真っ白だった俺を色付けた君は儚い

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敵わない

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差し出したお金が戻ってくる事に『えっ』と困惑する声を出しながらお金と俺を交互に見てくる。

「この金、返さなくていいわ。友達ダチとなんか良いもん食いにいけよ」

小野さんの参考書の前まで差し出すと俺は指を離し、席を立とうとした。

「えっ、でも」
「いいって、貸した本人が言うんだから、しまっときな」

俺は席から離れ、本来寝ようとしたボックス席へと移動しようとした。

「いま、友達と食べに行け、って言いましたよね？」
「あん？あぁ、言ったぜ。それが？」
「じゃあ……私と何か食べに行ってくれませんか？」
「……俺と？」
「はい、……ダメですか？」
「いや、今、言っただろう？友達と行け、って」
「私……友達、いないんです」
「あぁ？？」

小野さんの告白に俺は行きかけていた足を止め、再度向き返していく。
一方で告白した小野さんはまた口を真一文字にするが、目だけは真剣だった。

「本当にいないのか？」
「……はい。私、小さな時から勉強ばかりで、休みさえ監視されながら勉強してきました。だから遊びなんてほとんどした事なくて…」
「で、でもよ、学校に行ってるんだから少しくらい……」
「輪に入るのが苦手で、学校でさえ、一人で過ごしていて……」

なんだか、俺と似てるなと思った。
人を避け、自身のテリトリーのみで生活している。
そんな環境を俺は苦に思った事はないし、むしろ、自由に生きれるから願ったりだと思っていた。
だけど、目の前にいる小野さんは、苦手とは言いつつもこんな俺を誘おうとしてくれている。

「友達、欲しいのか？」
「……浩二さんがよければ」
「なんで俺なんだよ？昨日会ったばかりだろ？俺の事何も知らないでよくそんな事言えるな」
「じゃあ何故、昨日私を捕まえて優しくしてくれたんですか？」

その質問には少し困った。
見た目が良く、あわよくば仲良くなれたら…なんて言えない。

「そ、それはだな……」

なんて答えたら正解なんだと頭を巡らす。
本音をいっちまえば1番楽なんだが、それは流石に自分がさっき言った言葉を否定してしまう。
困り、頭を掻き、本棚へと目を移す。

「……気になったから、とかですか？」
「えっ」

女の勘ってやつか？それか、偶然か？
正解を言う小野さんへと目を移動させる。
その顔は笑うでもなく本当に真剣に俺を見てくる。

「いや、違う、違うぞ」

俺は首を振り、すぐに否定をするも、その表情は焦り、真っ直ぐ見る事が出来ず、今度は俺が口をギュッと閉じてしまった。

すると、座っていた小野さんは差し戻した一万円札を取り、立つと俺の方へとやってきた。

「これ、浩二さんと使いたいです」

お金を両手で丁寧に持ち差し出してくる。
そんな行動を横目で見て、俺は、敵わないなと感じてしまった。

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