君から届く声を、僕は守りたい

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家から歩いて10分程にある公園。
ここにはブランコや鉄棒、砂場などありふれた遊具が置かれており昼間は子供の声で溢れているが、夜になると人気もなく設置された街路灯が寂しく灯る場所へと様変わりを見せる。
そんな人気のない夜ここに入るなり、彼女・三原梢みはらこずえは靴の踵で地面に線を引く。
そこから一歩、また一歩と数を数えながら遠ざかっていく。
そして、ある場所でその足をぴたりと止めると再び踵で線を引き終えると、こちらへと振り返る。

「おーい!聞こえていたらいつものようにっ!!」

彼女は手を大きく伸ばすと、まるで別れを惜しむかのようにブンブンと大きく振ってくる。

「はいはい」

僕・青山翔吾あおやましょうごは軽口を叩きつつも、それに答えるように手を真上に大きく伸ばす。
すると彼女は振っていた手を止め、今度は両手で大きく『○』を作った後、こちらへ声を届けてくる。

足元に引いた線を彼女は超えてはならないと告げているが、僕はわざとそれを超えてみた。

「こらっ!!」

遠く離れた場所から一直線にこちらへやってくると線の手前辺りからザザーっと足を滑らせ止まった。

「なんで超えるの!」
「なんで超えた事がわかるのさ?まさか見えているとか?」
「当たり前でしょ、何年してると思ってるの!」
「2年くらい?」
「分かってるじゃん!」
「それよりそろそろ選考でしょ?」
「……まぁね」

彼女は俯きつつ地面に引いた線へと目線を落とすと、風が僕らを通り抜けていく。
夜になってもさほど気温の下がらない夏の夜は外にいるだけでもじわりと汗が滲んでくる。
僕は手に持ったペットボトルの水を差し出し、ベンチへと促した。

「あの線って、たしか劇場の……」
「そう。ステージから最後方の客席までの距離」
「25m、だっけ?」
「うん」
「よく地声で届くよね。僕には無理だ」
「そりゃあ、ガリ勉くんには無理だよ。こうやってお腹に力を入れて出さないと」

彼女は立ち上がると、スゥーッと息を大きく吸い込む仕草を見せてくる。

「いいよ。どうせ『わっ』とか言いたいんだろう?」
「__っ!」


どうやら図星だったらしい。
吐き出す予定だった声をぐっと飲み込むと、今度はむすっとした表情に変わっていく。

「なんでわかるのさっ!」
「君は単純だから」
「ムキーっ!嫌味な奴!」

発声方法を教える機会を失った彼女はベンチへと戻ると、ペットボトルに口を付ける。

「君が役者になると決めた時から、もう2年も経つんだね。
最初は何言ってるんだと思ったけど、その夢まであと一歩の所まで来るなんて……」

僕は感心した。
内気な性格から学芸会の時は目立たずセリフの少ない役を選んでいた彼女が選んだ役者という世界。
絶対に叶わないと思っていたし、すぐに『無理だ』と言い、諦めるものだと思っていた。
でも、そんな彼女が劇団に入団し、いまでは表現豊かな感情を見せ、力強く僕に声を届けてくる。

「私もあの時見てなかったら選んでなかったと思う。だからあれが転機なんだと思ってる」
「……そうだね。でも続けるには体を労わるのも大切だと思う」

僕が鞄から飴を取り出すと、目を輝かせてくる。

「さすが名マネージャー!」
「……なったつもりはないよ」

はちみつ味の、のど飴だ。
受け取るなり舐めるというよりボリボリと音を鳴らし噛み砕いてる様子を見て、ため息を吐く。

だけど、彼女の声はいつも真っ直ぐ届いてくる。
そんな声を守りたいと僕はある決意を胸にした。



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