声をあげれば、ティレクは眉間にしわを寄せた。
「話を最後まで聞け、この愚か者。貴様は私の人生を欲せど、余生を過ごす場所は指定していないだろう」
「それがなんだっていうんだよ」
確かに残りの人生をくれとは言ったが、場所は言っていない。だが、アリウスに渡すというのであれば、つまり傍にいることだ。そしてそれはオガルスで過ごすことと同意だ。たいしてティレクはなんてことないように言い返してきた。
「なら、貴様が食客としてこの部屋で余生を過ごせばいい。そもそも、私に惚れている貴様こそ、残りの余生を私に差し出すべきなのが筋だろう」
「お前、とんでもないこと口走ってるってわかってんのか」
「わかっているとも、オガルス皇帝陛下殿」
あえて敬称をつけたティレクはふっと唇の端をつり上げて笑った。
「あー、でも。いいのか? この部屋はお前にとって、亡くなった王妃との大事な場所だろ」
モザイクガラスのランプでぼんやりと照られているベージュ色の壁を見れば、亡くなった王妃をはじめとした家族の肖像画が飾ってある。それはティレクにとって聖域だということを示すのに十分すぎる証だ。そこに自分が居座っていいものなのか。
打って変わって弱腰になったアリウスへティレクはふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「そうだ、この部屋は私にとって愛するケニスとの思い出が詰まった大事な場所だ。だから、この部屋の右側に新たな部屋を作る。貴様はそこで寝起きしろ」
「だと思ったぜ。まあ、そうしてくれると俺も助かる」
さすがに王妃や家族の肖像画のある部屋で過ごすのはなんともいえない後ろめたさを覚える。ならば、部屋ができる間に、皇帝の地位を含めた諸々の手続きをすませるだけだ。
安心したこともあり、どこかこわばっていた体を弛緩させて目を伏せる。かすかな衣擦れとともに柔らかな毛先が頬を撫でた。ついで甘苦い香りが鼻孔を通り抜けたと脳が知覚したと同時に唇へ温かい感触が伝わった。ハッとして目を開いたときには、ティレクの顔はすでに離れていた。
「い、今」
「勘違いするな。私が生涯愛するのはケニスだけだ。さっきも言ったとおり、貴様のことは今も変わらず嫌いだ。……だから、お前は私に対するその想いを一生こじらせ続ければいい」
とんと心臓あたり指を突き立てられ、つり上げっている目尻をわずかに下げてティレクが微笑む。その微笑みにアリウスは唇を噛みしめると、ティレクの手ごと胸元をぎゅうっと握った。
「だったら、残りの人生かけてどれだけ俺がお前のことを好きか身をもって教えてやる」
「できるものならやってみろ」
「ああ、後悔するぐらいやってやるよ」
どこか楽しげに告げるティレクへアリウスも挑発的な笑みを浮かべた。のそりと体を起こすと、ティレクの体を抱きしめてキスをしたのだった。
「目が冷めたか、愚か者」
冷ややかな物言いにぼやけた意識が鮮明さを取り戻す。
室内は薄暗く、ガラスのローテーブルや床に置かれたモザイクガラスのランプがぼんやりと照らす。ほんの少し鼻につくハーブの香りが混じった夜風は酒で火照った体に心地がよい。
いつになく重い目蓋を持ち上げれば、ティレクはソファによりかかって窓から見える夜景を眺めていた。頭に伝わる硬い腿の感触からティレクの片腿に頭をのせ、ソファへ横になっているようだ。
どうしてティレクに膝枕をされているのか。そういえば、ヴィルスとケイブラムの間に三人目の子供が生まれた祝宴をティレクがティベルクで開いたのだ。その際、オガルス王――アリウスのもとに珍しく誘いの手紙がやってきた。
ヴィルスの婚姻相手としてティベルクにいるケイブラムを迎えに行った以来の再会もあって、いつになく酒を飲みすぎてしまった。
月明かりに照らされるティレクを見つめながら、おもむろに口を開いた。
「なあ、ティレク。俺は皇帝になってから俺なりに身を粉にして尽くしてきたつもりだ」
「それがどうした。国を治めるものならば当たり前のことだろう」
そっけない返しにアリウスは気にかけることなく淡々と呟いた。
