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翌週の日曜の夕方、私はすずと共に、とある場所へと向かっていた。
「えーっ!あの時、いたんですか?」
「うん、だからびっくりしちゃって。でもありがとう。私もやらなきゃいけないから」
持つ鞄にキュッと力を込めた。
「あっ!すず、こっちこっち」
雑居ビルの地下にある扉の前で私達を待つ香澄が声をかけてきた。
緩く巻いた髪に、さながら花嫁のような白いワンピース姿でいる香澄は私を見るなり口元を押さえて笑いを入れてくる。
「この人がすずの友人?」
「そうだけど……なんで笑うの?」
「いいえ、別に。……はじめまして、伊藤香澄です。あなたは?」
私は少しだけ間を置き、息を呑んだ。
ここで『小泉彩』と名乗れば翔平の元カノであるとバレてしまうかもしれない。
そうなってからでは警戒されると思い、ここにくる間に二人で口裏を合わせ、『高野美樹』という架空の人物を作り出し、名乗る事にした。
「高野美樹です」
「高野さん、失礼ですが、おいくつ?」
「どうしてですか?」
「あらっ、気に障ってしまいました?すずの友人だから、同い年の方が来るのかなと思ってましたけど、どうやら違うみたいなので」
「……30です」
「30!あら、そう!へぇー」
「ちょっと、香澄。言い過ぎじゃない?」
「ごめんごめん、そんなに怒らないで。とりあえず中に入りましょう」
扉を開く香澄からは少しキツめの薔薇の匂いが鼻を刺激し、先程の物言いといい、私はその後ろ姿をジッと見て後に続いた。
中は照明が落とされ、テーブルに置かれた蝋燭がぼんやりと灯るバーだった。
部屋の隅にはグランドピアノがあり、女性演奏者から奏でられる旋律が非日常的な雰囲気を醸しだす。
「乾杯っ」
ピアノから対角線にあるソファ席に私達は向かい合うように座り、赤ワインが入ったグラスをチンッと鳴らす。
「ところで高野さんでしたよね?すずとは何処で知り合ったの?」
「共通の友人がいて、そこで」
「へぇー。ねぇ、すず」
「なに?」
「高野さんっていつもこんな格好してるの?」
すずは私の方をちらりと目を送ると、すぐに香澄へと戻していく。
「そうだけど?別に私は変だと思わないけど、それがなに?」
「そうかな?だって、30でしたよね?もう少し男性受けを狙った格好をした方がいいと私は思うけど」
今の私は、黒のニットにワインレッドのフレアスカート姿でいた。
「充分似合ってるし、綺麗じゃない!」
思わず立ち上がり反論するすずの腕を掴み私は首を振ると、香澄へと告げていく。
「お気遣いありがとうございます。でも今の私は仕事が忙しいのでお相手はいなくても」
「あら、そうですか?そう言っていたらいつまでも一人ですよ??私なんて3人もいて、まぁ、いずれもお金持ちなんですけどね!」
ふふっと笑い、いかに自分が優れているかを声高に告げると、ワインへと手を伸ばす。
(これが香澄の本性なんだ)
「香澄、私の友人にいくらなんでも言い過ぎじゃない?これ以上侮辱するなら友達止めるけどいい?」
「そんな怒らないでよ。まだ会は始まったばかりでしょ?楽しみましょう。ここは私が持つから」
主導権を握り、この場を支配して行く事に満足そうな笑顔を浮かべると店員を呼び、追加のワインを注文していく。
その後、すずの注意もあってか比較的穏やかに進んでいくが、お酒も入っているためか翔平の元カノである私について語り出してきた。
「翔平が言っていたんだけど、元カノさん、たしか……『彩』って言ってたかな。一緒にいても全然楽しくないし、高価な物贈っても迷惑そうな顔をするって言ってたわ。
それに抱いても反応薄いから萎えるって。そんな感じじゃ捨てられても仕方ないわよねー!」
その言葉にすずは膝に置いた両手をギュッと握り締め耐えているようだったが、私は限界だった。
