真っ白だった俺を色付けた君は儚い

手段

相当慌てているのだろう。
キィィとタイヤの滑る音を何度も鳴らしながら俺の視界からいなくなり、俺はガクッと項垂れた。




突然の親の介入から日が過ぎ、あっという間に年が明け、もう少しで２月になろうとしていた。

連れ去られたあの日から俺は何度もメールを送った。
でもそのどれも既読にはならず、電話をしても呼び出し音すら鳴らない。
多分親が俺からの連絡が入らない様に手を打ったのだと思う。
俺の小野さんへの連絡手段は完全に断ち切られた…。


連絡も取れず、無気力になった俺は任された配達のミスを連発した。



「おい、浩二」
「……なんすか」
「なにじゃねぇよ。またクレームが来たぞ」
「……そっすか」
「そっすか、ってお前なぁ」

俺は死んだ魚の様な目をして、全く覇気も無くなり、持っていたヘルメットをだらんと右手にぶら下げた。

「いくら連絡が取れんつっても、そこまで落ち込むか？」
「……」
「そんなに入れ込んでいたのか……。場所、分からんのか？」
「知らねぇっすよ……」
「でも、走って行った方向くらいは見てたんだろ？」
「まぁ……」
「ならその辺探してみたらいいじゃねぇか？もしかしたら案外近い場所に住んでるかも知れねぇし、それに、そいつ、医者なら検索しまくれば載っとるだろ？」
「……あっ」

オーナーの言葉を聞くまで全く思いもしなかった。
今の時代、HPホームページを見れば医者の紹介もある。
何処の病院にいるかも探そうとすれば探せる。
なんでそんなことに気づかなかったんだろう…。

「おっ。ちょっとはやる気になったか？」
「うっす」




俺は早速家に帰るとスマホで検索をかけた。
主に高倉を中心に検索を掛けていく。
だけど、ヒットする病院には『小野』なんて名前の医者はいなかった。

（くそっ。そこじゃねぇのか…）

でも俺は諦めず何度も違う場所を調べていった。

（なんでだよ。なんでいねぇんだよ……）

高倉周辺の地域を調べても出てこなかった。

「どこなんだよ！」

俺はベットに腰掛け、出てこない名前に声を張り上げていた。
すると、階段を登る音がしてきて、許可なくかぁちゃんが入ってきた。

「だから、ノックくらいしろって！」
「うるさいね～。自分だって今大声あげていただろうが」
「俺はいいだろ、別に」
「どんな理屈だい」
「それよりなんだよ？」

かぁちゃんの手元には茶色の封筒が握られており、それを俺に渡してくる。

その封筒は至って普通の細長い物だった。
しかも住所と名前のみで、裏面を見ても何も記載が無い。
企業とかの案内なら社名が入った封筒を使うはずなのに…。

「いらずらじゃないのかい？」
「知らねぇよ」
「はいはい」

かぁちゃんは頭の後ろを掻きつつ、俺の部屋を出て行った。

「誰だよ……」

俺は受け取った封筒の糊付けされた部分を強引に破り、中を改めた。
中には白い紙が一枚入っているだけで他には何も無かった。

パラっとその紙を開くと驚いた。

「なっ、なんで知ってんだ？？」

手紙の送り主は小野さんだった。

「名前はともかく、住所なんて教えたつもりはないぞ？」

手紙を読むとその謎が解けた。

「あんた、スゲェよ……」

どうやら最後に会った際に見せた俺の免許証の住所を記憶したらしい。
じっと見ていたのはそういう事か…。

文面の前半は謝罪がつらつらと並べられ、そして、無事に試験は終わり、今は結果を待っていると書かれていた。

「そうか……良かったな」

最後に自身の名前が書かれており、その下に見慣れないアドレスが書かれてあった。

「これ、パソコンの、か？」

携帯会社が設定しているアドレスではなく、終わりが『co．jp』になっている。

それを見た俺はすぐにそのアドレスを打ち込み、連絡を取った。