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事実はまだ…

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目線はブライスの顔にはなく、右腹に抱えられた本一点に集中していた。
しかもそれは私だけでなく、ブライスの後ろにいるユーリもまた同じだった。

「どこを見ている?」

異変にすぐ気付き、緩めに持っていた本をよりしっかりとそれに力を入れて持ち始めた。
ブライスの声にしまった…と思い、すぐに目線は本から顔に移したが遅く、怪訝な顔をして私を見ていた。

「なんでそんなにこれが気になる?」

抱えていた本を私の前に出し上下にブラブラとさせながら見せてくる。
それを見て、ここで聞くのが最適だ!と思い昨日から思っていた事をブライスに打ち明けた。

「…紙?そんなものはない、見たければみてみろ」

意外な答えだった…。
昨日では目線を送っただけで怒ったのに、今では見てみれば良いと言う。
そして前に出された本を私は手に取り、ページを次々に開いていく。
しかし…どこにもなかった…。

(なんで?昨日は確かにあったはず…見間違え?
いや、そんな事は無い。絶対にこの本の中に)

何度もページを行ったり来たりしてもどこにも挟まってる様子は無く焦る私をただジッと見ているブライス。
そしてユーリ。

「…満足したか?」

私から本を取り戻し、また右腹に抱え込む。
抱えながら踏ん反り返り私を見下ろすブライスを私は一切見る事が出来なかった。
出来るはずがない。
今の私にはどう償えば良いか…と頭の中が必死だったから。

そんな私の左肩にポンと手を置いてきたブライスにビクッとなり、体を丸める。
そしてゆっくり顔を耳元に近づけたら一言だけ言ってくる。
俺をちゃんと満足させるんだな…と。

「ユーリ、こいつはお前に任す。しっかりと見てろ」

耳元から離れユーリに言うとブライスはさっさと部屋を後にした。
でも出ていく際に閉めた扉の音はすこしキツめに聞こえた…。

「リーネ…」

出ていくブライスから目をこちらに向け近づくユーリの声はか弱く、2人して意気消沈の状態であった。

「ない…なんで…?」

「もしかしてこうなるのを予想して事前に抜き取って違う場所に置いたとか…。もしそうならやっぱりその紙は何かある、よね…」

2人で色々考えるが答えはブライスしか分からない。
そんな時に部屋をノックし戻ってきたロータスさんの手にはお盆。
その上には先程言った果物とポットと一つのカップ。

「お腹は大丈夫ですか?リーネ様」

「…はい」

空腹よりも今はなかった事実の方が大きく食べる気力さえ沸かなかった…。
何も食べないのは体に悪いです、といいお盆をテーブルに置くと直ぐに部屋を出て行こうとしていった。

「待って、ロータスさん!」

突然ユーリが声を上げ出て行こうとするロータスさんを呼び止めては問い詰めていった。

「ブライス様はなんで夜な夜な出かけているんですか?以前はそんな事なかったはず!」

意外だった。
私が思っていた事をユーリが口にしたからだ。
さらに続けていく。

「それにそんな夜に出かける場所なんてどこですか?
ロータスさんなら執事だし知ってますよね?
教えてください!」

声をかけるユーリを一切見ず、取手に手を置き、ただ俯いたままで質問には直ぐに答えようとはしなかった。
そしてゆっくりと取手を下に引いて扉を開けると出て行こうとする。

「待ってください!?なんで答えないの?何か知ってますよね!?」

ユーリはすぐに出て行こうとするロータスさんの左肩を掴み部屋へと押し戻していく。

「…離しなさい、いますぐに」

「嫌です。なんで答えないんですか?リーネの顔を見て!あんなに不安そうなのに」

ユーリに言われ私をチラッと見る。
でもすぐに私でもユーリでもない方向を向き顔を合わそうとはしなかった。
それは絶対に何か知ってる…と感じるには十分だった。

「早く言いなさい!?」

グッと肩を掴む手に力を入れるユーリだったが、左肩に乗った手を払い除けるようにバシっと弾いていき距離を取っていく。

「…あなたも貴族の出のはず。しかもイシュバールでしたね。
それならすぐにわかるはずでは?
あなたの家とこのライオネス家は深い繋がりがあるのも。
それが会食をしながら話す事くらいわからないのか?」

淡々としかも口調は怒る訳でもなく問い伏せるようにゆっくりと…。

「それに私に質問するのはあなたではなくリーネ様が普通では?
あなたは『ただの』使いのはず。
そんなあなたが私にそんな態度をとって済むとでも?」

「違う!?ユーリは私の大事な人!それをあなたに非難される筋合いはない!?」

我慢の限界だった…。
ずっと一緒にいてくれたユーリを非難するのが許せなかった。

「いま言いましたよね?私なら質問してもいいと。
なら、教えてください。
ブライスは夜、何も言わずに出ていくのはユーリの家だけですか?それとも…」

私の問いにロータスさんはユーリの家だけです。と一言いうだけだったが、到底納得できるはずもなく
私もロータスさんに近寄り距離を詰めていった。

「2人してしつこいですね。
そんなに気になるなら今日、あなたはブライス様と共にするはず。
その時に本人に聞けば良いのでは?」

私とユーリをゆっくりと交互に見てはもう話し合うのも無駄だとといった目を向け、さっさと部屋を後にしていった。
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