この恋は飴より甘し。 〜 飴よりも甘いツンデレ騎士に愛されてます。〜

渚乃雫

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第3部 過去と現在編

閑話 二番隊隊員による報告書(仮)

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「なんで隊長はあんな可愛い子と幼馴染なんすか。ずるくないですか」
「何だよいきなり」
「あー、良いなぁ可愛いなあ……」

 どうも。二番隊隊員キスクです。
 いま、二番隊隊長のラグスさんと、市内巡回中で、水路横を歩いてます。
 少し前に、べレックス卿のお嬢さんの無茶苦茶な行動を止めようとして、馬車にぶつけた頬も、いまはすっかり元通りになりました。
 いやあ……あの時は、けっこう痛かったです。はい。

 あ、それで、今は、というと。
 今朝、お見かけした隊長の幼馴染のお二人を思い出しながら、隊長に絡んでいる真っ最中です。

「おれの幼馴染なんて全員野郎ですよ野郎。しかも全員いかついのばっか!」
「キスクはラウウェカの出身だっけか?」
「そうです。今のところ、おれ以外はみんな漁師修行中です」
「漁師かあ……筋肉つきそうだなぁ」
「ムッキムキですよ。一番隊にいてもおかしくないくらいっす」
「なるほど」

 腕をくの字型にしながら言うおれを見て、隊長もつられて同じ格好をしてますが、二人して一番隊の背格好には、ほど遠いです。

「まあ……何だ。キスクも筋肉質ではあるから……一番隊みたいになりたいなら、今度メレルあたりに鍛錬参加できるように頼んでおくか?」

 ぽん、とおれの肩を叩きながら隊長はそう言ってますが……いや、隊長、それは……

「いやキツそうなんで遠慮しときます……」
「ああ……うん……キツイのはキツイ」

 思わず苦笑いを浮かべているあたり、隊長は以前に言っていた『たまに押しかけてきては鍛錬に引きずり回された訓練生時代』を思い出しているのだと思います。

「けど、希望があれば……そうだな……俺としてはキスクには二番隊にいて欲しいが……どうしても、っていうなら掛け合ってみるが……」
「……隊長……っ!!」

『俺としてはキスクにはいて欲しい。』
 隊長の口から聞こえた言葉に、一人勝手に感動をするものの、その後もぶつぶつ、と何か不穏な言葉をつぶやいている隊長に、「隊長?! 待って、早まらないで!」と思わず隊長の腕をとる。

「早まるって……一番隊に行きたいとか、そういう話じゃないのか?」
「隊長! そうじゃない! そうじゃなくて!」
「ん?」
「おれは二番隊が良いんです!」
「おう? あれ、でもさっき」
「あれはただ、おれの周りの幼馴染がムキムキってだけの話です!」
「ああ、なるほど」

 納得、といった顔をしながら、隊長は頷く。
 その表情に安堵の息を吐いて、言葉を続ける。

「おれも! あそこにいる隊長の幼馴染みたいに、可愛い幼馴染が欲しかったな! って話です!」
「……ああ、そっちか」

 水路の向こう側にいるアリスさんたちを指差しながら言ったおれに、隊長は少し驚きながら、彼女たちを見やる。

「いいですか隊長。隊長の幼馴染のアリスさんもユティアさんも可愛いんです。可愛いんですよ」
「なんで二回も言った」
「大事なことですから。可愛いんですよ、本当に。そんな二人が同時に幼馴染だなんて、隊長はうらやまし……って、隊長聞いてないし……」

 おれの話もそこそこに、ふいにこっちを見たアリスさんが、おれたちに気が付き手を振っている。

 そんな彼女を見て、隊長は手を振り返すでもなく、ただ静かに笑っただけ。
 それでも、そんな隊長を見て、アリスさんは嬉しそうな笑顔を浮かべているし。
 隊長も隊長で、ちょっと分かりにくいけど、嬉しそうにしているし。
 あー、もー。

「やっぱり可愛い幼馴染じゃなくていいから、おれも彼女欲しー」
「あ?」
「たいちょー、頬緩んでますよー」
「緩んでねぇし」
「はいはい」

 歩む速度は、ほんの少しだけ遅くなったけれど、それでも立ち止まらない隊長に、アリスさんも慣れた様子で見守っているし、隊長もまた、最後に、ひら、と手を振っていく、だけ。

 本当に隊長にとっては、何気ない動作なんだろうけど。

「顔面がいい人がやると様になるってホントっすねぇ……」
「何の話だよ」
「隊長の顔がいいって話です」
「んあ?」

 隊長の背を見守るアリスさんを見ながら、そう呟けば、隊長が不思議そうな顔をして首を傾ける。

 そんな隊長に、何でもないです、と答えれば、「そうか」と静かに笑ったあと、隊長はまた速度を戻して歩き始める。

 アリスさんに向けた感情の余韻を含んだその顔に、男のおれですら、ほんの一瞬、動きが止まる。

「隊長、いまの顔、他の女子に向けないほうが良いっすよ」
「あ?」

 いつもの隊長の表情に、すぐに戻ってしまったけれど。
 何だか違う隊長を見られて、得をした気分になった、今日の巡回でした。


「え、っと……キスク? これで報告書出さないよね?」
「さすがに出さないですって。大丈夫です。こっちはちょっとしたおふざけです」
「なら良いんだけど……びっくりしたよ」

 ほっ、と息を吐きながら言うジノさんに、くくく、と笑えば、ジノさんは小さくため息をはいたあと笑う。

「でも、良かったね、キスク」
「何がですか?」

 おれの悪戯で作った報告書を見ながら言ったジノさんの言葉に首を傾げれば、ジノさんは笑う。

「隊長が、人前でそういう表情するのって、マノン副隊長とか隊長たちとか、あとタリムの前とか。割と数が少ないんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そう。あ、一応、僕は見たことあるよ」
「わーお、ドヤ顔」
「ふふ」

 ふふ、と再度、小さく笑いながら書類に視線を落とした彼を見ながら、ジノさんの言葉を頭の中で繰り返す。

「……そっか」

 ほんの少しだけ。
 隊長との距離が縮まったように思えて、嬉しくなった。
 そんな日でした。









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