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『キジンの復活』編

第3話 ③

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 眠ったままの女の介抱かいほうはシェルティに任せ、オレは回復薬やアスカの回復スキルで治療中。

「状態異常を治すのも回復魔法よね?」
「ああ。薬でもいいけど、値段が高いからたくさんは買えないぞ。
 それにすっげぇ苦くて飲みたくないんだよなぁ、あれ」
「アイテムを使うのに好き嫌い言われても……
 でも、やっぱり回復魔法使いは必要みたいねぇ」

 眠りこけてるあの女が回復魔法を使えるなら、即仲間入りなのだが。近付いて見た時に腰に『短刀ダガー』が見えたし、魔法使いっぽくはない。

「そうそう。さっきの戦闘でレベルが上がって新技を覚えたわよ」
「さっきの、ってオレは何もしてないのにレベルが上がるのかよ?」
「そりゃ経験値は入るからね」
「経験値……。確かに、あまり経験できなそうな経験はできたが……」

 あと少しでお空のお星様。なかなかできる経験じゃないけど、経験する必要もないし、したくもなかったわ。

「──で、新技とは?」
「〈ヒロイック・ステップ〉。短距離を秒速二十メートルのスピードで移動できる。ただし、無敵時間は発生しない……らしいわ!」

 また何かを見て読み上げてるだけか、アスカの奴。

「またイマイチわかりにくいな。秒速二十メートルって結構な速さだけど」
「──あ、そっか。こっちもなぜかメートル法なんだっけ。一瞬、なんで通じるのよって思ったわ」

 ちなみに重さはグラム。これもアスカの世界と同じなのだろうか。
 話がれるから今は聞かないでおこう……

「秒速二十メートルって言えばなんかすごそうだけど、普通の人間が普通に走って百メートルを十秒切れるんだし、その倍速ってことでしょ。
 十秒に一度使えるみたいだけど、無敵時間もないなら使いどころは難しいかもね」
「ん……んん?」

 アスカの世界の人間は、が普通に百メートルを十秒で走るだと……?
 なんて恐ろしい世界だ。オレなんかが走って逃げてもすぐに捕食ほしょくされてしまうじゃないか……

「……やっぱりソースかケチャップをかけられるのかな。オレ」
「何の話よ。顔があおいわよ?」
「まあいい。〈ステップ〉だったな? 一応、覚えておくよ」

 〈ガード〉同様、きっと何かの役に立つのだろう。しかし、攻撃系の技は〈スラッシュ〉だけ。
 伝説の英雄なのに、こうも攻撃技がないのはどうしたものか。オレの実力レベルが足りてないってことか。

「ガウルさん、女の人が目を覚まされましたよ」
「おう、そうか。とりあえず事情は聞いておくか」

 眠っていた女に近付くと、ぱちくりとまばたきをしてこちらを見つめる女。その姿を見てアスカがつぶやく。

「着物に短いはかま? それに足袋たびかしら。パーカーのフードみたいに背中に頭巾ずきんらしてるわね。
 よく見たら濃い紫色だけど装飾そうしょくも少なくて全身黒っぽいし、なんか『忍者にんじゃ』みたいな格好の人ね」
「忍者……?」

 アスカの言葉をオウム返しした瞬間、女は勢いよく立ち上がり、短刀を構えた。

「なぜ、わかっタ! 忍者だっテ!」
「…………」

 ものすごい片言かたことな言葉づかいで叫ぶ女。ツッコミ待ちだとしか思えない。

「今……自白じはく、したよね?」
「くっ、知られたカラには、お命チョーダイ!」
「理不尽っ!」

 いきなり飛びかかってきた女の短刀を、オレは思わず英雄剣ではなく自分の剣で受け止める。

「……止められタ。リゼのかたなが……」
「お前、『リゼ』って名前なのか?」
「なぜ、知ってル!?」
「今、自分で言っただろ! いい加減にしろ!」

 何なんだ、この理不尽な危ない奴は。アスカは後ろで腹を抱えて笑ってるし……

「待ってください。忍者さん! ガウルさんは倒れていたあなたを助けてくれたんですよ!」
「え、そう……なのカ?」
「そうだよ、そうですっ! だから、武器をしまえってば!」

 つばぜり合いしながらオレが必死に訴える。
 すると、シェルティの助けもあって、ようやく武器をしまうリゼという女。

「申し訳ナイ。誤解していタ」
「まあいいけど……お前、どうみても外国人だよな?」

 服装もそうだが、しゃべり方からして異国人なのは明らかだろう。

「リゼ・ファイザン。それがリゼの名ダ。森使国しんしこくから来タ」
「森使国って、南の大陸にある『ナンスッド森使国』か」

 王国がある大陸の南の海の果てにあるもう一つの大陸。自然豊かで森が多いらしいその大陸に、森使しんしと呼ばれる君主くんしゅをおく国がある。それがナンスッド森使国だ。
 そういえば、森使国の『暗殺者アサシン』を忍者って呼ぶって本で読んだことを思い出した。

「──アスカ。忍者って暗殺者のことか。
 でも、暗殺者って感じはしないけどな」
「うん、しないわね。モンスターに眠らされてたり、自分で正体をばらしてたし、思いっきり忍者ですって服装で動き回ってたら逆に目立つわよ。
 ま、メインキャラが目立つ浮いた格好なのは、ゲームなら普通のことだけど」
「普通なのか……? オレが一番地味な格好してるぞ……」

 オレが主人公みたいなこと言ってたくせに、オレは『自警団員その二』みたいな軽装の鎧に地味な麻服あさふく
 アスカと二人でコソコソ話していると、人なつっこいシェルティは警戒心もなくリゼに手を差し出す。

随分ずいぶんと遠くから来られたんですね。大変だったでしょう。
 わたくしはシエ・ルティ・ラミス・アレヴァトレと申します。シェルティと呼んでください」
「あ、オレはガウルだ。ガウル・フェッセラース。よろしくな」
「……ガウル、シェルティ。うん、覚えタ。ヨロシク」

 シェルティのおかげか警戒心をくリゼが笑う。やっぱり血生臭ちなまぐさいイメージの暗殺者とはほど遠い。
 と、オレ達が話していると後ろでアスカがぼやく。

「私だけ自己紹介が必要ないって、なんか寂しいわね」
「気持ちはわからなくもないけど、仕方ないだろ」
「まあ、そうなんだけど……」

 決して仲間はずれにしてるわけじゃないけど、確かにアスカからしてみれば疎外感そがいかんがあるか。
 だからって、ここに戦女神のアスカがいるんですって二人に言っても信じてもらえるかどうか。

「──どうかしたカ? リゼがそんなに珍しいカ?」
「い、いや、そうじゃないんだ。オレ、森使国には詳しくないんだけど、森使国の人はみんなリゼみたいなしゃべり方なのか?」
「違ウ。リゼが『世界共通語』、難しくてしゃべれないダケ。下手クソだから間違ってたリ聞きづらかったリしたら、先に謝ル」

 今、オレ達がしゃべっている言葉を世界共通語という。読んで字のごとく、世界のどこでも通じる言語だ。

「仕方ないですよ。森使国は独自の文化で、今でも国内では独自の言語を使ってるんですから」
「同じ外国人でも、シェルティはしゃべり方うまいよな?」
「うまいも何も、わたくしの故郷の首長国セイオヴェストも話す言葉は王国と同じですよ。海外ですけど森使国よりも王国と近くて交流も深いですし、大昔は王国領だったので文化に大差はないんですよ」
「へぇ、そうだったのか」

 村を出たことがないので王国のことさえ知らないことも多いのに、さすがに他国の文化や歴史までは詳しくない。

「──そういえば、アスカも同じ言葉だよな?」

 と、ふと疑問を感じてオレはアスカに尋ねる。

「そりゃあ当然よ。言葉が同じなんて都合つごう上の問題でしょ。いくらこのゲームがリアル志向だからって、言葉まで通じなかったら大変じゃないの。あ、メートル法なのもそのせいかもね」
「どういう都合なんだよ……」

 もう悩むのも面倒だし『神様だから』で納得しておこう。
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