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第30話 6月30日
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「観覧車、乗れなかったね」
「まぁ、今度行った時、乗ればいいんじゃないかな」
電話越しに聞こえるのは、羽白さんの声で、数時間前に、別れたばかりだ。
「でも、びっくりしたね。雨、あんなに降るなんて思わなかった」
「戻ってきたら止んでたしね」
「ね」
遊園地から駅までは、屋根がついた通路があり、ほぼ濡れることは無かったものの、地元の駅では全然降っていなかった。
「それに、すっごい大きな虹だったね! 私、すっごいたくさん写真撮っちゃった」
久々に、あんなに大きな虹を見た。
皆、虹を見上げて、写真をとったり、喜んでいたり。
かく言う自分も、その一人、なのだが。
「俺も撮った」
「え、千家くんの撮った写真、見たいなぁ」
「あとで送ろうか?
「うん!」
やったぁ、と電話機越しの彼女が嬉しそうにつぶやく。
顔を見ていないはずなのに、何となく表情が思い浮かぶ。
そんな自分に少し笑えば、「そういえば、この前、本屋さんでね…」と羽白さんが楽しそうに話を始める。
どうやら、虹の滑り台を滑りにいく少年、という絵本を見つけたらしい。
「虹くらい大きな滑り台があったら、怖いのかなぁ。楽しいのかなぁ」
「…とりあえず、めちゃくちゃ高いのは予想がつくけど」
「…それは…そうだね…」
高いところはあまり得意ではない、と言っていた羽白さんの声が、ほんの少し小さくなる。
「でもさ」
「ん?」
そんな声を聞きたいわけじゃない、だから、言うわけでもないけど。
「高さなんて関係ないくらいに、綺麗かも知れない。空と雲の中を滑れるわけだし」
「…そっか…! そうだといいなぁ」
そう言った彼女の声は、元気を取り戻していて、小さく安堵の息をはく。
「私ね」
「うん?」
「今日の虹、すっごい綺麗に見えた気がしたの」
「……うん?」
「皆と……千家くんたちと見たからかな…?」
へへ、と小さく笑う彼女に、「……俺も」なんて言えたら良かったのかも知れないけど。
そんなことを、言えるわけもなく。
「…明日も、雨予報になったね」
「え、うん? そうだね」
「多分、こっちも降ってくるんじゃないかな」
「え、本当?」
ポツ、ポツ、と窓にいくつかの雨粒があたり始めている。
スマホで天気予報を見れば、明日は雨予報が出ている。
もうこのまま降り続けるのだろう、と夜の暗さを纏った外を眺めながら思う。
雨なのに、楽しい、と思ったのは子どもの頃ぶりじゃないだろうか。
駅への通路は屋根はついていても、横からの雨は防げず。
けれど、たいして濡れてもいないのに、「濡れる!」と騒ぎながら駅に向かった自分たちがおかしくて、駅に着いてから四人とも顔を見合わせた瞬間に吹きだして笑った。
そんなことを思い出し、ほんの少し小さく笑う。
「千家くん?」
「あ、ごめん」
ぼおっとしていたらしい。
「大丈夫?」と聞こえてきた声に、「大丈夫」と答えれば、ふふ、と羽白さんの笑い声が聞こえる。
電話越しでも、笑っている羽白さんの様子が、目に浮かび、くす、と小さく笑う。
「そういえば、お話って?」
「ああ、うん。ごめん。こんな夜遅くに」
「ううん。それは大丈夫だけど…何かあったの?」
かなり夜遅い時間に電話をかけたにも関わらず嫌な声一つ出さずにいてくれる彼女は、本当に優しいなぁと思う。
しかも、いつもと違う行動をとった自分は、何やら心配すらされている気がする。
そんな状況に、ほんの少しだけ苦笑いをうかべる。
けれど、今だけは、そんな彼女の優しさに甘えることにしよう、とこっそりと近いながら、「あー、っと」とうまくいかない相槌をうつ。
「……どうしても、今日中に連絡したくて」
「何かあったの?」
そう問いかけた羽白さんの声に、部屋にあった時計の時刻を確認する。
時刻は、23時59分。
「…誕生日の一番初めに、羽白さんの声、聞きたいなーって、思って」
そう伝えた俺に、羽白さんが、「あ、そっか。今日、なるくんのお誕生日だったよね」と言ったあと、「あっ?!」と短く声を上げ、しばらくの間、黙る。
なるくん。
久しぶりに聞いたな、それ、と思わず、口元が緩むけれど、このまま、羽白さんが黙ったままなのは、少し寂しい。
何か、いい案はないか、とほんの少しだけ考えたあと、黙ってしまっている電話越しの彼女に声をかけた。
「ほのちゃん」
「っ?!」
「……って、自分で言っておいてあれだけど、思った以上に恥ずかしい」
ほのちゃん、と呼びかけた俺の声に、羽白さんの息をのむ声が聞こえ、自分で自分の言ったことに対して、ものすごく恥ずかしくなり、本気で顔が熱い。
「…千家くん、ズルい」
「え?」
やっと喋った、と思った、ズルい、という言葉を向けれ、「ええと…?」と返せば、「何でもない」と若干、いじけているような声が返ってくる。
「羽白さん?」
ズルいとは、と思いつつも、彼女の名前を呼べば、「千家くん」と、今度は彼女に名前を呼ばれる。
「ん?」
「あのね」
ふふ、と小さく笑ったあと、「お誕生日おめでとう、千家くん」と言った羽白さんの声は、ここ数日で、一番柔らかかったように思えた。
【6月30日 終】
「まぁ、今度行った時、乗ればいいんじゃないかな」
電話越しに聞こえるのは、羽白さんの声で、数時間前に、別れたばかりだ。
「でも、びっくりしたね。雨、あんなに降るなんて思わなかった」
「戻ってきたら止んでたしね」
「ね」
遊園地から駅までは、屋根がついた通路があり、ほぼ濡れることは無かったものの、地元の駅では全然降っていなかった。
「それに、すっごい大きな虹だったね! 私、すっごいたくさん写真撮っちゃった」
久々に、あんなに大きな虹を見た。
皆、虹を見上げて、写真をとったり、喜んでいたり。
かく言う自分も、その一人、なのだが。
「俺も撮った」
「え、千家くんの撮った写真、見たいなぁ」
「あとで送ろうか?
