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22章 風船の飛ぶ先
①
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「本当にオープンイベントにはいらっしゃらないのですか?」
ユージンの問いかけに、アリムは口をへの字に曲げる。
この質問は今日で5度目だ。
その度に未練が尾を引いて仕方がない。
アリムは花にリボンを結びながら憮然と頷く。
「バーリのお許しがでないんですよ。」
「全く……!そちらの旦那様は過保護な事で!」
ーーそちらの妹さんの旦那様でもありますよ。
シャキッとリボンを切れば、可愛らしいブートニアが出来上がった。
アリムはそれを眺めて首を捻る。
「ランディ、どうかな?」
「可愛いです。でも全部花束にするんですか?」
「違うよ。ユージンさんの話がしつこいから、作ってただけ。」
「……イスファールさん。」
ユージンがムッと眉を顰めた。今にもテーブルを叩き出しそうな雰囲気だ。
アリムはサッと鋏を引っ込めると、フゥッとため息をついた。
「僕だって行きたいですよ。でも、最近物騒じゃないですか……。」
最近王都では火災が頻発している。
ホイザーが雨を降らしてから、原因不明の出火が5件。ぼや程度で収まっているから良いものの、王都は今、緊張状態である。
今日もここに来るために、騎士4人が随行させれたのだ。
「無理してオープンするのもどうかと思っているんですが……?」
「警備に関してはマコガレンの騎士団を当たらせます。問題はないかと。」
「でも……。」
「タイミングとしては、申し分ないのです。妃殿下がとても上手に立ち回ってくださいましたから。」
「ユージンさんがショールを作ってくれたおかげですよ。」
メッジャン家の騒動から、貴族の反発はだいぶ落ち着いた。貴族の婦人達がアリムの味方についたのだ。
ショールの贈り物が余程気に入ってくれたらしい。
そして意外な事に、ルイゼが大きな力になってくれた。彼女がアリムとノイの助けを、社交界に広めてくれたのだ。
「あれは無償で提供した訳ではありませんからね。まったく、イスファールさんの抜け目のなさには驚かされます。」
「ふふっ。売れてますか?」
「おかげさまで。今年1番の人気商品になりそうですよ。」
今社交界では、皆が同じようなショールを羽織っている。舶来のレースをあしらった、薄いショールだ。
“今度参加する夜会で、参加したご婦人方にショールを贈りたいと思っています。舶来のレースと薄地のハージーで、全員分誂えてもらえませんか?”
以前ノイに持たせた手紙に、アリムはこう書いたのだ。
舶来のレースを大量に、となると用意するだけでも大変な手間である。だからアリムはこう付け加えた。
“その代わりと言ってはなんですが、このデザインの使用権をお渡しします。もし良ければ、専売してください。”
噂の妃が婦人達に送ったショール。
話題性は充分だと思った。
だからアリムは、ユージンに対価としてデザインを売ったのだ。
「まさか年の暮れにこんな儲け話にありつけるとは。私としては得しかありませんでしたよ。」
「そう思ってもらえたなら良かったです。でも……最近は本当にきな臭いですね……。人が集まれば騒動も起きやすくなるから、心配だな……。」
「憲兵団にも、イベントを行う申請は出しておりますので、あまり心配ないかと思いますよ。」
「なら余計に僕も行きたかったなぁ……。」
アリムはフゥッとため息をつき、またブートニアを作り始めた。
この花はオープンイベントで配る花のサンプルだ。花のことが全くわからないユージンが、手当たり次第に買ってきてしまったのだ。
ーーわからないからって、何で買ってくるかな……。
金の力で全て解決してしまうユージンに、呆れ返ってしまう。
「どなたかに贈られるのですか?」
イーサンがヒョイっと肩越しに覗き込んでくる。
「考えてなかった。アイリスとバラかぁ……。」
アリムは2種類のブートニアを見つめる。
アイリスは信じる心。
バラは愛。
ーーラシードにあげようかな……。
くるりと花を回すと、リボンの端が可愛らしく揺れた。
