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第4話 6月4日
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「そういえば、千家くん、今日は最初のほう、怜那ちゃんとお店番するんでしょう?」
「…へ?」
「あ、千家に言うの忘れてた!」
「てーるーやー?」
「てへっ」
「おいコラ!」
羽白さんの純粋すぎる質問により、俺は、朝から今日の放課後の心配をすることとなった。
「そうだったんだ。ごめんね、千家くん。私、てっきり千家くんも了承済みなのかと思って……」
「いや…羽白さんは悪くない。悪いのはコイツ」
「いやぁ。だってオレ、委員会活動があるんだもん!はじろんもだし!」
「だもんって、男のお前が言っても可愛くないし」
「いやーん。ひーちゃん、こわーい」
「お前はキモい」
「ひどっ?!」
ごめんね、と謝る羽白さんに、非は無い。むしろ、知らぬ間に話が進んでいたことを教えてくれて感謝をすべきくらいだ。だが、問題はそこじゃない。
「って、何だよ、ひーちゃんって」
照屋とのやり取りの中で聞き慣れない言葉を聞き、思わず会話を中断すれば、照屋が「え?」と不思議そうな表情をしながら口を開く。
「千家って下の名前、成浩《なるひろ》だろ?だからひーちゃん。なるくんのがイイ?」
「…いや、そもそも何で下の名前」
そう問いかけた俺に、「え、だってさあ」と照屋が口を尖らせながら俺を見る。
「オレ、千家と仲良くなりたいんだよ。ダメ?」
じ、っと俺の目を真っ直ぐに見ながら言う照屋の表情は嘘はついていないように見える。
そんな風に見られることも、言われることにも慣れていない俺は、もうどうにでもなれ、そう思いながらため息をつき、口を開く。
「…好きにしろ」
「え! いいの! じゃあ、なるって呼ぶ!」
俺の半分投げやりな言葉に、照屋は目を輝かせ、両手をグッと握りガッツポーズしている。
そんな照屋に、羽白さんが「良かったね。照屋くん」と、自分のことのように喜んでいて、俺はひっそりと大きなため息をついた。
「えっと……とりあえず、千家くん、おつかれ」
「……ああ…うん。デカい犬に懐かれたとでも思うことにする」
「うん、それがいいかもね」
今朝からの事の次第を、どうやら羽白さんが、寺岡さんにメッセージで伝えたらしく、登校早々、寺岡さんの労いを受けた俺は、はあ、とため息をつきながら、照屋をデカい犬、と仮定したことを伝われば、苦笑いをしながら寺岡さんが頷く。
「まあ、でも」
「?」
ちら、と寺岡さんが見やる先にいるのは、登校してきた他のクラスメイトと話す照屋の姿。
「あいつ、だいぶ嬉しかったみたいだから、仲良くしてやって」
「……そうなのか?」
「うん。いつもよりテンション高いし」
「…ふうん」
寺岡さんの説明に、もう一度、照屋を見てみるものの、違いが全く分からない。
だが、照屋と仲の良さそうな寺岡さんがテンションが高めだ、と言うならば、そういうものなのだろう、と結論付け、照屋から視線を外す。
「千家くんってさ」
「ん?」
ガサ、と鞄から取り出した本を読もう時、寺岡さんに名を呼ばれ、彼女へと視線を戻せば、「あ、ううん。何でもない」と彼女がにこり、と笑う。
いくら人付き合いが苦手な俺でも、これ以上、聞くな、というコミュニケーションの不可侵ラインの表示に気が付かないほどに鈍くはないつもりだ。特に是が非でも話して欲しいわけでもない。
ちょうど良く会話が終わったのだ、と自分に都合の良いように解釈し、先程取り出し本へと、意識を落とした。
「なるー」
ツン、と背中に軽い衝撃とともに、名前を呼ばれ振り向けば、照屋がニコニコと笑顔を浮かべている。
「……何」
「次の移動教室、一緒に行かね?」
「別に……構わないけど」
何で俺、と言葉に出さずに思っていれば、「めっちゃ何でオレ?って顔してる」と照屋がケラケラと笑っている。
「なるって、やっぱ顔に出るよな」
「……そうか?」
