龍神様のお食事処。 

月の涙白き花弁。

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十九 神通力と紫陽花の花。

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これは、とある街の、小さな神社に祀られている龍神様のお話。
ここには龍之介という神様と太郎という神様が住んでいる。二人は仙人や精霊や、もちろん神様たちが気軽に遊びに来られるようにお食事処を始めてみた。そんな小さな神社のたくさんの、おはなし。




雨が何日も降り続き、紫陽花が美しい色を奏でるように花を咲かせていた。龍之介が、三つ葉と川エビのかき揚げで冷たい蕎麦もいいなぁと試作をしていた時だった。入り口からなかに向かって呼ばわる声がかすかに聞こえた気がして、かき揚げをザルの上に上げてしまって油の火を止めて前掛けで手を拭きながら外を覗きに行くと、そこにはカッパの子が困った顔をして蓮の葉を差しかけて立ちすくんで震えていた。
「おや、カッパどんどうしたね。中に入って蕎麦でも食わんか?落ち着いたら話を聴いてやるかやな。」
龍之介はカッパの子を奥に通すと座敷にすわらせた。カッパの子は行儀よく正座で座るとぺこりと頭を下げ、
「おいらはあの滝の上にある池に住んでいるカッパで湖二郎と申します。池なのに湖なんて字を付けたのは琵琶湖のカッパの親戚だからだと父が申しておりました。その父が、この長雨で池より上の水源あたりの木々が倒れて大きな水溜りのようになってしまっているのを発見いたしました。今は父の神通力と隙間から流れる水でなんとか保っていますが、このまま雨が降り続きますと欠壊をまぬがれますまい。山裾にはたくさんの人が住んでおります。それにこの山にはたくさんの精霊や仙人もおられます。どうか欠壊せぬようにお力をお貸しください。」
なんとも難題が持ち上がったわいと心でつぶやくとさっき揚がったばかりのかき揚げを添えてざるそばを湖二郎の前に出してやり
「とりあえずそれを食べなさい。どうするかのう。考えねばなるまいな。しかも早急にな。そのように怯えんでも大丈夫じゃ。よく噛んでお食べ。」

ふむ、どうしたものか。山椒魚の仙人椒太郎(しょうたろう)に書状を送ろうか。本来ならば人にも知らせなければならぬところだが、今時御神託などを受け取れるものも居なければ信じる者もそうは居まい。我々でできる限りやってみて、ダメな時には決壊させて、再生を願うしかなかろう。
人は強い。精霊や仙人も住む地形が少し変わったところで日々の営みにはさして影響はない。それでもカッパの親父さんが力を使い果たす前になんとかしないと街が一つ水底に、土砂に埋もれてしまうかもしれない。龍之介は筆を取り、急ぎ書状を書き上げると、松の木の上に声をかけた。松の中腹の枝のわきには鳥の巣があり、そこからカササギが舞い降りた。
「すまぬがこの書状を椒太郎さんの所へ届けておくれ。手助けしてくれそうな者を何人かよこしてほしいとな。急を要すると釘を刺してな。頼んだぞ。」
そう声をかけると、カササギは、あいわかったと飛び立っていってしまった。

中に戻ると蕎麦を平らげた湖二郎は座敷で座布団に転がって眠っていた。緊張して疲れたのだろうと上掛けをかけてやると太郎を呼んでどうしたものかと話し合うことにした。

椒太郎は洞窟の奥でいつものように書物をしていた。この山で起きたことやこの辺りのことを日々書き留めるのが椒太郎の仕事なのだ。不意に入り口で声がしたのでよっこらしょっと立ち上がると、
「一体こんな雨の中を誰がわしなどの洞窟へやってくるのかの?」
と声をかけた。
「龍之介様の使いの者にございます。書状をお持ちいたしました。使える者を何人か急ぎ寄越して欲しいとおっしゃっていましたが、私は内容を知りませぬゆえお読みになってカラスの六助に託けて下さりませ。それでは、これにて。」
カササギはそう言い残すとまた飛び立って行ってしまった。