「ドラニアからも騎士をお貸しします。」
「え?」
唐突な言葉に、この場にいる全員が声の主を振り返った。
アリムも聞き間違いかと思い、つい聞き返してしまう。
「今、キシュワールが喋ったの?ごめん、もう一回言ってくれない?」
「……ドラニアからも、その期間騎士をお貸し致します。」
キシュワールは薄い目元をピクッと震わせて、もう一度言い直す。
「え……と……?」
「なんとっ!」
パンッとユージンが膝を叩いた。
「願ってもないお申し出です!それで?どの位を、どれほどの期間ですか?」
「……っ!一分隊を一週間……。」
突然距離を詰めてきたユージンに、キシュワールは嫌そうに体を反らせる。
2人の距離はそれくらいに近い。
ユージンは口元を満足げに緩めた。
「よろしい……。ではこちらからは相場の1.5倍の謝礼をお支払い致しましょう。」
その言葉にだろうか。
キシュワールが心外そうに目を細めた。
「……謝礼は結構です。」
「そういう訳にはいきませんよ。」
尚も食い下がるユージンに対して、キシュワールは煩わしそうに手で払う仕草をする。
思い出せば、2人とも侯爵家の当主だった。
ーーなんか新鮮だなぁ……。
二人のやりとりを興味深く眺めていると、突然キシュワールと目が合った。
「?」
「……妃殿下からは、謝礼分の下賜品を頂戴しています。」
「え?俺?」
アリムは突然振られた話に、声を上げた。
「なにかあげたっけ?」
キシュワールはグッと押し黙る。
無意識なのか、視線が胸元に落ちていく。
アリムはそれをみて「あっ。」と声を上げた。
「クラバットとピンっすね。」
「ベルンハルではハンカチをもらってましたよね!」
「手作りのブレスレットを贈られたと、リアナから聞いておりますよ。」
「全然大したもの渡してないのに……。」
アリムは破格の提案に、開いた口が塞がらない。
たかがハンカチ一枚だ。それもなんの飾り気もない、シンプルなデザインの。
キシュワールは早口に口の中で言葉を転がす。
「騎士の数が増えれば、抑止力にもなりますので……。」
ここまで言い切ると、キシュワールは面倒くさそうに、ため息をついた。元々人に好意を示すのが苦手なのだ。その不器用さに、じんわりと胸が温まる。
「ありがとう、キシュワール。」
アリムはキシュワールの前に立つと、にこりと微笑みかける。
キシュワールがまた目元を引き攣らせた。
「キシュワールが助けてくれるなら、本当に心強いよ。」
そう言いながら、先程手慰みで作っていたブートニアを、キシュワールの胸ポケットに刺す。
青い花弁が、キシュワールのひんやりとした相貌によく映える。
アリムははにかんで、ポンっとキシュワールの胸を叩いた。
「お礼にもならないけど。」
「ありがとう存じます……。」
「こちらこそ。本当にありがとうね。」
そう伝えると、キシュワールは胸元をチラリと見遣った。
アイスグリーンの瞳がほんの少し、柔らかく伏せられる。
傷跡のある薄い唇が、また小さく動いた。
「……開店祝いだとお思いください。」
「最高のお祝いだよ。」
その言葉に、キシュワールはフッと視線を外して、頭を下げただけだった。
「妃殿下、俺もお役に立ちたいですっ!何かできる事はありませんか?」
ラドルフが身を乗り出して手を挙げている。
必死になってアピールする姿が、まるで子犬のようだ。その可愛らしい様子に、アリムはほわりと微笑んだ。
「気持ちだけでいいよ。ありがとう。」
「妃殿下ー……。」
「ウェザース伯爵家の次男に、騎士団を動かす権限はあるのか?」
少し離れたところで、キシュワールが冷めた声で呟いている。
ラドルフはジロリとそちらを見ると「ありませんが!」と肩を怒らせた。
西域視察以降、二人の仲はすこぶる悪い。
ラドルフが一方的にキシュワールを……と思っていたが、そういうわけでもないようだ。
キシュワールは、顎を微かに上げてラドルフを見下ろしている。
ーーえ~……ほんとに何なの……。
「お気になさらず。」
何故かイーサンは、二人を微笑ましく見つめている。
ノイは呆れ顔で「そろそろ馬車の支度をして来まーす。」と店を後にした。
「イスファールさん、警備も強化されますので、もう一度バーリと相談されるのがよろしいかと思いますよ。」