「俺がお前に惚れてるかって聞いたとき、お前は罪もない人間を殺した俺を好きになる要素がないって言ってたけど、それって逆に言えばそれを清算したら好きになるってことだよな? なら、今の俺はどうだ」
「やはりくだらんな。今も昔も私は貴様が嫌いだ」
バッサリと切り捨てるティレクは夢――記憶と変わらない手厳しさだ。それが妙に嬉しくてアリウスはふっと口元をつり上げた。
「ところであの時なんでも一つ言うことを聞いてくれるってやつはまだ有効か」
「無効に決まっているだろう」
「保留にしてくれって俺はきちんと言ったぞ」
仰向けになって目をすがめながら文句を言えば、ティレクは相変わらずアリウスを見ないまま淡々と返してきた。
「だとしても、四十五年も保留にされるとは思わぬ」
「枷になるとか言って、俺の想いを奪ったのはお前だろ」
さらに畳みかけて責めるものの、頑としてティレクは認めるつもりないのだろう。うなじあたりに緩く結ばれた煌々と淡く輝く赤髪がかすかにティレクの肩から滑り落ちるとともに、冷ややかな視線をアリウスへ下ろした。
「思いだけじゃなく記憶を奪ってもなお、こじらせていたのだからちょうどいいだろう。まったく、なんなのだ。あの悪趣味な飛空挺やケイブラムに持たせてきたナイフは。気持ち悪いにもほどがある」
ローテーブルに置かれているグラスを手に取ってワインをあおるティレクにアリウスは酒臭い息をそっとつく。
「あのなあ、俺なりに色々悩んでたんだよ」
「どうにかしてやましいことをまとめて叶えようとしていたのだろ」
「そうやって人の純情を踏みにじるのはよくねえぞ。お前は昔から自分の」
じとりとティレクを見上げて言い返せば、ティレクは手にしていたグラスの底をアリウスのこめかみにぐりぐりと押し付けた。
「複数の女性と子どもを作っておいて、なにが純情だ」
「それとこれは別だろう。お前が女だったら既成事実作って意地でも返さなかった」
途端にティレクの目尻がピクリと震えた。そして、無機質な金色の瞳が隠すことなく軽蔑をたっぷりこめた視線を突きつけてきた。
「女だったらだと? なら、男の私にいまだ未練タラタラなのはどういうことか説明してほしいものだ」
「あーいや。さっきの言葉の綾で。そういう意味じゃなくてな?」
先ほどよりも強くグラスの底がこめかみに押し当てられる。職人が作ったこともありグラスの底は精巧なカットが施されてある。あいにく今は精巧さが鈍器として拍車をかけていた。
痛みに顔をしかめながら声を絞り出した。
「俺ばっか責めているけど、お前だって婚約者がいただろうが」
「まるでその言い方だと、私にケニスがいなかったら貴様になびいていたと言いたげだな」
こめかみに押し付けていたグラスが離れた代わりにティレクの手がアリウスの髪を指先ですいてくる。すべてを知っていると言わんばかりの手付きにアリウスは唇を噛み締めた。
四十五年経って、お互い子どももできて、孫の顔もみられた。
ティレクも自分もその分だけ歳を取った。それでもアリウスにとって今でもティレクは美しい。よく見れば目元や手の甲に刻まれたシワも、少し艶がなくなった小麦色の肌と煌々と淡く輝く赤い髪に反して、意志が強い声。そして、はじめて出会ったときと変わらない態度。そのどれもがアリウスにとっては愛おしいのは変わらない。
顎の下と耳の裏を独特のタコがついた無骨でほっそりとした指が交互に撫でていく。本音を言えば、ティレクの愛撫だけで高ぶりが元気になってしまいそうだ。
だが、せっかくの触れ合いを手放したくない。興奮しつつも自分に落ち着けと呪詛のように頭の中で繰り返す。そんなアリウスの気持ちなど露も気にかけず、ティレクが聞いてきた。
「ところで、さっき言っていたお願いとやらは、時効じゃなかったらなにを私に頼む気だったのだ」
「お前の、残り…を……」
「はっきり喋れ。聞こえぬ」
耳たぶをつねられて、痛みで呻く。
いい年してなにを恥ずかしがる必要がある。そう思ってもティレクが関わると事情が変わる。両手で顔を覆いながら、精一杯声を張り上げた。
「お前の残り人生、全部俺にくれって言ったんだよ!」
「言うのはいいが、せめて顔を隠さず堂々と言ったらどうだ」
「うるせえっ! 俺がどんな気持ちで口にしたかお前にわからねえだろ!!」