椒太郎はしばらく書状を読み返しながら考えにふけっていた。

確かに里に大水が出れば人の死は免れまい。人は強く勤勉ではあるが、元のように生活するには何年もの時を要する。わしらのように時の概念に疎いものであっても辛いのだから、時に縛られている者達にとって何年もの時間は命を縮め、心を疲弊させ病むことを避けるのは難しい。さりとてわしらは魔法を使えるわけではない。神通力で食い止める事とていっときの気休め。さてどうしたものか。山ねずみ達では溺れてしまう。わしらは山椒魚であっても木々をくぐり抜けて穴を開けるのはちと無理がある。ふぅむ。。。。これは龍之介さんと頭をしぼるしかなさそうじゃの。そうじゃ、しじみと木の芽の佃煮を持って行くかの。それに山猿の親父さんにもらった麩饅頭ももっていこう。では出掛けるとするかの。椒太郎は饅頭や佃煮を風呂敷に包むと肩に担げて洞窟を降りた。

湖二郎はいっときほど眠って眼が覚めるとここはどこかとあたりを見回した。すると奥から
「目覚めたかい?わしが作った水無月でも食べんか?お父さんが山にいる間家に誰かおられるのか?湖二郎が一人ではわしは気が気ではない。」
そう言いながら冷たいお茶と水無月を器に盛ったものを机に並べた。召し上がれと目で言うと湖二郎は自分の皿に水無月を取り大きくがぶりと噛り付いた。さっきまで心配顔で眠っていたのが嘘のように笑みがこぼれた。
「これは龍之介様がつくられたのですか?さっきの蕎麦もこの水無月も本当に旨いです。おいらは母ちゃんが死んでからは池の魚と水草なんかを食べていて、たまに父ちゃんが取ってきてくれるキュウリを食べるのがご馳走なんです。でもキュウリは人間が丹精して作っているからほんの少し間引く程度に頂くだけなんです。ここに来たらいつでも龍之介様のご馳走がいただけるのですか?でもこんなご馳走おいら達には手が出ないかなぁ。」
湖二郎はぺろりと食べ終わった指を舐めもう一つ食べたものか思案していた。
「おいおい、様なんか付けて呼ばれたら恥ずかしいわい。龍之介さんでいいんじゃよ。いかにもわしが作ったんじゃよ。わしは料理がすこぶる好きでな。太郎さんは大工仕事が楽しくて仕方ないらしい。最近は洞穴をいかに居心地よくするかをいつも考えておる。ここのお代は紅葉が二枚じゃ。冬の間も来たいなら早いうちに摘んで押葉にでもするがいい。そうすればいつでも遊びにこれよう。わしらは大歓迎じゃよ。いつでもおいで。」
そんな話をしていると入り口から椒太郎の声がした。
「龍之介さん。書状のやり取りは手間がかかるゆえ出向いてまいりました。これは土産のしじみと木の芽の佃煮ともらいものじゃが旨い麩饅頭です。あれ、旨そうな水無月ですな。わしにもいただけますかな?お前は上の池の湖二郎ではないか。久しぶりじゃのう。大きゅうなったのお。」
そう言うと風呂敷から土産を出して龍之介にわたした。龍之介は椒太郎と自分のお茶を湯飲みに注ぐと土産の麩饅頭も器に盛り席に着いた。
「湖二郎好きなだけお食べ。わしらの話に入って構わぬから状況の細かいところを教えておくれ。」

