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閑話 7月○日
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「善人さあ」
「んあ?」
思わず不機嫌そうな声になったわたしを気にすることなく、善人は串に刺さった小さなどら焼きを食べながら読んでいた本から視線をあげる。
「ふぁんあよ」
「何で千家なの?」
「?」
わたしの突然の質問の意図を読み込むかわりに、口に入っていたどら焼きを飲み込んだ善人が、不思議そうな顔をしながら口を開く。
「何でって、何が?」
「だって、他にたくさん居るじゃん。喋るやつ。千家とはほぼ喋ったことないじゃん」
そう言ってコーヒー牛乳を一口飲んだわたしに、善人が「まあねえ」と言いながら本に栞を挟みこむ。
「でも、オレは千家が良かったんだよなぁ。何で、なんて言われても、よく分からないけど、仲良くなりたい時に、理由なんて必要ないじゃん」
そう言った善人に、わたしの知っているクラスメイト千家成浩を思い浮かべるものの、彼でなければいけなかった理由がさっぱり分からない。
「わざわざ声かけてまで?」
「んー、まぁ、わざわざって言われりゃそうなんだけどさあ」
自販機で買ったジュースを一口飲んだ善人が、持っていた本を手の中でくるくると回しながら、静かに口を開く。
「最初は、図書室で、本を選ぶ千家が楽しそうなのが気になってさ。表情は大きくは変わらないんだけど、あ、楽しそうにしてんな、って思ってさ。同じ図書委員のはじろんとは時々、話してるのを見かけて、ちょっと意外だった。ま、はじろんに聞いたら日常会話じゃなくて、先生からの伝言とか、そんなものだったみたいだけど」
「楽しそうねぇ……全然、想像つかないけど」
「まあ、教室だと本読んでるか寝てるか、ぼーっとしてるか、のどれかだしね」
「……随分見てるのね、千家のこと」
「まあね。なんだったら今すぐにでも声かけたいくらいだからね!」
くく、と楽しそうに笑う善人に、ふうん、と静かな相槌をうてば、「ま、怜那にもじきに分かるって」と善人はまた楽しそうに笑う。
そんな善人に対して、なんかすっきりとしない、腑に落ちないと思っていたのは、つい半月前のこと。
今となっては、千家が一緒に行動していないことに違和感すら覚えてくるのだから、人の慣れ、というのは恐ろしい。
千家自体も元々は人見知りはするものの、人嫌いのタイプでもない。
それに、千家の人との距離のとり方は、わたしに取っては嫌味のあるものでもなく。
たぶん彼は来る者は拒まない人間なのかも知れない。
現にここ数日では、なんだかんだとクラスメイトたちにも絡まれていて、むしろ善人が「オレと遊ぶ時間が減る!」とかなんとか言い出す次第で。
「……で? その千家はどこ行ったの?」
「はじろんと一緒に図書室に行った」
「ふうん」
そういえば最近、帆夏と千家が一緒にいることも増えて、わたしと遊ぶ時間が少し減った気がする。
そういう意味で言えば、わたしも善人と同じか、と目の前の幼馴染みを見て、小さく笑う。
「あー、もー、こうなったら」
「何よ」
机に突っ伏した、と思った直後、机に頬をつけたまま顔をこちらに向けた善人がわたしの顔を真っ直ぐに見やる。
「オレたち、付き合っちゃう?」
「……は?」
「……は? は無いでしょ」
「いや、だって、ちょっと意味が分からない」
「えー…、オレの一世一代の告白、意味分かんないとか言うー?」
「いや、言うでしょ! なんなの、その格好で言うとか!」
「いやだって恥ずかしくて」
そう言った善人がぷい、と顔を逆の方向へと向ける。
けれど見えている耳は、真っ赤になっていて、さっきの言葉が聞き間違いとか、ノリでふざけて言ったとか、そうではないことが否が応でも理解させられる。
「も、もう一回」
「は?」
しばらくの沈黙のあと、ようやく捻りでた言葉に、善人が机から顔を離して、わたしを見やる。
「もう一回、ちゃんと言ってくれるなら、返事、する」
開いている窓から、風が入る。
ひら、ひら、とカーテンが揺れる中、善人が、口を開いた。
******
「………」
「…千家くん?」
微かに聞こえた言葉は、羽白さんには聞こえなかったらしく、突然立ち止まった俺に、不思議そうな顔を向ける。
そんな彼女の手を、少し強引に取って、「飲み物、買いに行こうか」と小さな声で彼女に伝えれば、不思議そうな表情のまま、羽白さんは「う、うん?」と黙って俺に手を引かれて歩き出す。
「千家くんって、いつも突然だよね」
「……そう?」
ふふ、と笑い出した羽白さんに、あまり心当たりがなくて、首を傾げれば、「そうなのです」と彼女が頷きながら答える。
ただ、それだけだけど。
別に、善人に触発されたわけでも、ないけど。
「 ほのちゃん、いちごみるくでいい?」
「いちごみる、……ほ、ほ、ほのちゃ?!」
に、と笑いながら言った俺の言葉に、思い切り動揺をする彼女の手を、また少し強めに握る。
