74 / 232
20章 宮節日 奉納の儀
①
それは眩いばかりの圧倒的な存在感だった。
誰よりも純白のタラーレンと、その上に同じく純白の法衣を見に纏う姿は、間違いなくこの国の星教を司るに相応しい神聖さだ。
ゆったりとした足取りで入場したラシードは、バーリミトラウスを頭上に戴き、まっすぐに祭壇へと進んでいく。
傅く妃達には目もくれず、ただまっすぐに祭壇へと向かっていくその姿は、誠に神々しい。
その後ろを三鉢のアルバシウムを持った神女が従っていた。
一番初めのアルバシウムは、大振りの赤い花弁を付けていた。
2番目のアルバシウムは、小ぶりであるが瑞々しい。
そして3番目のアルバシウムは異質であった。
深い青色のそれは、まるで他の2つと同じ花だとは思えない。
他のものより大ぶりで瑞々しく、まるで自分が長だというように咲き誇っている。
「あれは何……?」
マルグリットが小さく呟いた。
「まぁ…….。」
リアナも驚きを隠せずにいる。
アリムも、他のアルバシウムと並んではじめて、自分の花が特殊だという事に今更ながらに気がついた。
居た堪れなさに、身がすくむ。
この花が、アルバシウムなのかも怪しいところだ。
アルバシウムは育ての親の前に運ばれ、神女は妃達に深々と頭を下げる。
「今年も美しい花が咲いた。」
祭壇の上で、ラシードが重々しく口を開く。
いつもの軽口ではなく、花を神聖なものとして讃える、始まりの言葉。王の賞賛の言葉を聞いた花々が、キラキラと光を放つ。
突然の魔法のような現象に、アリムは危うく歓声を上げるところだった。
ラシードは祭壇の上に置かれた聖杯に、水を湛える。
「夏節、豊穣を祈り、女神が育てし花を賜ろう。」
女神。
その言葉を聞いたマルグリットが、プッと吹き出す。
後ろに控えていた侍女も、つられたようにせせら笑いはじめた。
笑い声こそ出さないが、口元を隠した袖が、不自然に揺れている。
この中に1人。
妃の中に、女神ではないものが混ざっているという事だろう。
神聖な儀式の中に、不穏等な雑音が混ざり合う。
儀式の開始の文句だというのはわかる。しかしアリムも、自分に当てはまらない言葉に、僅かな疎外感を覚える。
リアナがアリムに『気にするな』と言うように目配せをした。
それにアリムは緩く微笑んだ。
「夏節。」
ラシードの声が凛っと響いた。
マルグリットとリアナがハッとラシードを見上げる。
「国の太母より授かった特別な花は、蒼き月へと与えられた。」
例年の口上にはない文句なのだ、と2人の様子を見て察する。
国の太母ーー即ち、王太后から賜った特別な花を、アリムが受け取ったと、言ったのだ。
マルグリットは悔しそうに目を吊り上げ、頬を真っ赤にする。
「此度は特別美しく花開いている事を喜ばしく思う。」
褒められ、アリムは耳を赤くして俯いた。
重々しい声ではあったが、確かに思いやりに満ちた言葉である。ほわりと胸の奥が温かくなる。
「夏節の祝いを始めよう。祝福の水を授ける。アルバシウムを前へ。」
ラシードが聖水に手をかざすと、キラキラと光の粒が溢れ出す。砂金が舞っているようだった。溢れる光の美しさに目を奪われる。あっという間に聖水は、黄金の液体に変わった。
「アリム。」
リアナが小さな声でアリムを促す。
アリムはハッとして、習った通りに、アルバシウムを両手に持って立ち上がった。
3人は祭壇の前に置かれた小さな祭壇に、それぞれのアルバシウムをおいた。そしてその前に跪き、拳を頭上に掲げる。ラシードはその頭上に、さらりと聖水を振りかけた。
冷たさに、体が跳ね上がる。
しかしそれと同時に、体が軽くなったような気がした。
「祝福の花を。」
ラシードが厳かに告げる。
妃がアルバシウムをラシードの前の祭壇に上げ、聖水を賜る手順だ。
順番はアリムは一番最後であったはず。当然の流れで、マルグリットが立ち上がるために、長衣の裾を払った。
その瞬間、ラシードとリアナが、目を合わせる。リアナは心得たように微笑むと、突然アリムの背中をぐいっと押した。
「え?」
誰よりも純白のタラーレンと、その上に同じく純白の法衣を見に纏う姿は、間違いなくこの国の星教を司るに相応しい神聖さだ。
ゆったりとした足取りで入場したラシードは、バーリミトラウスを頭上に戴き、まっすぐに祭壇へと進んでいく。
傅く妃達には目もくれず、ただまっすぐに祭壇へと向かっていくその姿は、誠に神々しい。
その後ろを三鉢のアルバシウムを持った神女が従っていた。
一番初めのアルバシウムは、大振りの赤い花弁を付けていた。
2番目のアルバシウムは、小ぶりであるが瑞々しい。
そして3番目のアルバシウムは異質であった。
深い青色のそれは、まるで他の2つと同じ花だとは思えない。
他のものより大ぶりで瑞々しく、まるで自分が長だというように咲き誇っている。
「あれは何……?」
マルグリットが小さく呟いた。
「まぁ…….。」
