星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ

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20章 宮節日 奉納の儀

 それは眩いばかりの圧倒的な存在感だった。

 誰よりも純白のタラーレンと、その上に同じく純白の法衣を見に纏う姿は、間違いなくこの国の星教を司るに相応しい神聖さだ。
 ゆったりとした足取りで入場したラシードは、バーリミトラウスを頭上に戴き、まっすぐに祭壇へと進んでいく。
 傅く妃達には目もくれず、ただまっすぐに祭壇へと向かっていくその姿は、誠に神々しい。

 その後ろを三鉢のアルバシウムを持った神女が従っていた。

 一番初めのアルバシウムは、大振りの赤い花弁を付けていた。
 2番目のアルバシウムは、小ぶりであるが瑞々しい。
 そして3番目のアルバシウムは異質であった。
 深い青色のそれは、まるで他の2つと同じ花だとは思えない。

 他のものより大ぶりで瑞々しく、まるで自分が長だというように咲き誇っている。

「あれは何……?」

 マルグリットが小さく呟いた。

「まぁ…….。」

 リアナも驚きを隠せずにいる。
 アリムも、他のアルバシウムと並んではじめて、自分の花が特殊だという事に今更ながらに気がついた。

 居た堪れなさに、身がすくむ。

 この花が、アルバシウムなのかも怪しいところだ。
 アルバシウムは育ての親の前に運ばれ、神女は妃達に深々と頭を下げる。

「今年も美しい花が咲いた。」

 祭壇の上で、ラシードが重々しく口を開く。
 いつもの軽口ではなく、花を神聖なものとして讃える、始まりの言葉。王の賞賛の言葉を聞いた花々が、キラキラと光を放つ。
 突然の魔法のような現象に、アリムは危うく歓声を上げるところだった。

 ラシードは祭壇の上に置かれた聖杯に、水を湛える。

「夏節、豊穣を祈り、女神が育てし花を賜ろう。」

 女神。

 その言葉を聞いたマルグリットが、プッと吹き出す。
 後ろに控えていた侍女も、つられたようにせせら笑いはじめた。
 笑い声こそ出さないが、口元を隠した袖が、不自然に揺れている。

 この中に1人。

 妃の中に、女神ではないものが混ざっているという事だろう。
 神聖な儀式の中に、不穏等な雑音が混ざり合う。

 儀式の開始の文句だというのはわかる。しかしアリムも、自分に当てはまらない言葉に、僅かな疎外感を覚える。

 リアナがアリムに『気にするな』と言うように目配せをした。
 それにアリムは緩く微笑んだ。

「夏節。」

 ラシードの声が凛っと響いた。
 マルグリットとリアナがハッとラシードを見上げる。

「国の太母より授かった特別な花は、蒼き月へと与えられた。」

 例年の口上にはない文句なのだ、と2人の様子を見て察する。
 国の太母ーー即ち、王太后から賜った特別な花を、アリムが受け取ったと、言ったのだ。
 マルグリットは悔しそうに目を吊り上げ、頬を真っ赤にする。

「此度は特別美しく花開いている事を喜ばしく思う。」

 褒められ、アリムは耳を赤くして俯いた。
 重々しい声ではあったが、確かに思いやりに満ちた言葉である。ほわりと胸の奥が温かくなる。

「夏節の祝いを始めよう。祝福の水を授ける。アルバシウムを前へ。」

 ラシードが聖水に手をかざすと、キラキラと光の粒が溢れ出す。砂金が舞っているようだった。溢れる光の美しさに目を奪われる。あっという間に聖水は、黄金の液体に変わった。

「アリム。」

 リアナが小さな声でアリムを促す。

 アリムはハッとして、習った通りに、アルバシウムを両手に持って立ち上がった。

 3人は祭壇の前に置かれた小さな祭壇に、それぞれのアルバシウムをおいた。そしてその前に跪き、拳を頭上に掲げる。ラシードはその頭上に、さらりと聖水を振りかけた。
 冷たさに、体が跳ね上がる。
 しかしそれと同時に、体が軽くなったような気がした。

「祝福の花を。」

 ラシードが厳かに告げる。
 妃がアルバシウムをラシードの前の祭壇に上げ、聖水を賜る手順だ。

 順番はアリムは一番最後であったはず。当然の流れで、マルグリットが立ち上がるために、長衣の裾を払った。
 その瞬間、ラシードとリアナが、目を合わせる。リアナは心得たように微笑むと、突然アリムの背中をぐいっと押した。

「え?」
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