君から届く声を、僕は守りたい

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一連の動作を鳥居を超えた辺りで立ち止まり見ていた僕は、彼女がいま何を願っているのかがすぐに分かった。
劇団に入団できますように、だ。

願っていた時間はほんの数秒だったかもしれないが、彼女の後ろ姿からは今から歩もうとしている『道』への強い覚悟が感じられた。

そして頭を上げ、手をゆっくり離すと僕の元へと戻ってきた。

「君は良かったの?」
「えっ」
「だって、医者って壮大な夢があるんでしょ?神様にお願いしておいたら?」
「僕は神様が嫌いだ」
「なんで?」
「だって、平等じゃないから。
頑張った者が報われるなら、それが1番だけど、そうじゃない時もある。何倍も努力している人がいるのに、才能とほんの少しの努力をするだけの人に微笑む事だってある。
それはあまりにも不平等だ。
だから、僕は神様には祈らない」
「……君って意外と」
「……最後まで言わないで」



神社を後にした僕らの前に一匹の野良猫が姿を現し、彼女は夢中で追いかけて行った。
しかし、すんでのところで民家に逃げ込まれ追いかけっこは終わった。
すると、急に『ねこ』と僕に言い始めてくる。
どうやらしりとりが始まったらしい。
しばし付き合ってあげると彼女が『ペンギン』と言い、そこでゲームは終わった。
だけど、首を横に振り負けてないと言うから理由を尋ねると『ん』が二つ付いているからセーフだと言う。
首を傾げる僕に対し続けてきた。
数式で『-(-1)』は『+1』になる、だから『ん』が二つあっても大丈夫なんだと。
……どこまで自由なんだろう。

試しに僕が『あんぱん』と言ったらどうなるのか聞くとそれは負けらしい。
よく分からない……。





夏の太陽がようやくゴールテープを切った事で季節が進み、生温かった風から肌寒さを感じる風へと変わった秋のある日。

担任がHRで僕らに一枚のプリントを見せてくる。
どうやら三者面談が始まるそうで、回ってきた用紙には第二希望まで書く欄があり、提出期限は明後日だそうだ。

「翔吾、お前どこ受けるんだ?」

一緒に帰る祐介が尋ねてきた。

「僕はここにするつもり」

進学先は夏休みの間に決めていた。
医学部への進学率が高く、また家から通える範囲の高校に絞っており、第二希望まで埋めた状態のプリントを見せた。

「ここかぁ、お前は頭が良いから大丈夫だろう。頑張れ!」
「ありがとう。そういう君は?」
「俺は頭悪いからなぁ、行ける場所なんて少ないから困る。でも高校に行かないって選択は無いからどこかには入るさ」

彼の言葉はズシリと重く感じた。

『高校に行かない選択は無い』

普通だったらこれが当たり前なのかもしれない。
しかし彼女は…。

「んっ?」

祐介は急に後ろを向くと大きく手を上げ、誰かに合図をしているようだった。

「おーい、三原!」

その視線の先には彼女が一人でこちらに向かい歩いてきていた。

「どうしたの?」
「いやー、いま翔吾と進路のことを話しててさ。……三原は高校どこを受けるつもり?」
「えっ」

彼女は僕に視線を送ってくるので首を軽く振り、漏らしてないとアピールした。

「三原って割と頭良さそうだし、良い高校を志望してるとか?」
「祐介、今のは失礼じゃ……」
「あっ、そうか。……悪い」
「ううん」
「で、どこ?」

目を落とし、少し考えた後、口を開いた。

「……なんとなくここかなぁっていうとこは。でも明後日までには決めないといけないから」
「あぁ~そうだった。明後日って早過ぎるよな。急すぎる!」
「でも夏休み入る前に先生言っていたよ。『遊ぶのもいいが、ちゃんと将来も考えろ』って」

僕はその言葉に頷いた。
確かに終業式の後のHRで言っていたから。

「全く覚えてないって、それ。……まぁ、考えてみるか。じゃあな」

彼は僕らの前から小走りで去っていった。

それから、しばらく沈黙が流れた後、鞄から一つの封筒を出し、僕に見せてきた。
そこには『劇団たいよう 入団申込書在中』と書かれており、中の用紙はもう全て記入済みだと告げてきた。

「……じゃあ後は」
「うん」

道に設置されたポストを見つけ、近づき投函すると、あの時の神社と同じように手を合わせていた。

「いこっか」

夢への一歩を今踏み出した彼女の目はとても澄んでおり、まっすぐ未来を見据えているように見えた。







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