「うん!」
やったぁ、と電話機越しの彼女が嬉しそうにつぶやく。
顔を見ていないはずなのに、何となく表情が思い浮かぶ。
そんな自分に少し笑えば、「そういえば、この前、本屋さんでね…」と羽白さんが楽しそうに話を始める。
どうやら、虹の滑り台を滑りにいく少年、という絵本を見つけたらしい。
「虹くらい大きな滑り台があったら、怖いのかなぁ。楽しいのかなぁ」
「…とりあえず、めちゃくちゃ高いのは予想がつくけど」
「…それは…そうだね…」
高いところはあまり得意ではない、と言っていた羽白さんの声が、ほんの少し小さくなる。
「でもさ」
「ん?」
そんな声を聞きたいわけじゃない、だから、言うわけでもないけど。
「高さなんて関係ないくらいに、綺麗かも知れない。空と雲の中を滑れるわけだし」
「…そっか…! そうだといいなぁ」
そう言った彼女の声は、元気を取り戻していて、小さく安堵の息をはく。
「私ね」
「うん?」
「今日の虹、すっごい綺麗に見えた気がしたの」
「……うん?」
「皆と……千家くんたちと見たからかな…?」
へへ、と小さく笑う彼女に、「……俺も」なんて言えたら良かったのかも知れないけど。
そんなことを、言えるわけもなく。
「…明日も、雨予報になったね」
「え、うん? そうだね」
「多分、こっちも降ってくるんじゃないかな」
「え、本当?」
ポツ、ポツ、と窓にいくつかの雨粒があたり始めている。
スマホで天気予報を見れば、明日は雨予報が出ている。
もうこのまま降り続けるのだろう、と夜の暗さを纏った外を眺めながら思う。
雨なのに、楽しい、と思ったのは子どもの頃ぶりじゃないだろうか。
駅への通路は屋根はついていても、横からの雨は防げず。
けれど、たいして濡れてもいないのに、「濡れる!」と騒ぎながら駅に向かった自分たちがおかしくて、駅に着いてから四人とも顔を見合わせた瞬間に吹きだして笑った。
そんなことを思い出し、ほんの少し小さく笑う。
「千家くん?」
「あ、ごめん」
ぼおっとしていたらしい。
「大丈夫?」と聞こえてきた声に、「大丈夫」と答えれば、ふふ、と羽白さんの笑い声が聞こえる。
電話越しでも、笑っている羽白さんの様子が、目に浮かび、くす、と小さく笑う。
「そういえば、お話って?」
「ああ、うん。ごめん。こんな夜遅くに」
「ううん。それは大丈夫だけど…何かあったの?」
かなり夜遅い時間に電話をかけたにも関わらず嫌な声一つ出さずにいてくれる彼女は、本当に優しいなぁと思う。
しかも、いつもと違う行動をとった自分は、何やら心配すらされている気がする。
そんな状況に、ほんの少しだけ苦笑いをうかべる。
けれど、今だけは、そんな彼女の優しさに甘えることにしよう、とこっそりと近いながら、「あー、っと」とうまくいかない相槌をうつ。
「……どうしても、今日中に連絡したくて」
「何かあったの?」
そう問いかけた羽白さんの声に、部屋にあった時計の時刻を確認する。
時刻は、23時59分。
「…誕生日の一番初めに、羽白さんの声、聞きたいなーって、思って」
そう伝えた俺に、羽白さんが、「あ、そっか。今日、なるくんのお誕生日だったよね」と言ったあと、「あっ?!」と短く声を上げ、しばらくの間、黙る。
なるくん。
久しぶりに聞いたな、それ、と思わず、口元が緩むけれど、このまま、羽白さんが黙ったままなのは、少し寂しい。
何か、いい案はないか、とほんの少しだけ考えたあと、黙ってしまっている電話越しの彼女に声をかけた。
「ほのちゃん」
「っ?!」
「……って、自分で言っておいてあれだけど、思った以上に恥ずかしい」
ほのちゃん、と呼びかけた俺の声に、羽白さんの息をのむ声が聞こえ、自分で自分の言ったことに対して、ものすごく恥ずかしくなり、本気で顔が熱い。
「…千家くん、ズルい」
「え?」
やっと喋った、と思った、ズルい、という言葉を向けれ、「ええと…?」と返せば、「何でもない」と若干、いじけているような声が返ってくる。
「羽白さん?」
ズルいとは、と思いつつも、彼女の名前を呼べば、「千家くん」と、今度は彼女に名前を呼ばれる。
「ん?」
「あのね」
ふふ、と小さく笑ったあと、「お誕生日おめでとう、千家くん」と言った羽白さんの声は、ここ数日で、一番柔らかかったように思えた。
【6月30日 終】
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