昨日も照屋にそう言われたものの、自分でよく分からない。
まあいいか、と教科書を手にとって立ち上がった俺に、ククと照屋が面白そうに笑う。
「その点で行くと、照屋はずっと笑ってるな」
「まあね。え、イヤ?」
んふ、と可愛い子ぶりながら、聞いてくる照屋に、「胡散臭いやつじゃなきゃ別に」と歩き出しながら答えれば、照屋がきょとんとした表情で立ち止まる。
「? どうした? 行かないのか?」
てっきり準備が終わっているのかと思い歩き出したがついてこない立ち止まり声をかければ、照屋は不思議そうな表情から一変して、嬉しそうなものへと表情を変えた。
「天然っていうか……千家って、いつも一歩引いてる気がする」
「怜那ちゃん?」
本日の4時限目は、視聴覚室での映像学習での自習、という名の暇つぶしだ。
何やら教科担当の先生に急遽予定が入って、先生が帰宅することになったらしく、自習になったはずが、クラス担任が、じゃあ映像学習の時間にしてしまえ、と教科担当と話し合って決まったらしい。
まぁ、案の定、体育のあとの、この季節の心地よい適温に、暗幕でしめきった薄暗いこの状況。
クラスの大半の奴が、すやぁ、と思う存分に眠りについている。
そんな眠気が漂う部屋の中で、起きている一部の人間はヒソヒソ、と声を潜めて話をしていて、何故だか、俺も、その一部の人間に含まれていた。
「そうなの?なる」
俺を見ながら言う寺岡さんの言葉に、羽白さんは寺岡さんを見ながら不思議そうな表情を浮かべ、照屋は寺岡さんと俺を交互に見て、首を傾げる。
「……俺に聞かれても」
くあ、と我慢しきれない欠伸をもらしながら答えれば、「千家くん、眠たそうだね」と羽白さんがクスクスと小さく笑う。
「いま読んでる本、読み始めたら止まらなくて」
「今は何読んでるの?」
「怪人二十面相シリーズ」
「江戸川乱歩だね」
「そう」
「え、何、千家、乱歩好きなの?!」
羽白さんの問いかけに、昨晩から読み続けている本のタイトルを伝えれば、突然、寺岡さんがテンション高めに俺に問いかけてくる。
突然のことに若干驚きながらも、「あ、まあ」と頷けば、寺岡さんの瞳が、キラリ、と光った気が、する。そして、そう思った俺を余所に、「ねぇ、D坂とか魔術師は?読んだ?」と思いの外、押しの強い寺岡さんに、「あー…あ、うん。D坂は」と圧倒され、思わずほんの少し後ろへと下がる。
じゃあこれは、あれは、と次々と繰り出される問いかけにどうにか頷きながら答えていれば、「怜那ちゃん」と寺岡を呼ぶ羽白さんの声ととも照屋が大きな溜息をつく。
「ちょっと、何ため息ついてるのよ、善人」
「いや、怜那の乱歩マニアは相変わらずだなと思って」
「いいじゃない、好きって人と知り合えるの少ないんだから!」
「いやいやいや、なるは乱歩さんが好きって別に言ってないし」
「え、嫌いなの?」
バッ、と照屋との言い合いから顔をこっちに向けてくる寺岡さんに「いや、別に嫌いでは…」と答えれば、「ほら好きだって!」と寺岡さんが照屋を見て、胸を張っている。
照屋もなかなかの本好きだと思っていたが、寺岡さんも予想を上回る本好きだと思われる。
ぎゃん、ぎゃん、といつもよりも小さな声ではあるもののすぐ傍で言い合いを始めた二人に、思わず大きなため息が溢れる。
「…はあ…」
「ふふ。ため息ついてるね、千家くん」
ふふ、と楽しそうに笑う羽白さんに、もう一度、「ああ」とため息をつきながら頷けば、「でも」と彼女は笑顔を浮かべたまま、口を開く。
「千家くんも、いつもより楽しそうだよ」
「…そうでもない」
「そう?」
「…ああ」
夫婦喧嘩は余所でやってくれ、と短くため息をつけば、そんな俺を見た羽白さんがまたクスクスと小さく笑っている。
「…羽白さん」
「なあに?」
何やら、見透かされれいる気がして、チラリ、と見れば彼女は、ふふ、とまだ少し笑った顔で首をこてん、と傾げる。
「…そういうことに、しておいて」
「そういうことに、しておくね」
「…よろしく」
頬杖をつき、そのまま横を向きながら言った俺に、羽白さんのクスクス、と小さく楽しそうに笑い声を零し、何となく、ちらりと視線だけを動かせば、目の合った彼女はふふふと柔らかく微笑んだ。