「父の神通力もそう長くは保たないと思うのです。頑張って後5日かと。なのでお力のあるお二人にも力をおかしいただけないでしょうか。」
湖二郎は父がよほど心配なのだろう。そんなことを口にした。
「ふぅむ。湖太郎殿も確かに力を使い果たしてしまってはしばらくの間地中で眠り続けてしまいなさるだろう。しかしの、わしはもう老ぼれじゃからそんなに力を使うと命に関わる。龍之介さん、お力を貸しては下さらぬか。じゃがその前に段取りを決めねばの。どうじゃろう。道道考えておったのじゃか、こちらに流れて来れば里は壊滅してしまうが、向こうの尾根に流せばそのまま山中を通り残った水も川に出よう。あちら側から穴を掘り水を抜くという案は行けぬかのぉ。」
椒太郎は水無月を切りながらそう言った。
「ほほう。椒太郎さんは穴を掘ってくれるお人を集められるかね?」
龍之介が聞くと
「うむ。わしらの仲間を集め、モグラ殿たちのお力を借りれば三日もあれば穴が掘れよう。さいごは水底からザリガニに開けて貰えばうまくいくとおもうのじゃ。3三日、保ちますかな?」
「うむ。3日ならば訳もない。十日かかったとてわしは大丈夫じゃ。じゃが、この雨よ。こればかりはわしの力も及ばぬでな。わしが力を使えば、むしろ雨を呼んでしまいかねん。」
龍之介はそう言い、水無月をほうばると太郎の顔を見た。太郎は少し離れた椅子に座り様子を見ていたのだ。
「しばらく店はお休みですな。私では龍之介さんのようにそばも水無月もこしらえられぬ。じゃが、湖二郎をここで預かることは引き受けましょう。龍之介さんは湖太郎さんの所へ行って下さい。なあに、子守は心配いりませんよ。」
太郎はタバコに火を点けるとニコリとうなずいた。
龍之介は水無月を食べ終わると握り飯をこしらえ椒太郎が持ってきてくれた佃煮や卵焼き、たくあんを包むと肩に傾げて、
「さて、わしは行くかの。湖太郎さんが腹を空かせておるじゃろう。弁当を食べる時間ぐらいはわしにも作れる。もしも疲れたなら寝ることもできよう。椒太郎さん、後の段取りは頼みますよ。出来うる限り里に流れぬようにやってみましょう。」
そう言うと雨の中に出て行ってしまった。
椒太郎も水無月を平らげるとよっこらしょっと立ち上がり、
「太郎さん、湖二郎をお願いします。」
と、洞窟を後にした。

椒太郎はその足で、まずはモグラの長老に会いに行った。話をすると長老は、
「なるほど、確かにこちらに流れてきては山も荒れるしかなわぬのぉ。それでは急ぎ若い力のあるものを集めましょう。なぁに3日もあれば立派な穴が掘れましょう。しかしあちらの尾根の動物たちも困りますゆえ伝令にてこちら側に避難する旨鹿にお願いしますかな。」
と言い筆を取ると二通の書状をしたためお使いのネズミに渡した。
椒太郎は洞窟に帰るとありったけの大山椒魚を集め、事の次第を説明した。異議のある者も数名はいたのだが賛同する者たちだけでもと、すぐに向こう側の尾根を目指した。
尾根に着くともうモグラたちが足場を作り穴を開け始めていた。モグラたちの頭らしき若者が椒太郎に挨拶にやってきた。
「この度は我らにご相談くださり光栄です。お力をお貸しできればとやってまいりました。私は若頭の真生(まお)と申します。ここにいるものは若く力もありますので三日もあればあのため池の近くまで掘り進めるでしょう。大山椒魚さん達のお力をお貸しくだされば百人力です。こちら側の動物達には鹿殿とネズミ殿が伝令を回してくれています。大山椒魚さん達はあちら側の斜面から掘り進んでいただけますか。」
真生も椒太郎も二手に分かれると斜面の土を掘り始めた。