リアナも驚きを隠せずにいる。
アリムも、他のアルバシウムと並んではじめて、自分の花が特殊だという事に今更ながらに気がついた。
居た堪れなさに、身がすくむ。
この花が、アルバシウムなのかも怪しいところだ。
アルバシウムは育ての親の前に運ばれ、神女は妃達に深々と頭を下げる。
「今年も美しい花が咲いた。」
祭壇の上で、ラシードが重々しく口を開く。
いつもの軽口ではなく、花を神聖なものとして讃える、始まりの言葉。王の賞賛の言葉を聞いた花々が、キラキラと光を放つ。
突然の魔法のような現象に、アリムは危うく歓声を上げるところだった。
ラシードは祭壇の上に置かれた聖杯に、水を湛える。
「夏節、豊穣を祈り、女神が育てし花を賜ろう。」
女神。
その言葉を聞いたマルグリットが、プッと吹き出す。
後ろに控えていた侍女も、つられたようにせせら笑いはじめた。
笑い声こそ出さないが、口元を隠した袖が、不自然に揺れている。
この中に1人。
妃の中に、女神ではないものが混ざっているという事だろう。
神聖な儀式の中に、不穏等な雑音が混ざり合う。
儀式の開始の文句だというのはわかる。しかしアリムも、自分に当てはまらない言葉に、僅かな疎外感を覚える。
リアナがアリムに『気にするな』と言うように目配せをした。
それにアリムは緩く微笑んだ。
「夏節。」
ラシードの声が凛っと響いた。
マルグリットとリアナがハッとラシードを見上げる。
「国の太母より授かった特別な花は、蒼き月へと与えられた。」
例年の口上にはない文句なのだ、と2人の様子を見て察する。
国の太母ーー即ち、王太后から賜った特別な花を、アリムが受け取ったと、言ったのだ。
マルグリットは悔しそうに目を吊り上げ、頬を真っ赤にする。
「此度は特別美しく花開いている事を喜ばしく思う。」
褒められ、アリムは耳を赤くして俯いた。
重々しい声ではあったが、確かに思いやりに満ちた言葉である。ほわりと胸の奥が温かくなる。
「夏節の祝いを始めよう。祝福の水を授ける。アルバシウムを前へ。」
ラシードが聖水に手をかざすと、キラキラと光の粒が溢れ出す。砂金が舞っているようだった。溢れる光の美しさに目を奪われる。あっという間に聖水は、黄金の液体に変わった。
「アリム。」
リアナが小さな声でアリムを促す。
アリムはハッとして、習った通りに、アルバシウムを両手に持って立ち上がった。
3人は祭壇の前に置かれた小さな祭壇に、それぞれのアルバシウムをおいた。そしてその前に跪き、拳を頭上に掲げる。ラシードはその頭上に、さらりと聖水を振りかけた。
冷たさに、体が跳ね上がる。
しかしそれと同時に、体が軽くなったような気がした。
「祝福の花を。」
ラシードが厳かに告げる。
妃がアルバシウムをラシードの前の祭壇に上げ、聖水を賜る手順だ。
順番はアリムは一番最後であったはず。当然の流れで、マルグリットが立ち上がるために、長衣の裾を払った。
その瞬間、ラシードとリアナが、目を合わせる。リアナは心得たように微笑むと、突然アリムの背中をぐいっと押した。
「え?」
あなたにおすすめの小説
夜のカフェで君を待つ
みんと
BL
社会人4年目21歳の湊は夜カフェマロンに行く。
そこで働く凛に一目惚れ。
5歳年上の彼に会うため、毎週2時間もかけてカフェに通い徐々に仲良くなっていくが…
年下攻め ハッピーエンド
呪われ薬師、最強の仲間たちと旅に出る~美味しそうだと思っているのは秘密です~
なーの( *¯ ꒳¯*)ナー
BL
10年前、禁じられた呪術を執り行ったダークエルフの村が滅んだ。
「食らいなさい。死にたくなければ、食らい続けるの。」
生き残ったただひとりの少年が、アイザックだった。
時は流れ、アイザックは魔王城へ向かう旅に出る。人間化してしまったこの体を戻す薬を作るため、材料となる魔物を狩りに行くのだ。だが、戦闘のできない非力な人間になったアイザックひとりでは厳しい。
冒険者として登録し、パーティーメンバーを募ることにしたのだった。
0時更新
以前pixivで掲載していた『背徳gluttony』マオルートの加筆、完結版になります。
二章から腐ります。
三章から少しシリアス魔獣編。
ちゃんとハッピーエンドなのでご安心を。2026/4/21の投稿で完結予定。
2026/3/29 表紙画像 変更
登場人物
アイザック・スティール
今や人間の薬師。訳あって魔王城を目指す。
ジュアン・パインリブ
ギルドで暇を持て余す少年。まだまだ未熟な魔族。アイザックの最初のパーティーメンバー。
魔王ハーゲン(マオ)
次代の魔王。暇を持て余していたところ、アイザックたちに出会い、旅に同行する。
亡霊ハロ
災厄の魔女の弟子。アイザックの呪いや振る舞いに興味を持ち、パーティーに加わる。変態。
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります