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古島コーヒー

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第7話 誓約書

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「で、どうしたんです?その大学デビューキャラ変どころの話じゃなくて、もはや怖いんですけど」

「別に表向きの大学生活ではこんなキャラでやってない」

「食堂で見かけた時相変わらずな感じでしたし、マジで猫かぶってるんですね」

「どうしてこんな性格になったかの経緯を話す気はない。一つだけ言えるのは小学校高学年あたりからこんな性格ってことだけだ」

再び座り直した2人だったが、片方は足をそろえて座りもう片方は腕を組み、がに股で椅子にもたれかかる形で座っている。

ついさっき、情けなく宮中を引き止めた人物とは思えないほど横柄な態度と口調。

「じゃあ、今まで俺が見てきた先輩は全部偽りだったってことなんですね」

「そうだ。万人受けの性格っていうのは割と演じやすいもんだな。人がホイホイ寄ってくる」

「それは顔がいいのもあると思うんですが……」

大切なことをもう1つ忘れてると、付け足す。

宮中の何気ない発言に形のいい眉がぴくりと動く。

「そんなんで集まってくる奴らなんて大したことない。自分にとって都合のいい人間が周りに欲しいだけ」

高圧的に話し出したと思ったら、どんどん語気が弱まった話し方になっていった。



「高校の時も今も、そうなんですか」

「そうだ。俺みたいな捻くれ者は腫れ物扱いされる。良い人を演じれば周りにはいろいろな人が集まってくる。だから、それを利用して自分と合う奴と巡り合わないかと安易な考えで生きてきたけど、それももう疲れた」

真剣な顔でそう語りながらホワイトボードのペンを手に取る。

「そんなの……運じゃないですか。考えすぎだと思います」

できるだけ、藤代がほしい回答をなんとか探し出す。

合っているかはわからないが、自信ありげに言葉を紡いだ。

「だから、パンイチくんが羨ましかったんだよ」

藤代の歪んだ顔を見る限り、どうやら宮中の回答は不正解だったようだ。

「う、羨ましい?俺が?」

「受け身のくせして、周りに人がいる。邪悪なものも感じないほど真っ直ぐな性格だろお前は」

意外だった。

まともに話したこともないのに、宮中をしっかりと見ていたようだ。

驚く宮中をよそに、ホワイトボードに何かを描きだす。

「田中だって、俺よりそういうタイプじゃないですか!他のみんなも」

「案外、田中は違う。ああいうおちゃらけたタイプには主に2パターンあるから」

「どういうことですか、何で人をそんなに分析して分類したがるんですか……」

「分類してかないと、割り切らないと傷つくのは自分だからな」

宮中の反論に戒めのように意味深なセリフを吐く。

藤代の発言にイマイチ納得がいかない様子の宮中。

「難しいことはよくわかりません」

「そうだろうな、パンイチくんはこんな感じでボケ~っと生きてるからな」

コンっとホワイトボードを人差し指の関節で叩く。

そこには先ほどから何か描いていたイラストが完成されていた。デフォルメされた宮中の似顔絵だった。口をだらしなく開け、頭の横には陽気な太陽のマークが描かれている。

「アホ面」

「今度こそもう帰りますからね」

「短気」

「帰ります」

面と向かって座っていたが、スッと立ち上がる。

「色々と無駄なことを話しすぎた。最後にこれ持ってけ。これが本題だよ」

これ、と言われ渡されたのは1枚のA4用紙だった。

条件反射で、受け取る。

「なんすか、これ」

「誓約書ってかいてあるじゃん」

誓約書。

仰々しい文字と藤代を交互に二度見する。3行ほど続きが下の方に記されている。

「私は一員になるにあたり、藤代宗・その他関係者の機密を遵守することを誓約いたします。また、活動について放棄・拒否は一切いたしません……」

藤代と共に確認するために、意味不明な内容をその場で読み上げる。

「時間はやる。明日までにサインしろ」

「毎度説明不足なんですよ、あなた」

「一応サークルじゃないよ」

「話聞いてますか?まず、一員ってなんですか?活動ってなんですか」

「実はここ俺だけの部屋。ここで、大学の学生相談的なのやってる」

「急にロボットみたいに説明しないでください。簡潔すぎて逆にわかりづらいです」

「注文多い。ちょっとついてきて」

宮中から見て教壇の向こう側に歩き出す。椅子が並べられている窓側の一番右端に、小さめのキャビネットが置かれていた。部屋に見合わない西洋風の細長いキャビネット。その上に固定電話がある。

「これが相談用の電話。今は留守電設定にしているからかかってこないが、たまに大学内の奴らから電話がかかってくる」

「それで?」

「それぞれ相談内容は異なるが、それに対応したりするのがB棟202の仕事」

説明はこれで終わりとでもいうかのように、藤代は教壇の椅子に戻る。

未だに脳みそが追い付いていない宮中はそのままキャビネットの前に立ち尽くしている。

「……いやいや、その活動の一員になれってこと?普通に嫌です!」

やっと理解が追い付いた宮中は、後ろを振り返り激しく反発する。

「パンイチくんにはボランティア精神ってものがないのか。俺や他人に冷たいんだな」

「この活動を先輩がボランティア精神でやってるとは思えません。何か狙いがあるんでしょう」

「人を人間のクズみたいな言い方しやがって。面白い奴を見つけるには自分から行動しなきゃね」

ぶうたれながら、くるくると呑気にペンを回している。

「人生つまんないことだらけだけど、ほんの少しの希望だよここは」

回していたペンをそっとホワイトボードに戻して、こちらに向き直す。

「まだ質問ある?」

にこりと目だけ笑った作り笑顔をこちらに向けてくる。

これ以上質問しても、意味のわからないことを言われる自信しかない。

「ないです、とりあえず帰ります」

単純に今は疲れている。思考能力を失った状態で物事を考えるのはとても危険だ。

今度こそ、リュックを背負い入口のドアノブを回す。

「明日、18時までいるから」

閉まりかかったドアの隙間から藤代の声がかすかに聞こえる。




バタン



「なんか、悟りきった顔がムカつく……」

ドアに背中を預けそんな悪態をつく。
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