真っ白だった俺を色付けた君は儚い

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なぜここに

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本棚と本棚の間を通り、ゆっくりとその女子高生へと近づく。
黒髪の長髪が顔全体を隠しており、どんな顔かを確認することができなかった。
だけど、体は細身だ。
一瞬、顔をこちらを向くような素振りを見せたので適当に本棚から一冊本を取り、読んでいる振りをした。

(やべぇ……バレちまったかな……?)

開いた本を見ながら横目で様子を伺った。
視線が絡みつくような感覚は無いので、どうやらバレてないみたいでホッとした。
だけど、やはり、気になる…。

すると、女子高生はボックス席のテーブルの端に両手を置き、グッと力を入れて体を立たせていく。

「えっ?」

そんな行動を取るとは思っておらず、俺は咄嗟に声を漏らし、横目だった目をそちらへと向けてしまった。

声が聞こえたからか。
その女子高生は俺の方に顔を向け、バッチリと目が合った…。

「……あんた」
「こ、浩二、さん?」

小野さんだった…。

「えっ、いや、……今日、学校だろ?それに、なんでこんな場所にいるんだ??」

俺はすぐに疑問を投げかけると、小野さんは少し口をキュッと真一文字にし、合わせた目を少しだけ泳がす。

「……今日は、創立記念なんです」
「創立、記念……?」
「はい、だから休みで……」

高校にそんな日があるのか…?と俺はすぐに疑った。
俺が知らないだけで実はそういう日が高校にはあり、それがたまたまこの日って事か…?
だけど、少し挙動がよそよそしい所を見ると『嘘』かもしれないとも感じてしまう。

「な、なぁ、本当なのか?あんたみたいな奴がサボるとは思えねぇのだが……」
「……疑ってるんですか?」
「悪いが、今はそう思っちまう」
「そうですか……」

小野さんは立ち上がった体をまたダークブラウン色の長いソファーへと腰を下ろしていく。

「……悪い」
「いえ……」

何かここにいる理由でもあるのか、と思い、俺は本を持ったまま小野さんの向かいのソファーへと座った。

「座って良かったか?」

座る前に聞けよ、って言われそうだが、俺は自然とそうしており、持っていた本をソファーと同じ色をしたテーブルに置いた。
小野さんは両手をテーブルに出し、指先を絡め、落ち着きなく握ったり離したりしていた。
その手元には昨日、店で見た参考書が置かれ、その横にはA4サイズのノートがあり、小さな字でびっしりと文字が書かれていた。

「ここで勉強を?」

問いに指は絡めたまま首だけを頷かせる。
見つかってから様子がおかしい。
一心に書いていた時とは違い、今目の前にいる小野さんは肩に力を入れ、目は伏目がちだ。

「あの」
「なんだ?」
「……浩二さんは、なんでここに?」

これ以上自分を問われたくないのだろうか、矛先を俺に向けてきた。

「俺は……」

学校も行ってない俺は見つかっても怖い物がないから、朝起きた出来事を喋り、そしてここに来た理由を語り始めた。

「そうですか……」
「なぁ、サボりはあまり良くないぞ?俺なんかがいうような立場じゃねぇけど、やっぱり学校は今からでも……」

昨日の万引き未遂の時みたいに、説教っぽく語り始めた俺は気付いたら持っていて本をギュッと両手で持っていた。

すると、小野さんは座ったソファーに置いたトートバックを漁り出し、小さな手帳を出してきた。
緑色のカバーに入ったそれには『成徳高校 生徒証』と書かれており、学生証のようだ。
その中をペラペラとめくっていき、止まった所で俺に提示してきた。

「……四月二十三日、創立記念日」

そう、今日はまさにその日であり、小野さんは何一つ『嘘』などついていなかった…。
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