湖太郎は、降りしきる雨の中一心にため池を押さえ込んでいたが、後ろの方に人の気配がしたのでうっかり力を抜いてしまった。
「湖太郎さん、気にしなさんな。わしが後を引き継ぐゆえ一息つきなされ。握り飯を持ってきたよ。そちらの木陰ならば少しは雨も避けられるじゃろうて。」
龍之介はそう言うと弁当を湖太郎に渡し、雨の中ため池をひと睨みして一緒に木陰に腰掛けた。
「湖太郎さんすまなんだな。わしらがもっと早く対処していればこんな大事にはならなんだのに、近頃蕎麦打ちに精を出しすぎたかの。もう少し見回りをせねばならんのう。昔は山崩れだの山津波だのと人々も恐れ山を手入れし木々の根が張り巡るように知恵を絞っておったのじゃがな。近頃の人は地中の水源などおかまいなしじゃ。木々の根が如何に大切かなど露ほども知らぬ。わしらの力が及ばぬ事態も起きるやもしれぬのう。」
そう言うとまたため池を睨みつけ、タバコに火をつけた。
「湖太郎さん、飯が済んだら少し眠りなされ。わしが後は引き受ける。二人で交代すればなんという事もなかろう。こうしているうちにモグラ達と大山椒魚達が向こうの尾根に穴を開けてくれるてはずじゃ。最後にザリガニどんに水の側から穴を貫通させれば里に流れる心配も無い。向こうの尾根の動物達にはしばらくこちらにて不自由をかけるが、夏が終わる頃には元どおりの生活になるじゃろう。」
そう言うとまたひと睨み睨みを効かせ煙をほぅっと吹き出した。
龍之介が来て今までの疲れが出たのか湖太郎は木の根方にごろりとなると頭が地面に着いた時にはもう夢の中に落ちてしまっていた。
龍之介はこの大事が済んだらどんなご馳走を作ろうか、などと考えながらも抜かりなくため池を睨み続けた。

雨は強くなり弱くなりと変化はしたが降り止むことは無かった。二日の間湖太郎と龍之介は池を睨み、そして崩れることの無いように見回った。三日目の明け方だった。モグラの若頭の真生が龍之介の足元にやってくると
「穴は大方出来上がりました。椒太郎さんが、今ザリガニたちを池に連れて行き池の中から穴を開けています。夕方までにはこの池の水も抜けましょう。この後はこの倒木をどけて穴を埋めれば、里は安全でしょう。湖太郎さんの住まいも元どおりになるまではまだ一週間はかかりましょうが、今しばらくご辛抱ください。」そう言うと足早にまた向こうの尾根に行ってしまった。

山の向こう側でどどどどどぉんと水が吹き出す音がしてしばらくは轟音が山々に鳴り響いた。そして、辺りは何事もなかったかのように静かになった。雨はパラパラと音をかすかに立てて色濃くなった紫陽花にしずくを作っていたが、空が明るくなり始め里の方に虹が架かっていた。

龍之介は湖太郎を伴い洞穴に帰ってきた。そこには椒太郎と湖二郎が太郎とともに待っていた。疲れが肩を伝って全身にじんわりと沁みてきた。すると外から可愛らしい声がして梅の花と桜の花の精霊姉妹の梅花姫と桜花姫が岩魚の塩焼きと握り飯、漬物や煮物を携えてやってきてくれた。そして、モグラの真生が葛餅を若い者幾人かと差し入れにやってきた。
「今回は皆のおかげで里に大水が出る事もなく山が荒れずに済みました。湖太郎さん本当にありがとう。わしらはこれからは2人交代で山をみまわらねばならんのう。向こうの尾根の動物たちにも不自由をかけるじゃろうが山神と話してこれからの事を考えて行くよ。本当にようやってくれた事を感謝する。」
龍之介はそう言うと座敷にご馳走をならべた。すると真生が
「我らは葛餅を差し入れに参りましたまで、これにて失礼いたします。あまり地上にいるのは心地が悪うございますゆえ。」
と頭を下げると帰って行ってしまった。

龍之介は洞窟の外に出て空を見上げた。夕陽に染まった雲がゆっくりと流れてゆく。葉っぱに残った雨粒に夕陽が反射して紫陽花の花にさよならを告げていた。そろそろ梅雨も終わりだな、そう思いながらタバコに火を点けた。薄紫の煙が空に祈りを込めるように昇っていった。








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