ユージンはメモを取っていた手帳から顔を上げた。
「いいですか?ドラニア侯爵家の騎士団は、王室騎士団に匹敵致します。そんな厳戒態勢の中で、何か起きる訳がないでしょう?」
コツコツとペンの先で手帳を叩きながら、念を押されてしまう。
散らばった花を片付けていたイーサンが、困ったように苦笑いした。
「あまりそのような事は仰らないでください。」
「おっと、失礼したね。」
ユージンはわざとらしく口を手帳で叩く。
「何?」
「……一貴族が、強い騎士団を持つ事は、褒められたことではないのですよ。」
イーサンは礼儀程度に声を顰めて、教えてくれた。
チラリとキシュワールを見ると、彼は微かに目を細める。
「へぇ……。」
「ドラニア卿の場合は、暗黙の了解といいますか……。バーリとの信頼関係がありますので。」
「なるほどね。流石キシュワール……。」
アリムは感心して声を上げる。
すると、何故かラドルフが肩を怒らせながら、手を挙げた。
「ノイの手伝いをしてきます!」
「え?うん。お願いね。」
何か面白くなかったのだろうか。
ラドルフはぷりぷりと頬を膨らませながら、店から出て行く。
バタンッと、ドアが大きな音を立ててしまる。
アリムはヒョイっと肩を竦めた。
「……どうしたの?」
「第二騎士団は、騎士の教育をやり直すべきだな。」
キシュワールがドアを見つめたまま、半眼になっている。
イーサンは眉を下げ、真っ直ぐに頭を下げた。
「その通りです……。妃殿下、申し訳ございません。」
「いや、良いんだけど……。」
アリムは可愛らしいラドルフの機嫌が気になって仕方がなかった。
何となく、西域視察の休憩での出来事を思い出す。あの時、ラドルフは臍を曲げて、結局アリムの側からいなくなったのだ。
いつもご機嫌のラドルフが、何をここまで不機嫌になることがあるのか。
ーーまたキシュワール絡みかな……。
ユージンの問いかけに、アリムは口をへの字に曲げる。
この質問は今日で5度目だ。
その度に未練が尾を引いて仕方がない。
アリムは花にリボンを結びながら憮然と頷く。
「バーリのお許しがでないんですよ。」
「全く……!そちらの旦那様は過保護な事で!」
ーーそちらの妹さんの旦那様でもありますよ。
シャキッとリボンを切れば、可愛らしいブートニアが出来上がった。
アリムはそれを眺めて首を捻る。
「ランディ、どうかな?」
「可愛いです。でも全部花束にするんですか?」
「違うよ。ユージンさんの話がしつこいから、作ってただけ。」
「……イスファールさん。」
ユージンがムッと眉を顰めた。今にもテーブルを叩き出しそうな雰囲気だ。
アリムはサッと鋏を引っ込めると、フゥッとため息をついた。
「僕だって行きたいですよ。でも、最近物騒じゃないですか……。」
最近王都では火災が頻発している。
ホイザーが雨を降らしてから、原因不明の出火が5件。ぼや程度で収まっているから良いものの、王都は今、緊張状態である。
今日もここに来るために、騎士4人が随行させれたのだ。
「無理してオープンするのもどうかと思っているんですが……?」
「警備に関してはマコガレンの騎士団を当たらせます。問題はないかと。」
「でも……。」
「タイミングとしては、申し分ないのです。妃殿下がとても上手に立ち回ってくださいましたから。」
「ユージンさんがショールを作ってくれたおかげですよ。」
メッジャン家の騒動から、貴族の反発はだいぶ落ち着いた。貴族の婦人達がアリムの味方についたのだ。
ショールの贈り物が余程気に入ってくれたらしい。
そして意外な事に、ルイゼが大きな力になってくれた。彼女がアリムとノイの助けを、社交界に広めてくれたのだ。
「あれは無償で提供した訳ではありませんからね。まったく、イスファールさんの抜け目のなさには驚かされます。」
「ふふっ。売れてますか?」
「おかげさまで。今年1番の人気商品になりそうですよ。」
今社交界では、皆が同じようなショールを羽織っている。舶来のレースをあしらった、薄いショールだ。
“今度参加する夜会で、参加したご婦人方にショールを贈りたいと思っています。舶来のレースと薄地のハージーで、全員分誂えてもらえませんか?”
