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古島コーヒー

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第2話 Let's自己暗示

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悪夢のせいで朝から、無理やり頭が覚醒したような感覚に陥る。嫌なことを忘れるようにベッドから飛び起き、1階の洗面台まで足早に降りる。そして、勢いよく蛇口をひねり冷たい水で顔をバシャバシャと洗う。顔にまだ滴る水を防ぐように目をつむりながら、手探りで上の戸棚にあるタオルを掴んだ。半ば強制的にすっきりさせた顔を鏡で確認する。浮腫みは取れたが、口の口角はこれまでかというほどに下がっていてとてもじゃないが、すっきりしているとはいえなかった。

「あら、あんたがこんな健康的な時間に起きてるなんて」

半目の母がのそりと後ろからやってきて、嫌味っぽく言う。もうすでに頭が覚醒していると思っていたが、どうやら現在の時間もきちんと把握できていなかったみたいだ。母が起きてきたということは、今は6時過ぎくらいだなと予想してみる。

「俺もお母さんのその芸術的なボサ髪小学生以来に見た」

この歳で悪夢を見たから起きたと悟られないよう、いつも通り嫌味に嫌味を返す。

「これからも私の前に起きて朝食でも作ってほしいくらいだわ」

洗面台を次に使うつもりらしい母と交代するようにすれ違う。

「気が向いたらやるよ」

「死ぬまでなさそう」

正確な時間を知るために廊下に出てリビングへと向かう。

11帖ほどある至って普通のリビング。奥のテレビの前には4人用のダイニングテーブルと木目調の椅子、その隣にはカウンター付きの対面キッチンがある。キッチンの小窓の上に掛けてある時計に目をやる。



5:47



予想より幾分か早かったようだ。ほんの少し得した気分になる。

このまま二度寝すると、昼まで寝てしまうだろうしそれ以前に、今日は大学に行かなければならない。

「今日の朝ごはん何?」

洗面台で化粧水やら乳液やらを塗っている母に廊下から顔を出し聞く。

「昨日の残り物に決まってるじゃないの」

「そうでっか」

「不満なら自分で作ればいいじゃない」

「不満ではありませんよ」

薄々わかってはいたが、わざわざ聞いている自分を不思議に思う。

未だにパジャマ代わりに使っている高校ジャージを着たまま、冷蔵庫から味噌汁が入った鍋を取り出し、コンロの火に鍋をかける。

冷蔵庫を見たところ今日は、肉野菜炒め、味噌汁、ご飯だろう。味に全く不満はないが、昨日の夜と同じメニューではテンションは上がらない。

母がリビングにやってきたので、後は任せたと言うかのように壁際のソファにゆっくり腰掛ける。母はいつの間にか普段着に着替えていて、レンジに肉野菜炒めの皿を入れているようだった。

宮中はそっとリモコンの電源ボタンを押して、早朝のニュース番組を何となく流し始めた。

「今日は大学何時から行くの?」

「んー、今日は2限からだから10時前には出るつもり」

「どうせギリギリになってあれがないとか髪の毛セットしてないとか言い出すんだから、今すぐ着替えなさいよ」

「わかったわかった」



なんだかんだ、色々なモヤモヤを忘れていっている気がする!と心の中で親指を立てる。

しかし、こんな意識がある時点で忘れているわけでもないわけで。自己暗示の都合のよさに感謝した宮中であった。
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