【6月4日 終】
「…へ?」
「あ、千家に言うの忘れてた!」
「てーるーやー?」
「てへっ」
「おいコラ!」
羽白さんの純粋すぎる質問により、俺は、朝から今日の放課後の心配をすることとなった。
「そうだったんだ。ごめんね、千家くん。私、てっきり千家くんも了承済みなのかと思って……」
「いや…羽白さんは悪くない。悪いのはコイツ」
「いやぁ。だってオレ、委員会活動があるんだもん!はじろんもだし!」
「だもんって、男のお前が言っても可愛くないし」
「いやーん。ひーちゃん、こわーい」
「お前はキモい」
「ひどっ?!」
ごめんね、と謝る羽白さんに、非は無い。むしろ、知らぬ間に話が進んでいたことを教えてくれて感謝をすべきくらいだ。だが、問題はそこじゃない。
「って、何だよ、ひーちゃんって」
照屋とのやり取りの中で聞き慣れない言葉を聞き、思わず会話を中断すれば、照屋が「え?」と不思議そうな表情をしながら口を開く。
「千家って下の名前、成浩《なるひろ》だろ?だからひーちゃん。なるくんのがイイ?」
「…いや、そもそも何で下の名前」
そう問いかけた俺に、「え、だってさあ」と照屋が口を尖らせながら俺を見る。
「オレ、千家と仲良くなりたいんだよ。ダメ?」
じ、っと俺の目を真っ直ぐに見ながら言う照屋の表情は嘘はついていないように見える。
そんな風に見られることも、言われることにも慣れていない俺は、もうどうにでもなれ、そう思いながらため息をつき、口を開く。
「…好きにしろ」
「え! いいの! じゃあ、なるって呼ぶ!」
俺の半分投げやりな言葉に、照屋は目を輝かせ、両手をグッと握りガッツポーズしている。
そんな照屋に、羽白さんが「良かったね。照屋くん」と、自分のことのように喜んでいて、俺はひっそりと大きなため息をついた。
「えっと……とりあえず、千家くん、おつかれ」
「……ああ…うん。デカい犬に懐かれたとでも思うことにする」
「うん、それがいいかもね」
今朝からの事の次第を、どうやら羽白さんが、寺岡さんにメッセージで伝えたらしく、登校早々、寺岡さんの労いを受けた俺は、はあ、とため息をつきながら、照屋をデカい犬、と仮定したことを伝われば、苦笑いをしながら寺岡さんが頷く。
「まあ、でも」
「?」
ちら、と寺岡さんが見やる先にいるのは、登校してきた他のクラスメイトと話す照屋の姿。
「あいつ、だいぶ嬉しかったみたいだから、仲良くしてやって」
「……そうなのか?」
「うん。いつもよりテンション高いし」
「…ふうん」
寺岡さんの説明に、もう一度、照屋を見てみるものの、違いが全く分からない。
だが、照屋と仲の良さそうな寺岡さんがテンションが高めだ、と言うならば、そういうものなのだろう、と結論付け、照屋から視線を外す。
「千家くんってさ」
「ん?」
ガサ、と鞄から取り出した本を読もう時、寺岡さんに名を呼ばれ、彼女へと視線を戻せば、「あ、ううん。何でもない」と彼女がにこり、と笑う。
いくら人付き合いが苦手な俺でも、これ以上、聞くな、というコミュニケーションの不可侵ラインの表示に気が付かないほどに鈍くはないつもりだ。特に是が非でも話して欲しいわけでもない。
ちょうど良く会話が終わったのだ、と自分に都合の良いように解釈し、先程取り出し本へと、意識を落とした。
「なるー」
ツン、と背中に軽い衝撃とともに、名前を呼ばれ振り向けば、照屋がニコニコと笑顔を浮かべている。
「……何」
「次の移動教室、一緒に行かね?」
「別に……構わないけど」
何で俺、と言葉に出さずに思っていれば、「めっちゃ何でオレ?って顔してる」と照屋がケラケラと笑っている。
「なるって、やっぱ顔に出るよな」
「……そうか?」
昨日も照屋にそう言われたものの、自分でよく分からない。
まあいいか、と教科書を手にとって立ち上がった俺に、ククと照屋が面白そうに笑う。
「その点で行くと、照屋はずっと笑ってるな」
「まあね。え、イヤ?」