以前ノイに持たせた手紙に、アリムはこう書いたのだ。
舶来のレースを大量に、となると用意するだけでも大変な手間である。だからアリムはこう付け加えた。
“その代わりと言ってはなんですが、このデザインの使用権をお渡しします。もし良ければ、専売してください。”
噂の妃が婦人達に送ったショール。
話題性は充分だと思った。
だからアリムは、ユージンに対価としてデザインを売ったのだ。
「まさか年の暮れにこんな儲け話にありつけるとは。私としては得しかありませんでしたよ。」
「そう思ってもらえたなら良かったです。でも……最近は本当にきな臭いですね……。人が集まれば騒動も起きやすくなるから、心配だな……。」
「憲兵団にも、イベントを行う申請は出しておりますので、あまり心配ないかと思いますよ。」
「なら余計に僕も行きたかったなぁ……。」
アリムはフゥッとため息をつき、またブートニアを作り始めた。
この花はオープンイベントで配る花のサンプルだ。花のことが全くわからないユージンが、手当たり次第に買ってきてしまったのだ。
ーーわからないからって、何で買ってくるかな……。
金の力で全て解決してしまうユージンに、呆れ返ってしまう。
「どなたかに贈られるのですか?」
イーサンがヒョイっと肩越しに覗き込んでくる。
「考えてなかった。アイリスとバラかぁ……。」
アリムは2種類のブートニアを見つめる。
アイリスは信じる心。
バラは愛。
ーーラシードにあげようかな……。
くるりと花を回すと、リボンの端が可愛らしく揺れた。
「ドラニアからも騎士をお貸しします。」
「え?」
唐突な言葉に、この場にいる全員が声の主を振り返った。
アリムも聞き間違いかと思い、つい聞き返してしまう。
「今、キシュワールが喋ったの?ごめん、もう一回言ってくれない?」
「……ドラニアからも、その期間騎士をお貸し致します。」
キシュワールは薄い目元をピクッと震わせて、もう一度言い直す。
「え……と……?」
「なんとっ!」
パンッとユージンが膝を叩いた。
「願ってもないお申し出です!それで?どの位を、どれほどの期間ですか?」
「……っ!一分隊を一週間……。」
突然距離を詰めてきたユージンに、キシュワールは嫌そうに体を反らせる。
2人の距離はそれくらいに近い。
ユージンは口元を満足げに緩めた。
「よろしい……。ではこちらからは相場の1.5倍の謝礼をお支払い致しましょう。」
その言葉にだろうか。
キシュワールが心外そうに目を細めた。
「……謝礼は結構です。」
「そういう訳にはいきませんよ。」
尚も食い下がるユージンに対して、キシュワールは煩わしそうに手で払う仕草をする。
思い出せば、2人とも侯爵家の当主だった。
ーーなんか新鮮だなぁ……。
二人のやりとりを興味深く眺めていると、突然キシュワールと目が合った。
「?」
「……妃殿下からは、謝礼分の下賜品を頂戴しています。」
「え?俺?」
アリムは突然振られた話に、声を上げた。
「なにかあげたっけ?」
キシュワールはグッと押し黙る。
無意識なのか、視線が胸元に落ちていく。
アリムはそれをみて「あっ。」と声を上げた。
「クラバットとピンっすね。」
「ベルンハルではハンカチをもらってましたよね!」
「手作りのブレスレットを贈られたと、リアナから聞いておりますよ。」
「全然大したもの渡してないのに……。」
アリムは破格の提案に、開いた口が塞がらない。
たかがハンカチ一枚だ。それもなんの飾り気もない、シンプルなデザインの。
キシュワールは早口に口の中で言葉を転がす。
「騎士の数が増えれば、抑止力にもなりますので……。」
ここまで言い切ると、キシュワールは面倒くさそうに、ため息をついた。元々人に好意を示すのが苦手なのだ。その不器用さに、じんわりと胸が温まる。
「ありがとう、キシュワール。」
アリムはキシュワールの前に立つと、にこりと微笑みかける。
キシュワールがまた目元を引き攣らせた。
「キシュワールが助けてくれるなら、本当に心強いよ。」
