君から届く声を、僕は守りたい

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走れば5秒とかからない25mという距離。
あっという間に着くその向こう側には急にやってきた事に驚く彼女がおり、目を大きく見開くと、ほんの少し後ずさりをして身構えていた。

「届いた、届いたよ。君の声が!」
「えっ」
「全部ではなかったけど、ちゃんと僕に!!」

興奮気味に話す僕の言葉になぜかがっかりした表情を浮かべ俯いていく。

「どうしたの?なんでそんな悔しそうな顔に?
前は半分くらいしか届かなかったけど、今日は本当に届いた。凄い事だよ!」

成長している事に嬉しさを爆発させる一方で、いまだにうなだれている彼女。
どうしてそこまで…と思い、理由を尋ねた。

「……全部じゃないんだよね?それだったら今は素直に喜べないかな」
「どういう事?」
「だって……」

彼女の口から語られる言葉にさっきまで興奮気味だった僕は声を失った。
なんでも今回の舞台場所は僕らが初めて見たあの劇場で行うらしく、実際にそこで練習もしているそうだ。
最後方の客席に団長や先輩達が座り、声を届かせる事は達成できたのだが、結果は今日と全く同じらしい。

「全然成長してないなぁ、わたし……」

弱音を吐く彼女に対し、僕は怒気を込めて言った。

「そんなこと言うな!始める前の君からしたら何倍も、いや、何十倍も凄い事をしてる。実際に届いたんだから。
僕は本当に嬉しかった。こんなにも努力してるんだって」

僕は持つ台本を何度も彼女に見せ今までやってきた事は無駄じゃないと諭す。

「僕だってそうだ。
模試を受けても毎回判定は『C』か『D』だ。
それこそ駄目かもしれないって何度も頭を抱えるけど絶対に諦めない。なりたい夢はすぐそこにあるんだから!」

「ガリ勉くん……」

「悔しい気持ちも分かる。でも、君なら出来る。今日、僕に届いたんだから」

あの日言えなかった言葉を僕は伝えることが出来た。
あの時のように批判する言葉ではなく、心から応援する言葉を。

「……ありがとう」

近付いてきた彼女はそっと手を添えてきた。






「今日はありがとう。……それと嬉しかった」
「うん」
「じゃあね」

駅まで送り届けると前回みたいにずっと手を振る事もなく、軽く手を振った後は構内へと消えていった。
手に持つ台本は、今日よりももっとボロボロになるかもしれない。
でもそれは悔しさから破ってしまうのではなく、成長するために何度も開くから。


その後、彼女からのメッセージで舞台は来月末に行うと教えてもらったので、お互い時間が許す限り会い、そして練習をした。
手にはあの台本を持ちながら。

そして、その日を迎えた。
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