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第6話 秘密の大学デビュー
しおりを挟むドッキリ大成功!
なんてね、
――お願いします、ネタバラシしてください。
理想のストーリーを頭の中で思い描くが、現実は沈黙が続いているだけだった。
「どうして……、どうしてあの変なメッセージを俺に送ってきたんですか」
沈黙を破ったのは意外にも宮中だった。若干声が震えながらも、口を開いた宮中に手遊びをして待っていた藤代が怠そうに顔を上げる。
「あ、そこ?お前がしょうもない自己顕示欲を見せてくるから仕返しにイタズラしただけ」
顔と見合わない素っ頓狂な口調で、さも当たり前かのように動機を語る。
「なっ、自己顕示欲でメッセージを送ったんじゃない!俺は、純粋に嬉しくて」
「俺と同じ大学に受かった嬉しさはわかるけど、そこで俺にメッセージを送るってことは自分の凄さを確認するみたいな行為だろ。自己顕示欲と純粋な喜びを混同すんな」
宮中の必死な弁明に冷徹な声が食い気味に被さる。
畳みかけてくる言葉に、ぐうの音も出なかった。
「そうなんだろ?」
「……はいはい、そうですよ」
認めろと言わんばかりの口ぶりに、あっさり自分の負けを認める。
「大人しかった“パンイチ”くんがあんなことするなんて意外だったな」
「パ、パンイチ?」
突拍子もない発言に目を見開き、思いのほか大きな声が出てしまう。
「確か、万一まんいちって漢字だっただろ。なんて読むか知らないけど。今考えたにしてはいいニックネームだと思う。お前変態そうだし」
「変態じゃないですし、俺は万一かずひとです」
せめてもの抗議として、藤代をキッと睨む。
――この男は、同じ部活の後輩の名前も覚えていないのか。
自分のことを下の名前まで知られているとは思っていないが、蔑称を付けられるなんて失望した。
「語呂がいい感じで良い線いってると思うんだけどな~」
睨まれた当の本人は、足を組み椅子を前後に重心を移動させ揺らしている。
顔立ちが美しいと一連のだらしない行動も様になっている。
「ちょっとしたイタズラだったならもう充分済んだでしょう。帰っていいですか」
高校の時とのギャップからきた失望感を存分に堪能した。
このまま藤代と会話し続けても、いいおもちゃにされるだけだと直感する。
藤代の返答を聞く前に、近くの長机に置いておいたリュックを手に取ろうとした。
「待って」
「なんですか。俺はこれから誰も信じてくれないだろうけど、高校の同期を招集して先輩がひどい大学デビューをしていたことを言いふらしに行くんですから、引き止めないでください」
藤代を煽るように早口でまくし立てる。
それじゃ、と平静を装い軽く会釈する。
「おい、待て!話をちゃんと聞け」
教壇に背を向け、入口に足を進めようとしたら後ろから藤代の焦った声が聞こえてきた。
――珍しい
高校時代から激しく感情を露わにしたところを見たことがなかった。だから、つい無視すればいいものを立ち止まって振り返ってしまった。
焦った声よりも、もっと切羽詰まった顔がそこにはあった。
「俺の大学デビューを知っているのはお前だけだ」
この顔で真剣なトーンでお前だけだなんて言われたら、女の子はみんな惚れてしまうなと思う宮中。
――ま、俺男だしそんな感情湧かないけど。
「何のことか全部説明してください。こんなんじゃ、なんのことかさっぱりですよ」
わかりましたよ、と小さい子供を諭すように言葉を投げかける。背負ったリュックを再び長机に置き、椅子に座り直す。
気になる欲2割、あとは善意8割だ。
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