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一 龍神様の流しそうめん。
しおりを挟む二学期が始まり、まだ暑い帰り道でこうきはいつものようにたくみと2人でふざけあっていた。
「なぁなぁ、たくみくん。この白いのなんやろう?」
こうきは小川を指差してたくみを呼んだ。二人は小学校の登下校でいつも一緒に通っている親友だ。通学路にはきれいな小川が流れていた。
「なになに?うわっ、これ、そうめんちゃう?どこからきたんやろう。あっ、またながれてきた。なぁ、どこかで流しそうめんしてるんかなぁ。こうき、いってみような!」
そう言うとたくみはこうきの手をつかみ川上へと走り出した。
小川はくねくねと曲がりながら山の方へ続いている。田んぼの横を通りまだ青いどんぐりのトンネルを走り抜けると神社の中に続いていて、またそうめんが流れてきた。
お社の横を抜けて大きな松の木の根元をすぎると山肌に洞穴が空いていて、小川は奥に続いている。こんなところに洞穴なんかあったかな?そう思っているとこうきが
「なんか怖いしもう帰ろうな。」
と言ってきたのだが、たくみはまたこうきの手をつかみお構いなしで洞穴へと入って行った。
洞穴は不思議に明るくて天井には電灯もロウソクもないのに橙色の灯りがほわんほわんと灯っていた。
二人は少し体を寄せ合いながら奥へ奥へと進んで行った。
角を曲がると、そこには大きな青緑色に光る鱗に黒い前掛けをかけた大きなトカゲにツノが生えたみたいな生き物が二人立っていてせっせとそうめんを小川に流し入れている。
「あのぉ、すいませーん。なんでそうめんなんか流しているの?」
たくみが声をかけると、その生き物は少し驚いたように振り返り
「おやおや、これは可愛らしいお客さんじゃな。さぁ、入りなされ。太郎さん、足湯と手ぬぐいを出してくだされ。お代はもみじの葉っぱ二枚じゃよ。たんとおあがり。」
と嬉しそうに手招きをしてくれた。
「えっ?お代がいるの?僕たち学校の帰りやし、お金もってないんです。モミジの葉っぱも今は無くって。外に行って摘んで来ます。」たくみが駆け出そうとしたその時。
「開けたばかりのお店なんじゃが、なかなかお客さんが来なくてのぉ。それでそうめんを流したら誰か来んじゃろうかと思うての。君らは始めてのお客じゃから今日は特別。お代はこの次からでいいからの。ささ、お座り。」
トカゲみたいな人は優しそうに笑いながら席を進めてくれると、足湯の使い方を教えてくれた。そして手ぬぐいで拭くとお出汁のいっぱい入った器とお箸を持って来てくれた。そして
「慌てないあわてない。まずはランドセルをここに置いて、小川の淵に腰掛けての。さぁ、流すぞ。」
小川の冷たい水を流れて来たそうめんはツルツルで歯ごたえがあって、お出汁も丁度いい辛さで、流れてくるそうめんを二人は夢中ですくって食べた。
お腹がいっぱいになると席に戻って一息着きながら
「おじさんたち、名前は何て言うの?僕はたくみ。こっちはこうきっていいます。」
と自己紹介をした。
「わしらかね。わしは龍崎。龍崎太郎。この人は安田龍之介さんじゃ。龍之介さんの出汁うまかったろう?特製だぞ。デザートにいちじくでもでも食べんかね?」
太郎さんはそう言うと大きな器いっぱいに盛られたいちじくを出してくれた。
すると今度は龍之介さんが、タバコを燻らせながら話し始めた。
「この山の中腹あたりにこの小川の上流が淵のようになっていてな、そこにはヤマメがたくさんおる。そのヤマメを釣って枝に刺して持って帰ってきて松の木に吊るして4~5日干すんじゃよ。それはな、炭火で炙っても旨いんじゃが、それと北海道の友達が送ってくれるこんぶとこの山で採れた椎茸の干したのを一日小川の水の汲み置きに漬けておく。それを炭火でトロトロ炊いてゆっくりゆっくり出汁を取る。煮たつ前にヤマメもコンブも椎茸も引き上げて、酒とみりんをいれて酒っけが抜けるまで待って醤油と隠し味にちょっぴり砂糖を入れて出汁は完成じゃ。そうめんはな、山向こうの製麺所から買ってくる。これは腰があって旨いんじゃよ。」
そう言うとまたタバコを一服した。
たくみはこの二人がなんだかあったかくて大好きになった。
いちじくを食べ終わると、二人は立ち上がり帰る用意をし始めた。もう夕方のはず。お母さんが心配してたら大変だ。
「ねぇ、太郎さん龍之介さんまたここに来てもいい?今度はちゃんとモミジの葉っぱ持ってくるから。太郎さんや龍之介さんのお話聞いてんのたのしいねん。」
たくみがそう言うと太郎が
「モミジさえ持って来たらいつでも大歓迎じゃよ。でも、お友達や家族にはないしょにしてくれるかのぉ。あんまりたくさんのお客さんじゃと忙しゅうなりすぎてしまう。」
と困った顔でそう言った。
「うん!わかった。」
二人は約束すると洞穴を出て来た道を戻りかけた。
空はバラ色になりはじめていた。
「なぁ、たくみくん。お母さんにもたべさせたかったなぁ~。でも男と男の約束やもんな。また、行こうな。」
こうきは嬉しそうにそうつぶやいた。
たくみは、(そういえば、あの神社って安田神社って言うんや。確か龍神様をお祀してあるんやんな。ってことは龍之介さんは神様なんや。)とぼんやり考えていた。
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