真っ白だった俺を色付けた君は儚い

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「どうかしましたか?」

見ていた気配を感じ取られたのか、猫と戯れながら俺を見てくる。

「いや……」

俺は少し目を外し、近くのソファーに座り店内の様子をぐるりと見て回る。
自分では来ない空間はなんだか変な気分だ。
至る所に猫がおり、道端で遭遇する猫とは違い、ここにいる猫は威嚇する事なく、淡々と過ごすか入ってきた人に甘えたり擦り寄っていく。

だけど、たまに目が合う猫はチラッと俺を見るが、俺が何も反応を示さない事を感じると、サッサとどこかに行ってしまう。
猫なんて自由だ…。

「はぁ~……」

戯れていた小野さんは満足そうな声をあげつつ、俺の前のソファーへと座り出す。

「どうした?」
「いえ、やっぱり来れて良かったと思って」
「そうか、良かったな。……んっ?」

小野さんの髪に白い毛が数本付いている事に俺は気づいた。

「どうかしましたか?」
「……髪に毛が」
「どこですか?」

小野さんは慌てた様子で左髪を撫でるが、付いてるのは左ではなく、右だ。

「いや、……右」
「こっちですか」

だが、少しは取れるが完全に取り除くことは出来ていなかった。

「……大丈夫ですか?」

俺に右側を見せ、確認を取らせてくる。

「いや……まだ」
「あの、取ってくれませんか?」

少し体をテーブルに寄せ、右髪を俺の方へと近づけ取る様に要求してくる。
綺麗な黒髪の間に挟まった白い猫の毛。
店内の照明に照らされているせいでもあるのかキラリと光り、その白さが際立ってしまっている。

差し出された髪へとゆっくり右手を伸ばし取ろうと初めてその黒髪に触れた。
髪と髪に絡まるように付く毛は取ろうとする度に奥へと入ってしまう。
その度に俺はドキッとしてしまう。

(こんなに滑るのか……)

綺麗な黒髪はとても艶やかで触れるとスルッと指が下へと落ちていく。

「浩二、さん?」

なかなか取れない俺に不審感を感じたのか、疑問符を投げかけられ慌てた。

「……すまない」

すぐに俺は白い毛を軽く摘み、人差し指と親指でそれを下へと滑らせながら取り、小野さんへと見せる。

「ありがとうございます」
「いや。……こっちこそ」
「えっ?」
「いや、なんでもないぞ……」

取った白い毛は少しの間、俺の指で掴んだままだった。





「ありがとうございました」

その後、俺達は猫カフェで過ごし、もうお昼近くになっていた。

「さて、これからどうするんだ?」
「今日も夜、お仕事ですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「ごめんなさい、長くて……」
「いや、謝るなよ。……友達だろ、気にすんな」
「優しいんですね、やっぱり」

本当はもう少しいれたらと思った。
だが、長々と連れ回すのは俺のエゴになってしまうのでここで解散する事を提案した。

「じゃあな。勉強頑張れよ」
「あっ」
「んっ、なんだよ」

引き止める小野さんの右手はトートバックの紐をキュッと掴み俺を見てくる。

「あの……良かったら、浩二さんの連絡先聞いても良いですか?」
「俺の?」
「はい……迷惑じゃなければ……」

少し緊張した面持ちで見ていた目はトートバックへと移し掴んだ右手をしきりにグッと握ったり離したりしていた。

「……なんだ、そんな事か。いいぜ」

ちょっと強がりつつ答えたが、俺は嬉しかった。
繋がりが出来たと思ったから。

ズボンからスマホだし、小野さんへと差し向ける。

「ありがとうございますっ!?」

すぐにスマホを出し、俺らは連絡先を交換し、別れた。


交換した連絡先の小野さんのトップ画は先程見せてくれたあの微笑む写真だった。
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