君から届く声を、僕は守りたい

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それから彼もなんとか第二希望まで考えたようで無事三者面談を終え、続く体育祭や期末考査をこなしていく。
そして冬休みに入る直前、僕の携帯電話が鳴った。

「終業式が終わった日の夜、会えないかな?」

彼女の声はどこか不安気であり、電話口の向こう側からは鼻をすする音も聞こえ、いまにも泣き出してしまうのではないかといった雰囲気であった。
目の前に迫りつつある試験を前に不安が募っているのだろうと思い、僕は『いいよ』と返事をした。



「来てくれてありがとう」

待ち合わせ場所は家から近くのあの公園だった。
先に来ていた彼女はブランコに座り、ゆっくり近づいてきた僕の事を見上げるが、その目は少し赤くなっていた。

「泣いてるの?」

問いかけた僕を見てはいるが、口は開かない。
その代わりに隣にあるブランコの鎖をカチャカチャと鳴らしてくる。
向かい合って話すのは今は厳しいらしい。
要望通り隣のブランコに腰掛けると、ようやく口を開いてくれた。

「私ね」
「うん」
「……怖いの。凄い怖い」
「それは、試験がもうすぐだから?」
「そう、いざ目の前に迫ってくると逃げ出してしまいそうになる……」
「でも君は役者になるって決めたはずだ。そのために高校も選択せずにこの道に全てを賭けようと」
「分かってる!……分かってるけど不安で押しつぶされそうなの。君は優しい言葉をかけてくれないんだね」
「えっ」

僕は彼女の方へ顔を向けたが、目を合わせようとせずただ膝に置いた両手をじっと見つめていた。

「こういう時は頑張れとか大丈夫とか言って欲しかった。批判する言葉よりもずっとずっとそっちの方がいい……」

タイミングを見計ったかのように、二人の間を冷たい風が通り過ぎていくとスッと立ち上がった。

「ガリ勉くんも受験勉強頑張ってね、応援してる」

僕の方を一切見る事もなく告げると公園を後にしていった。
いま、大きな間違いを犯したのかもしれない。
一人残された僕は去っていくその後ろ姿をただ見るだけで、追いかけることが出来ずにいた。




それから月日が流れていき、彼女は試験を受けたと思う。
あの日の出来事がきっかけで疎遠になってしまい、正確な日時を聞けずにいたから。

だけど、意外な形でその結果を知る事になった。

第一希望の高校に受かった僕は入学前の束の間の休息を取っていた。
そんな時、向かいの家に大きなトラックが止まる音を耳にし、窓の外を見るとその車体には『引越し便』の文字が見え、慌てて家を飛び出した。

数人の作業員が家に入っては段ボールを抱え、荷台に詰め込む作業を繰り返している。その様子を見ていると見慣れたママチャリを運び入れようとする光景を目にした。

「まさか……」

そう思った次の瞬間、彼女が小さな段ボールを抱え僕の目の前に姿を現した。

「……ガリ勉くん」

いると思わなかったのだろう。
僕の姿を見た瞬間、目を大きく見開いたかと思ったら抱えていた段ボールを落としてしまい、その衝撃で上部が開いてしまった。
転がってきた荷物の中から一つのパスケースが出てきて、そこには『劇団たいよう団員証』の文字が確認できた。

「受かったんだね」
「……うん」

すぐ側にいるのに、その声は耳を澄まさないと聞こえないくらい小さかった。
作業員達は忙しなく動いているが、僕らの間だけはまるで時間が止まったかのような静寂が流れ、互いに口を閉ざしていた。

でも、それを破ったのは僕だった。

「ごめん!あの時の僕は君に……」
「……いいよ、最初は会わないで行こうと思ってた。でも、弱音を吐いて逃げようとした私を、君は見捨てることもなく声を掛けてくれた。
嬉しかった。
それに、私の練習相手は君しかいないと思う。
これからお互い離れてしまうけど、もし良かったら私の相手になってもらえますか?」

深々とお辞儀をしてくる彼女は僕なんかよりずっと大人だと思った。
会っても口は聞かず、作業が終わればさっさと去る事も出来ただろう。
それなのに、僕に練習相手になって欲しいと願っている。
だから…。

「君の声を僕はずっと聞いていたい!
……だから、僕を練習相手にして欲しい」

「……ありがとう、ガリ勉くん」




彼女は車の助手席から体を投げ出し、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
僕もそれに応えるように、大きく手を振り続けた。

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