ティレクの言ったとおり、年甲斐もないのは認める。自分もたくさんの経験をしていい年になった。なったにもかかわらず、ずっと傍にいてほしいというたった一言すら口にできなかったのだ。
なにより今はこれでもかと真っ赤になって情けない顔をしているから見られたくない。
「駄々っ子か。まったく、少しは年相応に振る舞えるよう見直したらどうだ」
「こんな風になるのはお前の前だけだっつーの」
「…………お前が羞恥を感じる点は本当に謎だな」
深い溜め息をついたティレクは耳たぶをつねっていた手を離すと、片手に持っていたグラスをテーブルの上においた。そして、姿勢を直したのか膝枕されている頭が少し揺れるとともにため息が頭上で聞こえた。
「そもそも、貴様はなにを勘違いしている」
「勘違いって。お前、何でも言うこと聞くって言っただろ」
指の隙間からティレクを睨むと、アリウスを見下ろす金色の瞳がすうっと細められた。
「確かに何でも言うことを聞くと言った。が、私はオガルスで余生を暮らす気など毛頭ない」
「はぁあ?! じゃあ、約束を反故にするってことかよ!」
顔から手を離して、これでもかと不満の声をあげれば、ティレクは眉間にしわを寄せた。
「話を最後まで聞け、この愚か者。貴様は私の人生を欲せど、余生を過ごす場所は指定していないだろう」
「それがなんだっていうんだよ」
確かに残りの人生をくれとは言ったが、場所は言っていない。だが、アリウスに渡すというのであれば、つまり傍にいることだ。そしてそれはオガルスで過ごすことと同意だ。たいしてティレクはなんてことないように言い返してきた。
「なら、貴様が食客としてこの部屋で余生を過ごせばいい。そもそも、私に惚れている貴様こそ、残りの余生を私に差し出すべきなのが筋だろう」
「お前、とんでもないこと口走ってるってわかってんのか」
「わかっているとも、オガルス皇帝陛下殿」
あえて敬称をつけたティレクはふっと唇の端をつり上げて笑った。
「あー、でも。いいのか? この部屋はお前にとって、亡くなった王妃との大事な場所だろ」
モザイクガラスのランプでぼんやりと照られているベージュ色の壁を見れば、亡くなった王妃をはじめとした家族の肖像画が飾ってある。それはティレクにとって聖域だということを示すのに十分すぎる証だ。そこに自分が居座っていいものなのか。
打って変わって弱腰になったアリウスへティレクはふんと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「そうだ、この部屋は私にとって愛するケニスとの思い出が詰まった大事な場所だ。だから、この部屋の右側に新たな部屋を作る。貴様はそこで寝起きしろ」
「だと思ったぜ。まあ、そうしてくれると俺も助かる」
さすがに王妃や家族の肖像画のある部屋で過ごすのはなんともいえない後ろめたさを覚える。ならば、部屋ができる間に、皇帝の地位を含めた諸々の手続きをすませるだけだ。
安心したこともあり、どこかこわばっていた体を弛緩させて目を伏せる。かすかな衣擦れとともに柔らかな毛先が頬を撫でた。ついで甘苦い香りが鼻孔を通り抜けたと脳が知覚したと同時に唇へ温かい感触が伝わった。ハッとして目を開いたときには、ティレクの顔はすでに離れていた。
「い、今」
「勘違いするな。私が生涯愛するのはケニスだけだ。さっきも言ったとおり、貴様のことは今も変わらず嫌いだ。……だから、お前は私に対するその想いを一生こじらせ続ければいい」
とんと心臓あたり指を突き立てられ、つり上げっている目尻をわずかに下げてティレクが微笑む。その微笑みにアリウスは唇を噛みしめると、ティレクの手ごと胸元をぎゅうっと握った。
「だったら、残りの人生かけてどれだけ俺がお前のことを好きか身をもって教えてやる」
「できるものならやってみろ」
「ああ、後悔するぐらいやってやるよ」
どこか楽しげに告げるティレクへアリウスも挑発的な笑みを浮かべた。のそりと体を起こすと、ティレクの体を抱きしめてキスをしたのだった。
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