そう言いながら、先程手慰みで作っていたブートニアを、キシュワールの胸ポケットに刺す。
青い花弁が、キシュワールのひんやりとした相貌によく映える。
アリムははにかんで、ポンっとキシュワールの胸を叩いた。
「お礼にもならないけど。」
「ありがとう存じます……。」
「こちらこそ。本当にありがとうね。」
そう伝えると、キシュワールは胸元をチラリと見遣った。
アイスグリーンの瞳がほんの少し、柔らかく伏せられる。
傷跡のある薄い唇が、また小さく動いた。
「……開店祝いだとお思いください。」
「最高のお祝いだよ。」
その言葉に、キシュワールはフッと視線を外して、頭を下げただけだった。
「妃殿下、俺もお役に立ちたいですっ!何かできる事はありませんか?」
ラドルフが身を乗り出して手を挙げている。
必死になってアピールする姿が、まるで子犬のようだ。その可愛らしい様子に、アリムはほわりと微笑んだ。
「気持ちだけでいいよ。ありがとう。」
「妃殿下ー……。」
「ウェザース伯爵家の次男に、騎士団を動かす権限はあるのか?」
少し離れたところで、キシュワールが冷めた声で呟いている。
ラドルフはジロリとそちらを見ると「ありませんが!」と肩を怒らせた。
西域視察以降、二人の仲はすこぶる悪い。
ラドルフが一方的にキシュワールを……と思っていたが、そういうわけでもないようだ。
キシュワールは、顎を微かに上げてラドルフを見下ろしている。
ーーえ~……ほんとに何なの……。
「お気になさらず。」
何故かイーサンは、二人を微笑ましく見つめている。
ノイは呆れ顔で「そろそろ馬車の支度をして来まーす。」と店を後にした。
「イスファールさん、警備も強化されますので、もう一度バーリと相談されるのがよろしいかと思いますよ。」
ユージンはメモを取っていた手帳から顔を上げた。
「いいですか?ドラニア侯爵家の騎士団は、王室騎士団に匹敵致します。そんな厳戒態勢の中で、何か起きる訳がないでしょう?」
コツコツとペンの先で手帳を叩きながら、念を押されてしまう。
散らばった花を片付けていたイーサンが、困ったように苦笑いした。
「あまりそのような事は仰らないでください。」
「おっと、失礼したね。」
ユージンはわざとらしく口を手帳で叩く。
「何?」
「……一貴族が、強い騎士団を持つ事は、褒められたことではないのですよ。」
イーサンは礼儀程度に声を顰めて、教えてくれた。
チラリとキシュワールを見ると、彼は微かに目を細める。
「へぇ……。」
「ドラニア卿の場合は、暗黙の了解といいますか……。バーリとの信頼関係がありますので。」
「なるほどね。流石キシュワール……。」
アリムは感心して声を上げる。
すると、何故かラドルフが肩を怒らせながら、手を挙げた。
「ノイの手伝いをしてきます!」
「え?うん。お願いね。」
何か面白くなかったのだろうか。
ラドルフはぷりぷりと頬を膨らませながら、店から出て行く。
バタンッと、ドアが大きな音を立ててしまる。
アリムはヒョイっと肩を竦めた。
「……どうしたの?」
「第二騎士団は、騎士の教育をやり直すべきだな。」
キシュワールがドアを見つめたまま、半眼になっている。
イーサンは眉を下げ、真っ直ぐに頭を下げた。
「その通りです……。妃殿下、申し訳ございません。」
「いや、良いんだけど……。」
アリムは可愛らしいラドルフの機嫌が気になって仕方がなかった。
何となく、西域視察の休憩での出来事を思い出す。あの時、ラドルフは臍を曲げて、結局アリムの側からいなくなったのだ。
いつもご機嫌のラドルフが、何をここまで不機嫌になることがあるのか。
ーーまたキシュワール絡みかな……。
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「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
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