25 / 82
第5話 隷属の鍵(エスクラブ・オブ・キー)
青黒の足音
しおりを挟む
イラエフの森を北西に進み、ヴィアーヌ湖を抜けた頃。
二体の血に飢えた魔獣が命令を待ちながら、魔族と人間の集団を追跡する。魔獣除けが張られていて、普通の魔獣なら追跡などすることは無いが、彼らの意思には全く関係なかった。
ガルムと呼ばれる中型の狼犬型の魔獣。
スミレを襲った同じ種であるが、見た目はおろか精神状態も変化している。岩をも噛み砕く牙と爪は健在、刃を通さないダイアモンド並みの硬さを持った毛並みには、青黒いオーラを纏っている。
群れを成さないで単独行動をする気高い魔獣であるはずが、二体で行動をしている。ガルムが相対するとき、それは縄張り争いが始まることを意味する。
しかし、争いをすることなくただ静観するのみ。
ガルムたちの意思は既に乗っ取られている。首筋には“隷属の鍵”による鍵穴の印が刻まれている。
計画は刻々と開始の合図を待っている。
「しっかし、この森かなり広いよな」
歩くことに飽きたのか、グレンは手を頭の後ろに組みながらあくびをする。
「そうね、でも広い分迷いやすいから、太陽の位置確認は常にしていないと危ないわ」
懐中時計をマントから時々取り出しては、太陽に向ける作業を行い方角を確認する。
「時計で方角なんてわかんのか?」
勘で方角が分かると自負するグレンであったが、物事を慎重に捉えるイルザには却下された。確実な方法で方角を確認する。
「こうやって時計の短針を太陽に向けて、針と十二の間が南になるのよ。こうすれば確実に分かるから勘になんて頼らなくてもいいの」
皮肉たっぷりでグレンに言葉を返す。
「・・・姉さんまたグレンにいじわるしてる」
「ソウダソウダー! 意地悪スルナー!」
「し、してないわよッ! ってなんであんたは棒読みなのよ!」
緊張感の欠片もないイルザ一行。その中で一人、無言で歩く少女スミレ。
(どうしてこんなに緊張感が抜けてるですか。これから起こることも知らないくせに・・・です)
無意識に風船のように膨らんでいく罪悪感は苛立ちを募らせていた。
この場で一番緊張しているのは自分だろう。これから行うことに、感情が爆発しそうになる。
(誰か、誰かこの鼓動を止めてほしい・・・です)
胸が痛くなる。
しかし、もう計画は止められない、制御できない。
どうにもできないことに体と心が張り裂けそうだった。
イルザ一行の最後尾を歩くスミレ。
誰にも見えない様に小粒の魔宝石を砕いた。
先行していたグレンとエルザ、それに後ろから付いていくようにイルザ、スミレの順で歩く。
(・・・ッ!? 何かの気配がする!?)
「・・・どうしたのグレン?」
緊張した表情に突然変わってしまったグレンに尋ねるエルザ。
「・・・! イルザ! 敵だ!」
グレンが叫んで一瞬のことであった。
二体のガルムがグレンとエルザ、イルザとスミレの間を割るように襲い掛かる。
「ガルム!? 魔獣除けをしていたら近づいてこないはずよ!?」
普通なら起こりえない出来事に驚愕の声を上げるイルザ。しかし、素早く“妖精の輝剣”を手に取り戦闘態勢に移ろうとした。
「ごめんなさい・・・です」
黄金の光がイルザの首筋を打ち、そのまま倒れこんだ。
すると、一体のガルムが気絶したイルザを咥え、背に乗せる。
「・・・姉さん!」
もう一体のガルムはエルザとグレンを通さないように足止めをする。
グレンはガルム越しに見ていた。スミレが、倒したはずのホルグが使用していた弓、“極光の月弓”を使ってイルザを気絶させていたところを。
スミレはイルザを載せたガルムに素早く跨ぎ合図を送る。二人を乗せたガルムは森の中へ消えていった。
「イルザァァァァァ!」
グレンの悲痛の叫びは届かなかった。
「・・・グレン!」
「・・・・・・ああ、わかってる」
目の前に対峙する不気味なオーラを纏うガルム。
「邪魔だぁぁぁ!」
グレンは短剣型の“妖精の輝剣”をガルムへ投擲(とうてき)した。
「・・・駄目よ! 物理攻撃は効かないわ!」
エルザが叫んだ通り短剣は弾かれた。
「くそッ!」
「・・・私が! “ボルティック”」
光属性の下位魔術を放つエルザ。しかし、そのオーラは不気味なオーラによって弾かれてしまった。
「・・・そんな! 魔術も効かないなんて・・・」
圧倒的な防御力を誇るガルムがグレンとエルザの前に立ちふさがる。
