星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ

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10章 煙る部屋での逢瀬とカラレス会議

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「さてさて。無事に店名も決まった事ですし、看板も制作中ですよ。外出許可が下りるようでしたら、店舗もご覧にお越しください。」

 アリムは今日もマコガレン邸へと足を運ぶつもりだった。
 しかしあらゆる方面から反対にあい、外出の許可が下りなかったのだ。
 アリムはチラリとノイを一瞥する。
 アリムの伺うような視線に、ノイはこっそりと肩を竦めて見せた。
 止めなかったのはノイだけだ。
 あのキシュワールですら、アリムの外出には難色を示していた。

「来週あたり、お願いしてみます。」

 そうは言ったものの、自信はない。
 だが体はすっかり回復して、医師からも「診察の必要はありません」と言われているのだ。
 ここまで過保護にされていては、ストレスも溜まってくる。

「バーリをお誘いしてみては?」

 ノイがポツリと呟いた。

「え?」
「城下の視察って事で、誘ってみればいいじゃないっすか?」
「なるほど。良い案ですね!」

 ユージンもポンっと手を叩く。

「妃殿下を心配されているんでしたら、バーリが隣にいればいいのですよ。デートに誘えば、バーリもお喜びになるのでは?」
「デート。」

 アリムはラシードに似つかわしくない単語を、おうむ返しで呟く。
 城下の視察をしている所は想像がつく。
 だが何の当てもなくブラブラと散策している所は、思い浮かばない。
 だが先日、ラシードも言っていたではないか。
 休みをとって、どこかへ出かけようと。
 アリムは瞳を輝かせる。

「誘ってみようかな。」
「いつ会えるか、今日の予定を確認してきますか?」
「急がないから後でいいよ。」

 ユージンがいるのに、急ぐ必要はない。
 だがユージンは会得したように頷くと、早々に身支度を始めた。
 アリムは慌てて彼を引き止める。

「今日はお見舞いのつもりでしたので。元気な姿を拝見できたので、お暇致します。」

 ユージンは胸に手を当てて、丁寧に頭を下げた。

「なんだか、すみません。」
「いいえ。デートの日程が決まりましたら、お知らせくださいませ。」

 その言葉にアリムは照れてはにかむ。

「説得できる事を、祈っていてください。」
「大丈夫ですよ。」

 ユージンは確信したように親指を立てる。
 その俗っぽい仕草に、アリムはハハッと声を上げた。
 帰り際、ユージンはノイに目をやり、ジトっと彼を睨みつける。

「ナトマ卿、必ず連絡するんだよ。」
「お気持ちだけ頂戴致します。」

 ノイは視線を合わせず、軽く会釈する。
 その気のない返事に、ユージンはまた不機嫌そうに口を引き結ぶ。
 だがノイが徹底して知らんぷりをするので、無理に気を引くのは諦めたようだった。
 彼はアリムを振り返り、穏やかな笑みを浮かべて拝礼をする。

「それでは、御前を失礼致します。」
「お気をつけて。」

 パタンっと扉が閉まる。
 ニコニコと笑みを浮かべたまま、アリムは唸るように護衛の名前を呼んだ。

「ノーイー……っ!」
「はい?」
「ユージンさんを追い出そうとして、あんな事言ったんだろ。」
「なんの話っすか。」

 ノイはヒョイっと眉を跳ね上げる。
 とことんシラを切るつもりらしい。
 アリムは離れたところに突っ立っている護衛を手招きする。
 ノイは命じられた通り、アリムの前に立つ。
 そして手を後ろに組んで、護衛の姿勢をとった。
 その白々しい態度に、アリムは呆れ返る。

「バーリに会うって言えば、ユージンさんが帰るのは当然じゃないか。」
「んな事してないっすよ。」
「そんなに嫌なら、ついてこなくていいって言ったじゃないか。」
「嫌じゃねぇって言ってんだろ。」

 ノイはじろりとアリムを睨みつける。

「俺から離れんじゃねぇよ。」
「あー、もう!みんな過保護!」

 アリムはイライラしながら、目の前にあるお菓子を鷲掴みにして頬張る。

「ユージンさんと何かあったの?」
「こっちがききてぇよ。……まあ、そのうち興味なくすんじゃねぇの。」

 ノイは空になったアリムのカップに紅茶を注いだ。

「ありがとう。」
「アルバスにお送りしてから、バーリの予定を確認します。」

 アリムはノイを少しの間じっと見つめた。
 自分とセイラムの事を思い出す。
 ユージンがセイラムのように拗れた行動を起こすとは思えない。
 だが……。

 アリムはセイラムを思い出し、ギュッと胸が締め付けられる。

 ノイの飄々とした横顔は、何ら困惑を浮かべてはいないようにみえる。
 だがどうだろう。
 ノイ自身の事はあまり口にした事はない気がする。

「まぁ……。困ったことがあったら言ってね。」

 ノイは片眉を上げて、軽く会釈する。
 恐らく何も言ってはこないだろう。
 だが深入りするのもおかしな気がして、アリムはこれ以上何かを言うのをやめた。

 ***

 それからラシードは、外出の誘いに僅かに難色を示したが、アリムの「約束したよね?」の一言でようやく許可を出した。
 その代わり、護衛を2人つける事と単独行動は決してしない事を約束させられた。
 2人で出かけるといっても、やはり護衛はついてくる必要があるのだな、とアリムは少し残念な気持ちになる。
 それでも輿入れして以来、初めての王都だ。
 黙っていても心が躍る。

 そうしてラシードは早々に仕事の調整を終え、さほど待たずして、城下デートの日となった。

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