真っ白だった俺を色付けた君は儚い

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グズりながら鼻を啜る小野さんを前に俺は何も言えなかった。
だって、今喋ってきた内容は『別れ』のようだから…。

その後、俺らは出された料理をお互いに無言で食べ、そして店を後にした。





店を出た小野さんはスッと俺から離れるように足を駅の方へと向け、歩き出す。

「ちょ、ちょっと待てよ」

すぐに小野さんの後を追いかけ、すぐ横に付き、足を止めてもらう様に説得した。
それでも俯きつつ足を止めない小野さんに俺は体を進行方向を塞ぐように入れた。

「……危ないですよ、浩二さん」
「いや、そんな事いいだろ。まず止まってくれ」
「……どうして?」
「どうして、だと?」
「話は済みましたから……」
「なんだよ……それ。あんた、俺を好きだって言ったよな?あれ、嘘か??」

問いにただ黙り、頭を下げつつその場に立ち尽くしていた。

「……嘘じゃないんだろ。それに約束だってしたじゃねぇか?テーマパーク行くって」
「……それは」
「なんだよ、それも嘘なのか??俺に気を持たせるだけの」

イライラし始めた俺は立ち尽くす小野さんの右手首を掴んだ。
掴んだ瞬間、ビクッと反応を示し、そして手を握っていた。

「……嫌か?」

だけど何も答えない。

「なぁ、……何処かで話そう、なっ?」

俺は手首を掴んだまま周りを見て何処か座れそうな場所は無いかを探した。
場所は駅のロータリー付近まで来ており、そこにはいくつか座るためのベンチが設置されていた。

「とりあえず、そこに座ろう」

ロータリーにはハザードを付け、駅からの帰宅を待っている車が沢山あった。
俺はそんな車が待機している近くに設置された茶色の長ベンチの一つへと小野さんを引いていった。

すると、近づき座ろうとした時だった。
ハザードを付けていた白いセダンの助手席から一人の男性が降りてきて、座ろうとする俺の近くへと向かってきた。

「恭子」

その男性は小野さんのことを呼び捨てで呼び、その声を聞いた瞬間、小野さんは掴まれていた手をスッと引き抜いた。

「誰だ、あんた」
「浩二さん……私の、……父です」
「なにっ」

目の前にいる少し白髪混じりの男性。
細い銀色フレームの眼鏡をかけ、黒のチェスターコート、グレー色の上下スーツ姿。
眉間に少し皺を寄せ、睨むような目は不機嫌そうだとすぐに分かった。

「……君が恭子にちょっかいだしているんだな」
「ちょっかいってどういう意味だ」
「……ふっ、口の聞き方も分からん様な奴か」
「あぁっ!?」

言い争う俺らを見て小野さんは心配そうな顔で俺を見てくる。

「まぁ、そんな奴なら濁していってもわからんだろうからはっきり言っておこう」
「なにがだ」
「恭子に近づくな、今後一切」
「……なんだと!?」

俺は少し離れた小野さんヘと一歩足を動かし、距離を詰めた。
すると、それを見た瞬間、小野さんの左手首を掴み、自身の元へと引っ張り俺から引き離した。

「言ったはずだ、近づくなと」
「……そうか、あんたが縛ってるんだな」
「縛る?」
「そうだろうが!行きたくもねぇ学校に行かせようとしてるじゃねぇか。聞いたぜ、そこしかダメだって」
「それが何か?」
「親なら行きてぇとこに行かせればいいじゃねぇか。それ、あんたのエゴだろ?」
「……」
「なんだ、黙るって事は認めるんだよな??あぁっ?!」
「……やれやれ。こんな『馬鹿』を好きになるなんてな。お前も見る目がない」

掴んだ手を少しキュッと握り込むと、小野さんは少し顔を歪めた。

「……いいか、もうこんな奴に会うな。お前の将来に響く。
お前は医者になって俺らの後をちゃんと継ぐんだ。いいな?」
「……」
「おい、……聞いてるのか、恭子」

さらにギュッと握り、より険しい顔になっていく。

「止めろよ!どう見たって嫌がってるじゃねぇか」

「悪いが、これは家庭の問題だ。お前の出る幕じゃない」
「てめぇ!」

俺は我慢を超え、小野さんの父へと向かっていった。

すると、向かってくる俺に対し、左手を上げ、目の前で手を広げる。

「手を出す気なら出せばいい。……だが、こんな大勢の前で殴れば逮捕されても文句は言えん」

(くっ……)

地面を滑らすように止まった俺は睨んだ。

「もう少し頭を働かせたらどうだ?……そんな風に行動するってことはどうせ大した学校に行ってもいないんだろう?」

俺は黙った。

「なんだ、図星か」
「……だったらなんだよ」
「なら教えろ、どこだ??」
「あぁ?」
「見たところ、高校生だろう。……教えてみろ」

その問いに俺はまた黙った。

「なんだ、早く教えろ。どこなんだ?」
「……いってねぇ」
「はぁ?」
「高校なんて行ってねぇ」

答えた俺を見て、少し黙った後、盛大に笑い出してきた。

「行ってない、だと!……あはははっ!?」
「なに笑ってんだよ!?」
「まさか、中卒とはな!だからそんな風なのか!?」

笑う父を見て小野さんが声を出してきた。

「……やめて、お父さん」
「恭子、こんなクズなんかに付き合うな、馬鹿が移る。一刻も早く帰るぞ」

掴んだ手首を持ち、降りてきたセダンへと向かっていく。

「待てよ!?」

すぐに俺は駆け寄ったが、それよりも早く小野さんは後部座席に押し込まれドアをガチャッと鍵をかけられた。
どうやら、運転しているのは母親らしい。

「おいっ!」

すぐに後部座席のドアガラスに俺は両手を突いた。

「出てこいっ!?」

すると、鳩尾みぞおち辺りに左手を差し込まれ、力強く振り払われると、俺は地面に尻餅を付いた。

「近づくなと言ったはずだ、チンピラ」
「っんだと!?」

すぐに立ち上がるが、一歩早く助手席に乗り込まれ、車は俺の前から逃げていった。

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