二体の血に飢えた魔獣が命令を待ちながら、魔族と人間の集団を追跡する。魔獣除けが張られていて、普通の魔獣なら追跡などすることは無いが、彼らの意思には全く関係なかった。
ガルムと呼ばれる中型の狼犬型の魔獣。
スミレを襲った同じ種であるが、見た目はおろか精神状態も変化している。岩をも噛み砕く牙と爪は健在、刃を通さないダイアモンド並みの硬さを持った毛並みには、青黒いオーラを纏っている。
群れを成さないで単独行動をする気高い魔獣であるはずが、二体で行動をしている。ガルムが相対するとき、それは縄張り争いが始まることを意味する。
しかし、争いをすることなくただ静観するのみ。
ガルムたちの意思は既に乗っ取られている。首筋には“隷属の鍵”による鍵穴の印が刻まれている。
計画は刻々と開始の合図を待っている。
「しっかし、この森かなり広いよな」
歩くことに飽きたのか、グレンは手を頭の後ろに組みながらあくびをする。
「そうね、でも広い分迷いやすいから、太陽の位置確認は常にしていないと危ないわ」
懐中時計をマントから時々取り出しては、太陽に向ける作業を行い方角を確認する。
「時計で方角なんてわかんのか?」
勘で方角が分かると自負するグレンであったが、物事を慎重に捉えるイルザには却下された。確実な方法で方角を確認する。
「こうやって時計の短針を太陽に向けて、針と十二の間が南になるのよ。こうすれば確実に分かるから勘になんて頼らなくてもいいの」
皮肉たっぷりでグレンに言葉を返す。
「・・・姉さんまたグレンにいじわるしてる」
「ソウダソウダー! 意地悪スルナー!」
「し、してないわよッ! ってなんであんたは棒読みなのよ!」
緊張感の欠片もないイルザ一行。その中で一人、無言で歩く少女スミレ。
(どうしてこんなに緊張感が抜けてるですか。これから起こることも知らないくせに・・・です)
無意識に風船のように膨らんでいく罪悪感は苛立ちを募らせていた。
この場で一番緊張しているのは自分だろう。これから行うことに、感情が爆発しそうになる。
(誰か、誰かこの鼓動を止めてほしい・・・です)
胸が痛くなる。
しかし、もう計画は止められない、制御できない。
どうにもできないことに体と心が張り裂けそうだった。
イルザ一行の最後尾を歩くスミレ。
誰にも見えない様に小粒の魔宝石を砕いた。
先行していたグレンとエルザ、それに後ろから付いていくようにイルザ、スミレの順で歩く。
(・・・ッ!? 何かの気配がする!?)
「・・・どうしたのグレン?」
緊張した表情に突然変わってしまったグレンに尋ねるエルザ。
「・・・! イルザ! 敵だ!」
グレンが叫んで一瞬のことであった。
二体のガルムがグレンとエルザ、イルザとスミレの間を割るように襲い掛かる。
「ガルム!? 魔獣除けをしていたら近づいてこないはずよ!?」
普通なら起こりえない出来事に驚愕の声を上げるイルザ。しかし、素早く“妖精の輝剣”を手に取り戦闘態勢に移ろうとした。
「ごめんなさい・・・です」
黄金の光がイルザの首筋を打ち、そのまま倒れこんだ。
すると、一体のガルムが気絶したイルザを咥え、背に乗せる。
「・・・姉さん!」
もう一体のガルムはエルザとグレンを通さないように足止めをする。
グレンはガルム越しに見ていた。スミレが、倒したはずのホルグが使用していた弓、“極光の月弓”を使ってイルザを気絶させていたところを。
スミレはイルザを載せたガルムに素早く跨ぎ合図を送る。二人を乗せたガルムは森の中へ消えていった。
「イルザァァァァァ!」
グレンの悲痛の叫びは届かなかった。
「・・・グレン!」
「・・・・・・ああ、わかってる」
目の前に対峙する不気味なオーラを纏うガルム。
「邪魔だぁぁぁ!」
グレンは短剣型の“妖精の輝剣”をガルムへ投擲(とうてき)した。
「・・・駄目よ! 物理攻撃は効かないわ!」
エルザが叫んだ通り短剣は弾かれた。
「くそッ!」
「・・・私が! “ボルティック”」
光属性の下位魔術を放つエルザ。しかし、そのオーラは不気味なオーラによって弾かれてしまった。
「・・・そんな! 魔術も効かないなんて・・・」
圧倒的な防御力を誇るガルムがグレンとエルザの前に立ちふさがる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる