今さらやり直しは出来ません

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「僕は彩ちゃんをお嫁さんにしたい」

無邪気な笑顔で語りかける少年に、私は『うんっ』と元気よく返事をする。
でもその映像はそこで終わった。



「懐かしい……元気かな。健人けんとくん」

目を覚ました私は、夢に出てきた高木健人たかぎけんとを思い返しつつ枕元にある携帯に手を伸ばし、時間を見ると共に今の年を確認した。

(もう25年も前なんだ)


小泉彩こいずみあや、30歳。
周りは結婚もし、子供がいる友人がちらほらいる。
適齢期を過ぎた私に両親は結婚は?としきりに連絡を入れてくるが、その相手がいないわけではない。

「おはよう!もう少しでクリスマスだね、楽しみにしておいてよ」

起きる前に入っていたメールの送り主が彼である斉藤翔平さいとうしょうへいだ。

「ありがとう、楽しみにしてる」

付き合って3年。
彼が言う楽しみにして欲しいという言葉に私は胸を弾ませた。
とうとうプロポーズを言ってくれるんじゃないかと。
その日は、高級ホテルの最上階にあるレストランを予約していると事前に教えてもらっていたが、それ以上の事は何も教えてもらってない。

だけど、付き合った年数と時期的にそうだと思いつつ時を過ごした。

そして当日、仕事を終えた私はお洒落をし、最上階の店の前で待った。
美容院にも行くと、この日のために緩く巻き、ベージュのコートを羽織り、黒のニットに白を基調とした花柄ロングスカートで身を纏った。
本当は結婚式のお呼ばれのように華やかなドレス姿が良かったのかも知れないが、軽く中を覗くとそんな姿の人はおらず、危うくTPOも知らない場違い人間だと認定されずホッと胸を撫で下ろした。

19時予約らしいが、15分を切ってもエレベーターから降りてくる人に翔平の姿は無く、何人もの人を見送っていくと1通のメールが入った。

「ごめん!仕事のトラブルでどうしてもいけそうにない!
もう店にいる?」
「……いるよ」
「そっかぁ、本当にごめん。違う日に必ず言いたい事を言うから!」
「……わかった」

私はメールを終えると、ホテルを後にして家路に向かおうとした。
だけど、目を疑った。

道路を挟んだ向かい側によく知る顔の人物がいたからだ。

(……翔平?)

ベリーショートの黒髪を立たせ、仕立ての良いダークスーツを身に纏ったその人物は、隣にいる白いコートの女性に満面の笑みを浮かべ仲睦まじい様子を見せてくる。
人違いかと思ったが、どうしても気になり横断歩道を渡り、気づかれないよう後をつけていくと、再び横断歩道を渡ったかと思ったらあの高級ホテルへと入っていった。

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