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古島コーヒー

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第3話 平々凡々が一番

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家から駅まで徒歩10分。

どこでも見かけられる黒のリュックを背負い、住宅街を歩く。お気に入りのプレイリストを流しながら、何も考えずにただ駅へと向かう。

駅に着くと、今日は授業2回目か――まだまだあるな、と毎回考えそうなことを頭の中で唱える。入学、オリエンテーション、学科交流会。4月に入ってから間もないというのに、ここ2週間は怒涛に過ぎていった。なんとか、自分からも話しかけて作った友達や自分のレベルより高い授業。緊張したり、頭をフル回転したり、とにかく濃い2週間だった。

――先週はストレスばっかだった。その上バイトまでして、俺にしては頑張った。

一番懸念していた、友達作りも周りに恵まれ苦労という苦労はしなかった。冷静に自身を心の中で褒めたが、1つ心残りがあった。サークルだ。大学生らしく意気込んで3つのサークルの新歓に参加してみたが、どれも思っていたのとは違かった。

地域ボランティアサークル。

就活に役立つだろうし、過激な人がいなそうという理由で選んだ。

新歓は大学近くの居酒屋で行われたのだが、メンバーがサボり・代返常習犯といったような雰囲気だった。人は見かけによらないと言い聞かせ、ソフトドリンクを飲んでいたら一つ上の先輩に話しかけられた。

「あれ?お酒飲まないの君。未成年とかもう関係ないから大丈夫だって!」

ピアスにプリン茶髪のいかにも大学生といった感じの先輩はすでに酔っていて顔が赤かった。

「すみません、自分下戸なんで飲めないんですよ~」

空気が悪くならないよう、ヘラヘラ笑顔を作り答える。

「そんなんつまんないじゃん。飲んだら、盛り上がるし女の子は勢いで持ち帰られるし飲も飲も」

グラスをこちらにぐいぐいと押し付けてくる先輩の手を弱めに押しのけながら、またヘラヘラと笑う。隣にいた友達が見かねてトイレに誘う。

まだ、始まったばかりの新歓という名の飲み会のワイワイとした音がかすかに聞こえてくる。

「帰りたい」

宮中はトイレに着くと開口一番に呟く。

「その方が身のためかも」

お前はそうした方がいいとアドバイスするように友達が付け足して言った。

「抜けてもバレなさそうだし、帰るわ。じゃあ、また明日な」

「おけ。俺はもうちょっと飲んだら他の1年らと帰る」

そして軽く手を振り、居酒屋を後にした宮中。



その後も何回か別のサークルの新歓に顔を出してみたが、同じような体験をしては途中で帰ってくる行為をするはめになった。偶然なのか、必然なのか。

そんなことをしているうちに疲れて、サークル探しもやめてしまった。

――今まで酒なんかなくたって楽しめたのに、大学生になった途端酒がないと面白くないって風潮、急にどうしたんだよ。

自分だけ置いて行かれている気分にどうしようもなさと怒りを覚える。

文句を言ったところで何かが変わるわけでもない。そんな虚しさに、さらに虚しさを感じる。

――いかん、いかん。あんま考えすぎんな。

これ以上ネガティブ思考にならないためにもと、自身を抑制する。

【次は茗荷谷に止まります】

電車のアナウンスが聞こえ、はっとする。

そういえば今日は何日だっけ――。

曜日はわかるが正確な日にちはわからない、大学生特有の癖が出る。スマホのホーム画面を見ると、

10:22

4月24日 水曜日



と表示されていた。

――うわ、ちょっとギリギリ。

恐らく間に合うだろう。万が一のことを考えて、友達にメッセージを送る。

〚すまん、ギリギリかもしんないから席確保してもらっていい?〛≽宮中万一

〚りょ。後ろから5番目の列にいる〛≽田中太一

「はや……」

大講義室での授業のため、後ろの席が人気なのである。遅れたら1番前か2番目の席しか空いていない。

一仕事を終えた気持ちでいると、ふと今日は何かあった気がしたような感じがした。



――何だっけ?

プシューっと反対側のドアが開く。

宮中は後ろ髪を引かれながら、早歩きで大学へと向かった。

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