星を戴く王と後宮の商人

ソウヤミナセ

文字の大きさ
65 / 232
17章 雷神怒る

 ラシードは「それで?」と話の先を促す。
 アリムは慎重に続きを話した。

「……アルリーシャは西湖の風の精霊を信仰してきました。あの話は、アルリーシャに伝わる、大地創生神話の一つです。」
「……風の?」

 ラシードはバッと空を仰ぎ、頬を強ばらせる。

「……調伏の儀は、風など吹かない。二星が反応することもない。」

 アリムを見つめるラシードの顔には、驚愕と疑念がべったりと張り付いていた。

 まずい事を言ったのだ、と確信する。
 国の根幹を揺るがす、悪い事が起きる予感がした。
 全身から血の気が引いていく。

 それを証明するように、ラシードは震える唇で、アリムの名を呼んだ。  

「……お前は星神の加護を……受けているのか……?」
「そ、そんな訳は……。」
「アルリーシャは、アシャン……風の星神の加護を受けているのか?」

 アリムは必死に首を振る。

「アルリーシャが信仰しているのは、西湖に宿る風の精霊です。」
「思い返せば、風の星神の加護を受けたアレジャブルの王は、ここ百数年でいない。……あぁ……。」

 ラシードは顔を掌で覆い、崩れ落ちる。

「アレジャブルの王は、代々星神の加護を受けてから、王位に就く。……星神の加護を受けられる者が、王となる資格を持つんだ……。」

 アルリーシャが信仰しているものが、西湖に住まう風の精霊だ。
 しかしアルリーシャは、アレジャブルが秘匿してきた建国神話を受け継ぎ、その一族のアリムが力を使った。

 アリムはラシードの肩を掴み、懸命に首を横に振る。

「…….違います……!」 
「空で爆ぜたのは、ルーリンだけではなかった。二つめの星が……。」

 空で爆ぜた星は、ラシードの守護星のほかに、もう一つ。
 それは青い光を放つ、強い星だった。

「バーリ……!」
「父王が早世したのも、アシャンの民を支配しようとした為か……。」

 泣き笑いの様な声で、ラシードは呟く。

 ーー違う……!王の資格なんて、関係ない……!

 アリムは咄嗟に、彼の手をきつく握った。
 顔を覆っていたラシードは、ゆっくりとアリムを見た。

 ラシードの瞳は揺れていた。
 疑念に満ちる引き攣った口元。

 アリムは自分に原因がある、と思いながら、それでもラシードの指を絡めとる。
 そして力強く手を握りしめた。

「……歴史に誤りがあるようだ。」
「あなたはアレジャブルの王です。」
「唯一ではない。」
「いいえ。」

 ラシードの瞳をジッと見つめ、しっかりと頭を振る。

「あなたがその頭上に王冠を戴いた時から、間違いなくあなたはアレジャブルの唯一の王です。」

 アリムはラシードの頬を、ゆっくりと指で撫でていく。
 目元の膨らみをなぞり、頬骨を伝い、こめかみに指を這わせる。
 汗で僅かに湿った頬は、ひんやりと冷えていた。
 それを温めたくて、今度は頬を掌で包み込む。

「この治世は、ラシード。あなたの力で成り立っています。前も言ったじゃないですか。星が政治をするんじゃありません。あなたが考え、悩み、決断して、民を導いているんです。」

 そっと頼りない頭を抱き寄せ、肩を貸す。
 柔らかな黒髪に頬を寄せれば、汗の匂いに混じって、柔らかな麝香の香りがした。

「……征略の諍いの中で、ラシードだけは慈悲深かった。その慈悲のおかげで、俺は生きながらえています。」

 今まで言えなかった言葉が、グッと胸の奥に詰まる。
 アリムは過ぎた過去を思い、喉を上下させる。

 燃える村。
 響く怒号と悲鳴。
 熱病に倒れた、敬愛する叔父。

 その光景を見つめながら、幼いアリムは、民族の終焉を覚悟していた。民と共に死ぬのだと。今生き延びたとしても、弾圧の中で、ゆっくりと締め殺されていくのだと。

「あなたが王になって、俺は本当に嬉しかったんだ。」

 ラシードが弾かれたように、顔を上げた。
 綺麗なエメラルドの瞳だ。
 どんな時でも、曇りなく煌めく、混じり気のない宝石。
 その国唯一の宝に、唇を寄せる。
 薄い皮膚の下、揺れるファイヤが、尊いと思う。

 アリムは驚いたように目を見開いたラシードを、もう一度抱き寄せる。

「……アレジャブルの王は、俺の王は、ラシード。あなた1人です。」
感想 1

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話