「えーっ!あの時、いたんですか?」
「うん、だからびっくりしちゃって。でもありがとう。私もやらなきゃいけないから」
持つ鞄にキュッと力を込めた。
「あっ!すず、こっちこっち」
雑居ビルの地下にある扉の前で私達を待つ香澄が声をかけてきた。
緩く巻いた髪に、さながら花嫁のような白いワンピース姿でいる香澄は私を見るなり口元を押さえて笑いを入れてくる。
「この人がすずの友人?」
「そうだけど……なんで笑うの?」
「いいえ、別に。……はじめまして、伊藤香澄です。あなたは?」
私は少しだけ間を置き、息を呑んだ。
ここで『小泉彩』と名乗れば翔平の元カノであるとバレてしまうかもしれない。
そうなってからでは警戒されると思い、ここにくる間に二人で口裏を合わせ、『高野美樹』という架空の人物を作り出し、名乗る事にした。
「高野美樹です」
「高野さん、失礼ですが、おいくつ?」
「どうしてですか?」
「あらっ、気に障ってしまいました?すずの友人だから、同い年の方が来るのかなと思ってましたけど、どうやら違うみたいなので」
「……30です」
「30!あら、そう!へぇー」
「ちょっと、香澄。言い過ぎじゃない?」
「ごめんごめん、そんなに怒らないで。とりあえず中に入りましょう」
扉を開く香澄からは少しキツめの薔薇の匂いが鼻を刺激し、先程の物言いといい、私はその後ろ姿をジッと見て後に続いた。
中は照明が落とされ、テーブルに置かれた蝋燭がぼんやりと灯るバーだった。
部屋の隅にはグランドピアノがあり、女性演奏者から奏でられる旋律が非日常的な雰囲気を醸しだす。
「乾杯っ」
ピアノから対角線にあるソファ席に私達は向かい合うように座り、赤ワインが入ったグラスをチンッと鳴らす。
「ところで高野さんでしたよね?すずとは何処で知り合ったの?」
「共通の友人がいて、そこで」
「へぇー。ねぇ、すず」
「なに?」
「高野さんっていつもこんな格好してるの?」
すずは私の方をちらりと目を送ると、すぐに香澄へと戻していく。
「そうだけど?別に私は変だと思わないけど、それがなに?」
「そうかな?だって、30でしたよね?もう少し男性受けを狙った格好をした方がいいと私は思うけど」
今の私は、黒のニットにワインレッドのフレアスカート姿でいた。
「充分似合ってるし、綺麗じゃない!」
思わず立ち上がり反論するすずの腕を掴み私は首を振ると、香澄へと告げていく。
「お気遣いありがとうございます。でも今の私は仕事が忙しいのでお相手はいなくても」
「あら、そうですか?そう言っていたらいつまでも一人ですよ??私なんて3人もいて、まぁ、いずれもお金持ちなんですけどね!」
ふふっと笑い、いかに自分が優れているかを声高に告げると、ワインへと手を伸ばす。
(これが香澄の本性なんだ)
「香澄、私の友人にいくらなんでも言い過ぎじゃない?これ以上侮辱するなら友達止めるけどいい?」
「そんな怒らないでよ。まだ会は始まったばかりでしょ?楽しみましょう。ここは私が持つから」
主導権を握り、この場を支配して行く事に満足そうな笑顔を浮かべると店員を呼び、追加のワインを注文していく。
その後、すずの注意もあってか比較的穏やかに進んでいくが、お酒も入っているためか翔平の元カノである私について語り出してきた。
「翔平が言っていたんだけど、元カノさん、たしか……『彩』って言ってたかな。一緒にいても全然楽しくないし、高価な物贈っても迷惑そうな顔をするって言ってたわ。
それに抱いても反応薄いから萎えるって。そんな感じじゃ捨てられても仕方ないわよねー!」
その言葉にすずは膝に置いた両手をギュッと握り締め耐えているようだったが、私は限界だった。
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