んふ、と可愛い子ぶりながら、聞いてくる照屋に、「胡散臭いやつじゃなきゃ別に」と歩き出しながら答えれば、照屋がきょとんとした表情で立ち止まる。
「? どうした? 行かないのか?」
てっきり準備が終わっているのかと思い歩き出したがついてこない立ち止まり声をかければ、照屋は不思議そうな表情から一変して、嬉しそうなものへと表情を変えた。
「天然っていうか……千家って、いつも一歩引いてる気がする」
「怜那ちゃん?」
本日の4時限目は、視聴覚室での映像学習での自習、という名の暇つぶしだ。
何やら教科担当の先生に急遽予定が入って、先生が帰宅することになったらしく、自習になったはずが、クラス担任が、じゃあ映像学習の時間にしてしまえ、と教科担当と話し合って決まったらしい。
まぁ、案の定、体育のあとの、この季節の心地よい適温に、暗幕でしめきった薄暗いこの状況。
クラスの大半の奴が、すやぁ、と思う存分に眠りについている。
そんな眠気が漂う部屋の中で、起きている一部の人間はヒソヒソ、と声を潜めて話をしていて、何故だか、俺も、その一部の人間に含まれていた。
「そうなの?なる」
俺を見ながら言う寺岡さんの言葉に、羽白さんは寺岡さんを見ながら不思議そうな表情を浮かべ、照屋は寺岡さんと俺を交互に見て、首を傾げる。
「……俺に聞かれても」
くあ、と我慢しきれない欠伸をもらしながら答えれば、「千家くん、眠たそうだね」と羽白さんがクスクスと小さく笑う。
「いま読んでる本、読み始めたら止まらなくて」
「今は何読んでるの?」
「怪人二十面相シリーズ」
「江戸川乱歩だね」
「そう」
「え、何、千家、乱歩好きなの?!」
羽白さんの問いかけに、昨晩から読み続けている本のタイトルを伝えれば、突然、寺岡さんがテンション高めに俺に問いかけてくる。
突然のことに若干驚きながらも、「あ、まあ」と頷けば、寺岡さんの瞳が、キラリ、と光った気が、する。そして、そう思った俺を余所に、「ねぇ、D坂とか魔術師は?読んだ?」と思いの外、押しの強い寺岡さんに、「あー…あ、うん。D坂は」と圧倒され、思わずほんの少し後ろへと下がる。
じゃあこれは、あれは、と次々と繰り出される問いかけにどうにか頷きながら答えていれば、「怜那ちゃん」と寺岡を呼ぶ羽白さんの声ととも照屋が大きな溜息をつく。
「ちょっと、何ため息ついてるのよ、善人」
「いや、怜那の乱歩マニアは相変わらずだなと思って」
「いいじゃない、好きって人と知り合えるの少ないんだから!」
「いやいやいや、なるは乱歩さんが好きって別に言ってないし」
「え、嫌いなの?」
バッ、と照屋との言い合いから顔をこっちに向けてくる寺岡さんに「いや、別に嫌いでは…」と答えれば、「ほら好きだって!」と寺岡さんが照屋を見て、胸を張っている。
照屋もなかなかの本好きだと思っていたが、寺岡さんも予想を上回る本好きだと思われる。
ぎゃん、ぎゃん、といつもよりも小さな声ではあるもののすぐ傍で言い合いを始めた二人に、思わず大きなため息が溢れる。
「…はあ…」
「ふふ。ため息ついてるね、千家くん」
ふふ、と楽しそうに笑う羽白さんに、もう一度、「ああ」とため息をつきながら頷けば、「でも」と彼女は笑顔を浮かべたまま、口を開く。
「千家くんも、いつもより楽しそうだよ」
「…そうでもない」
「そう?」
「…ああ」
夫婦喧嘩は余所でやってくれ、と短くため息をつけば、そんな俺を見た羽白さんがまたクスクスと小さく笑っている。
「…羽白さん」
「なあに?」
何やら、見透かされれいる気がして、チラリ、と見れば彼女は、ふふ、とまだ少し笑った顔で首をこてん、と傾げる。
「…そういうことに、しておいて」
「そういうことに、しておくね」
「…よろしく」
頬杖をつき、そのまま横を向きながら言った俺に、羽白さんのクスクス、と小さく楽しそうに笑い声を零し、何となく、ちらりと視線だけを動かせば、目の合った彼女はふふふと柔らかく微笑んだ。
【6月4日 終】
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