「ボク」とボクの大好きな人に似ているヒトの話。

渚乃雫

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「ボク」とボクの大好きな人に似ているヒトの話。

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「あなたの背を抜いたあの頃、あなたが誇れる自分でいられるようにと、胸に決めていたんです」

 ぴと、と、大きな石に触れながら君は、静かに話しかける。

「ねぇ、聞こえてますか?」

 哀しそうにそう言った君は、一人静かに空を見ていて、その顔を見て、ボクは心が痛くなる。
 誰に話しかけているの?
 君がいう「空」には、何がいるの?
 ボクが見上げる空には、何も見えないけれど、なんで空を見て、そんなに哀しそうな顔をしているの?

 ボクは、晴れと曇の日の空はポカポカするし君と出かけられるから楽しくて嬉しくて、雨の日の空はお出かけできなくてちょっとつまらないし、外に出ると濡れるのがちょっと嫌だけど、今日はとてもよく晴れているから、ボクの考える理由とはちょっと違うんだろう。

 どうしたら笑ってくれるのかな。

 大きな石の前で、まだ見えない誰かと話している君に、元気をだして欲しくて、ピタリ、と背を寄せれば、君は何も言わないまま、ボクを引き寄せた。


『お? オマエが新しい家族か?』
「だ、だれ?!」

 ひょこ、と突然目の前に現れたヒトに、思わずバッと立ち上がれば、目の前のヒトはシシッと楽しそうに笑う。

『お、なんだオマエ、俺のこと見えてんのか?』
「な、なんだよっ……あれ?」

 空中で逆さまになりながらボクに話しかけるヒトから、ボクの大好きな人と似た匂いがして思わず匂いをかけば、やっぱり似ている。

「……あなた、だれ…?」

 首を傾げながら問いかけたボクの頭を、目の前のヒトがわしゃわしゃと撫でてくる。

『俺か? 俺はこいつの父親だ』

 そう言って大きな石の上に座って笑う目の前のヒトの笑顔は、ボクの大好きな人ととても似ている。

 ポン、ポン、と優しく撫でられた手に、手の持ち主を見上げれば、ボクの大好きな人が、まだ大きな石に向かって話しかけながらボクを撫でているけれど、一向に、大きな石の上に座ったヒトには気が付かないらしい。

「ねえ、ねえ」

 そう話しかけても、君は「どうしましたか?」といつもと同じ優しい顔でボクに問いかける。

「あそこに、きみのおとうさんだっていうひとがいるよ」

 ボクの言葉は、いつも君には伝わらなくて、君は「もう少しだけ待ってくださいね」とまた少しだけ寂しそうな顔をしてボクを撫でる。

『悪いな。俺の声は、そいつには伝わらないんだ』

 思わず座り込んだボクに、目の前のヒト、じゃなかった、ボクの大好きな人、のおとうさんは、ボクの大好きな人を見ながら静かに呟く。

「ごめんなさい。ボクのこえも、つたわらないんだ」

 哀しそうな、寂しそうな顔をしたおとうさんに、しゅんとしながら答えれば、おとうさんは『伝わってるさ』ととても優しい顔をして笑う。

『お、そろそろ帰る時間みたいだな』

 おとうさんがそう言ったのと殆ど同時に、ボクの大好きな人が立ち上がり、「そろそろ行きましょうか」とボクの頭を撫でる。

「おはなししなくていいの?」

 おとうさんと、大好きな人を交互に見ながら言ったボクに『いいんだよ』とおとうさんは笑う。

『いつでも上から見てられるからな。心配すんな』

 そう言って、ボクの頭をまたわしゃわしゃと撫でたおとうさんが、ボクの大好きな人の頭も、わしゃわしゃと撫でる。

 その瞬間、ぶわ、っと強めに風が吹き、おとうさんの姿は見えなくなった。


 ぽかん、とした顔をした君が、不思議そうな、顔をしながら自分の頭を抑える。

「どうしたの?」

 そう問いかけたボクに、君はボクを見たあとに、また空を見て、今度は嬉しそうに笑う。


「父さんが、いた気がしたのですが、気のせいですかね」

 ふふ、と笑いながらボクを見る君に、ボクのお腹のあたりはなんだかホカホカとしてくる。
 君の心も、ボクみたいに少しでもホカホカになったら良い。

 そう思って、君の頬へ擦り寄ったボクに、君は「お家に帰りましょうか」と笑顔で告げる。
 歩き出した君のあとを追いかけながら、君を見上げれば、「どうかしましたか?」と空を背中に背負いながら君がボクを見る。

「おとうさんは、そらにいるんだって!」

 伝わらない、そうわかっていても、伝えたかったボクの言葉に、君は不思議そうに首を傾げるものの、ふと、ボクの見る視線の先を追いかけて、少しのあいだ、黙ったまま空を見上げる。

 くるり、と空から視線を降ろした君の顔は、もう悲しそうな顔じゃなくて。

「お散歩、しにいきましょうか」



 ボクの答えた「わん!」という声に、君と、君の後ろの空が、嬉しそうに笑った。










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