そんな、とある7月○日の放課後。
【閑話 7月○日 終】
「んあ?」
思わず不機嫌そうな声になったわたしを気にすることなく、善人は串に刺さった小さなどら焼きを食べながら読んでいた本から視線をあげる。
「ふぁんあよ」
「何で千家なの?」
「?」
わたしの突然の質問の意図を読み込むかわりに、口に入っていたどら焼きを飲み込んだ善人が、不思議そうな顔をしながら口を開く。
「何でって、何が?」
「だって、他にたくさん居るじゃん。喋るやつ。千家とはほぼ喋ったことないじゃん」
そう言ってコーヒー牛乳を一口飲んだわたしに、善人が「まあねえ」と言いながら本に栞を挟みこむ。
「でも、オレは千家が良かったんだよなぁ。何で、なんて言われても、よく分からないけど、仲良くなりたい時に、理由なんて必要ないじゃん」
そう言った善人に、わたしの知っているクラスメイト千家成浩を思い浮かべるものの、彼でなければいけなかった理由がさっぱり分からない。
「わざわざ声かけてまで?」
「んー、まぁ、わざわざって言われりゃそうなんだけどさあ」
自販機で買ったジュースを一口飲んだ善人が、持っていた本を手の中でくるくると回しながら、静かに口を開く。
「最初は、図書室で、本を選ぶ千家が楽しそうなのが気になってさ。表情は大きくは変わらないんだけど、あ、楽しそうにしてんな、って思ってさ。同じ図書委員のはじろんとは時々、話してるのを見かけて、ちょっと意外だった。ま、はじろんに聞いたら日常会話じゃなくて、先生からの伝言とか、そんなものだったみたいだけど」
「楽しそうねぇ……全然、想像つかないけど」
「まあ、教室だと本読んでるか寝てるか、ぼーっとしてるか、のどれかだしね」
「……随分見てるのね、千家のこと」
「まあね。なんだったら今すぐにでも声かけたいくらいだからね!」
くく、と楽しそうに笑う善人に、ふうん、と静かな相槌をうてば、「ま、怜那にもじきに分かるって」と善人はまた楽しそうに笑う。
そんな善人に対して、なんかすっきりとしない、腑に落ちないと思っていたのは、つい半月前のこと。
今となっては、千家が一緒に行動していないことに違和感すら覚えてくるのだから、人の慣れ、というのは恐ろしい。
千家自体も元々は人見知りはするものの、人嫌いのタイプでもない。
それに、千家の人との距離のとり方は、わたしに取っては嫌味のあるものでもなく。
たぶん彼は来る者は拒まない人間なのかも知れない。
現にここ数日では、なんだかんだとクラスメイトたちにも絡まれていて、むしろ善人が「オレと遊ぶ時間が減る!」とかなんとか言い出す次第で。
「……で? その千家はどこ行ったの?」
「はじろんと一緒に図書室に行った」
「ふうん」
そういえば最近、帆夏と千家が一緒にいることも増えて、わたしと遊ぶ時間が少し減った気がする。
そういう意味で言えば、わたしも善人と同じか、と目の前の幼馴染みを見て、小さく笑う。
「あー、もー、こうなったら」
「何よ」
机に突っ伏した、と思った直後、机に頬をつけたまま顔をこちらに向けた善人がわたしの顔を真っ直ぐに見やる。
「オレたち、付き合っちゃう?」
「……は?」
「……は? は無いでしょ」
「いや、だって、ちょっと意味が分からない」
「えー…、オレの一世一代の告白、意味分かんないとか言うー?」
「いや、言うでしょ! なんなの、その格好で言うとか!」
「いやだって恥ずかしくて」
そう言った善人がぷい、と顔を逆の方向へと向ける。
けれど見えている耳は、真っ赤になっていて、さっきの言葉が聞き間違いとか、ノリでふざけて言ったとか、そうではないことが否が応でも理解させられる。
「も、もう一回」
「は?」
しばらくの沈黙のあと、ようやく捻りでた言葉に、善人が机から顔を離して、わたしを見やる。
「もう一回、ちゃんと言ってくれるなら、返事、する」
開いている窓から、風が入る。
ひら、ひら、とカーテンが揺れる中、善人が、口を開いた。
******
「………」
「…千家くん?」
微かに聞こえた言葉は、羽白さんには聞こえなかったらしく、突然立ち止まった俺に、不思議そうな顔を向ける。
そんな彼女の手を、少し強引に取って、「飲み物、買いに行こうか」と小さな声で彼女に伝えれば、不思議そうな表情のまま、羽白さんは「う、うん?」と黙って俺に手を引かれて歩き出す。
「千家くんって、いつも突然だよね」
「……そう?」
ふふ、と笑い出した羽白さんに、あまり心当たりがなくて、首を傾げれば、「そうなのです」と彼女が頷きながら答える。
ただ、それだけだけど。
別に、善人に触発されたわけでも、ないけど。
「 ほのちゃん、いちごみるくでいい?」
「いちごみる、……ほ、ほ、ほのちゃ?!」
に、と笑いながら言った俺の言葉に、思い切り動揺をする彼女の手を、また少し強めに握る。
そんな、とある7月○日の放課後。
【閑話 7月○日 終】
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