真っ白だった俺を色付けた君は儚い

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デート

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初めて人を乗せて運転する俺は前方もそうだが、隣に座る小野さんの事を気にしていた。

「寒くないか?」
「はい」
「喉乾いたら言ってくれ、コンビニ寄るから。それにトイレとか……」
「浩二さん」
「なんだ?」

俺は危ないと思いつつも、首を横に向け顔を見た。

「そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ」
「いや、でもよ」
「私は、今、この空間が嬉しいので。誰にも邪魔されず2人でいれる。私の方が感謝しています」

少し目を瞑り、両手を合わせ鼻先にくっつけていく。

「……良かった、あの日止めてくれたのが浩二さんで」

瞑っていた右目からは少しだけ涙が溢れてきた。
俺は左手をハンドルから離し、そっとその目尻に触れ、ゆっくりと拭った。

「泣くな、あんたがあの場所に来てくれなかったら俺は会わなかったし、いつまでもぐうたら過ごしていただけだ。
あんたが俺を変えてくれたんだ。お礼を言うのは俺の方だ」

俺が触れた左手に合わす様に右手を触れ、ゆっくりと下へと降ろしてきた。

「……暖かいです、浩二さんの手」

降ろした手の指と指の間をゆっくりと絡ませてきた。

「いいのか?」
「邪魔だったら言ってください。いつでも外しますから」
「そんな事あるか」

絡ませた指をギュッと握り、アクセルを踏んだ。





ーーーーー





「わぁ~」

俺は小野さんが来たいと言っていたテーマパークへとやってきた。

大きな装飾を施した門が目の前に現れ、その遥か上をジェットコースターのレールが聳え立つ。
またパーク内に入っていないにも関わらず人だかりが出来ており、どうやらパーク外にキャラクターが姿を見せ、写真を撮っているようだ。

「浩二さん、こっちこっち」

初めてだからだろう。
今まで見せたことがない笑顔を俺に見せながら入り口へと向かっていく。

(あんなに屈託なく笑う顔、初めて見たな)

俺を置き去りにして駆けていく様子は、まるで子供のようで…。

「危ないぞ、そんなに走ると」

俺もつい『親』の様な口調で注意を促し、駆けていく小野さんの背をずっと見ていた。

「あっ」

言わんこっちゃない…。

「大丈夫か」
「……すみません」

俺は地面の出っ張りに足を取られ膝から転んでしまった小野さんに右手を差し出した。

「だからいったろ。走ると危ないって」

口をきゅっと閉じ、少し顔を赤らめている。
周りには同じ様に走り、入り口に向かう子に対し親が大声を張り上げ注意しているシーンを見る。

「立てるか?」

「はい……ごめんなさい」

左手を握り、引き起こした俺は体に異変がないかを探った。
一方で転んでしまったことで付けていた手袋の掌部分が少しほどけてしまった事を気にしている小野さんがいた。

「……怪我したのか?」
「いえ、大丈夫です」
「いいから見せてみろ」

俺は少し解けてしまった手袋を取った。

「してるじゃねぇか、怪我」

掌の表面は線状の傷が形成されており、血が少し流れていた。

「……医務室くらいあるだろ、こういう所って」
「大丈夫ですよ、これくらい」

手をぐっぱっしながら大丈夫とアピールするが、握った時に少し顔を歪めた事を俺は見逃さなかった。

「……血を流していて大丈夫なわけないだろ。そんなのじゃ楽しむより、そっちのが気になって楽しめねぇ」
「浩二さん……」
「ほら、行くぞ」

俺は小野さんの右手首を掴み、入り口付近にある医務室に向かい、処置してもらった。




「本当にごめんなさい」

しょんぼりして入り口ゲート前に並ぶ小野さんは少し頭を下げていた。

「もう謝るな、もうそこ入ったら楽しむ場だろ?いつまでも謝っていたら楽しめねぇよ。……俺はあんたが楽しんでる顔が見たい」

トンッと小野さんが俺の体に身を寄せ、掌が包帯でグルグル巻きにされた手を俺の左手に忍ばしてきた。
急な事で俺はついピクッと反応し、そちらへ顔を向けた。

「……優しいですね、やっぱり」
「そうか?」

少し虚勢を張ったが、俺は嬉しかった。

「……この中は楽しむ場、ですよね?」
「あぁ」
「なら、……ひとつ約束してもらえますか?」
「なにをだ?」
「入っても、この手、離さないでくれますか?」

お互いの目はバッチリ合っていた。

「……そんな事か」
「嫌、ですよね……?」
「嫌なわけあるか」

俺は痛がってしまうかもしれないと思いつつも、ギュッとその手を掴み、開いたゲートの中へと向かった。
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