僕たちは陽氷を染める

渚乃雫

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閑話 6月4日夜 照屋視点

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「あ、もしもし?なる?」
『……なに』
「うっわ、テンションひっく!」
『…そりゃあ…お前…』

 ーとりあえず宿題をすませ、本を読もう、とした瞬間にかかってきた電話、となれば、それはそれはテンションも低くなるであろう。
 電話越しに、テンションの低い声で、本日やっと番号を交換したクラスメイトにそう伝えられるものの、そうは言っても、電話にちゃんと出てくれるんだ、と彼の優しさに頬が緩む。

「いや、でもさ。明日の店番について伝えとかなきゃ!って思って!」
『明日、学校で言えばいいことだろう?』

 ハァ、とため息をつきながら言う彼に、「そうなんだけどさあ!話したいじゃん!」と食いつけば、『…長くなった時点で切るからな』と電話越しの彼が先に折れてくれる。

 やはり彼は優しい、と一人にやにやと笑っていれば、『なんか…やっぱ切っていいか。なんかイラっとしたというか…』と怪訝そうな声を出した彼に、「な!ダメだめ!」と慌てて表情を戻しながら彼を引き止める。

「ねぇ、なるってさあ」
『…なんだよ』
「好きな食べ物なに?」
『…は?』
「あ」

 間違えた。
 何をお見合いみたいな、意味のわからないことを口走ったんだ。オレは。
 このままじゃ、やっぱり電話切られる…!と慌てて「あ、ごめっ」と言いかけた時、『…強いて言うなら、カレー』と少し間を置いて、彼は律儀に答えてくれる。

「カレー?」
『急に好きな食い物って言われても、出てこないだろ。照屋てるやは出てくるのか?』

 そう問いかけられたオレは、「ううん」とベッドに寝転がりながら唸り声をあげる。

「オレはー…うーん。ラーメンかな」
『ラーメンか。ラーメンも捨てがたいな』
「だろ!何系?醤油?こってり?塩?」
『あんまりこってりは好きじゃない。俺は味噌バター派だ』
「味噌バター美味いよね!コーンも入れたい!」
『そうだな』

 ラーメンの話でテンションがあがったオレに、彼はくくっ、と笑い声を零しながら答える。
 うわー、なるの笑い声、ちゃんと聞いたの始めてかもー!などと思いながら聞いていれば、『そう言えば』と彼が小さく呟く。

「何なにー?」
『あ、いや、この前の図書室の新刊のラインナップさ』
「ああ、あれは、先輩がねーー」

 気がつけば、結局、本の話をしているけれど。
 少しずつ。少しずつ。
 自分の中の、彼の情報が更新されていく。
 きっとそれはクラスの誰もが知らない話。

『おい、照屋、聞いてる?』
「あ、うん。聞いてるよ!それでそれで?」
『いや、だからアレがーー』

 あーだ、こーだ、とくだらないことを話しながら、オレ達の夜は更けていった。






【6月4日夜 終】

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