色彩色盲

カミーユ R-35

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新しい風

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副会長「では私は、この書類を風紀委員会に持っていってきますね」
そう言って副会長は生徒会室を出て行った。他のメンバー達が返事を返す中、僕はそれを黙って見届けてから大きくため息をつく。すると座っている会長が声をかけてきた。

会長「大丈夫か?」僕は少し疲れた声で返事をする。「うん…」
会長「そうか……何かあれば言ってくれ」
会長は微笑んだ後、また書類仕事を始めた。僕もそれに倣って自分の仕事を再度始めるが、どうしても頭の中はさっきのことでいっぱいだった。だからだろ…自分らしく無い行動を取ったのは───…。

椋橋「ねぇ、会長」僕は初めて僕から会長に声をかけた。
会長「なんだ?」会長は書類から顔を上げずに返事をする。
「会長ってさ……」自分から声を掛けた筈なのに、続きの言葉が出ない。「なんだ?どうした」不審に思った会長はペンを置き、僕の方を見る。僕は意を決して口を開いた。

椋橋「会長って副会長のことどう思ってる……?」
それはどう言う意味で?とは聞かず、会長は僕の質問に対して少し考え込んだ後、ゆっくりと答えた。
会長「そうだな……私はあいつを信頼しているし、尊敬もしている。だが、同時に警戒もしている。あいつは時々何を考えているか分からない時があるからな……」
何故か僕は会長の言葉を聞いて、心做しか少し安心したような気がした。しかし、それと同時に不安にもなった。

「そうか……」僕はまたため息をつく。すると、会長は立ち上がり、僕の肩に手を置いて言った。
会長「心配事でもあるのか?」
何も言えず黙っている僕に、会長が真剣な眼差しで僕を見つめていた。僕はその目を直視できず思わず視線を逸らしてしまった。(普段の僕らしくない…)

椋橋「いや……なんでもない」会長は僕の肩から手を離して再び席に着いた。「そうか、ならいいが……」僕はその後しばらく沈黙が続いた。そして、ついに会長が口を開く。

会長「ところで……お前達に提案なんだが、ここのところ最近生徒会の仕事が忙しくてな。あまり生徒会以外のことをする余裕がなかっただろう?そこでもう一人生徒会メンバーを取り入れたいと考えてているんだが……どうだろ?お前達の意見も聞きたい。勿論既に副会長には伝えている話だ」

会長は真剣な表情で僕達に聞いてくる。すると会計が食い気味に「何それ面白そうー。イイんじゃない」と返す会計に、会長は「ああ、だからこそ新しい風を取り入れたいんだ」と力強く答える。どうやら本気で考えているようだ。

星宮「ちなみに誰を入れるつもりなの?」会計がそう聞くと、会長は立ち上がり、自分の鞄から2枚の紙を取り出し、僕達にそれぞれ渡した。そこには『霧森 翔英 1年生』と書かれていた。

椋橋「これは……?」僕はその紙を見ながら尋ねた。
会長「ああ、彼は……お前達も見た事はあるだろが、生徒会に新しく入る予定の生徒だ。今年の、新入生代表のスピーチをやるっていたからお前達も顔くらいは知っていると思うが、入試で首席を取っていてな。なかなかの逸材だぞ」
会長が楽しげに話す。確かにあのスピーチはすごいと感じたが、正直言ってしまうと僕は苦手なタイプ。

椋橋「でも突然だね……そんな優秀な人材が生徒会に入るなら何故今頃?そもそもその人って生徒会になんて入る必要はないんじゃない?」
僕がそう言うと会長は「ああ、それは……」と少し言いづらそうにして話始めた。
会長「実はな……彼の親は有名な政治家でな。彼自身はどうか分からないが、将来は政治家の道に歩むだろう…だが、今の時代、政治家が何でもかんでも自分の思いのままなんて事は不可能だ。なら少しでも自分に有利な方向に進めるため、この学園に入学させることにしたらしいんだ」

椋橋「……親の都合」僕はボソッと言った。
星宮「その人ってちゃんと納得してるの?」
会長「分からない……だが、この学園に通う以上ある程度親の言う事は聞かなければならないだろうしな……それにもし本人が政治家になりたいと思ってるなら好都合じゃないのか?」

会長は淡々と語った。椋橋「……」僕は言葉を詰まらせる。話を聞く限り横暴すぎる話だとは思ったから…。(彼は何となく僕と一緒の様に感じた…)

会長「まぁ、この学園に通ってる時点でみんな何かしらの事情がある奴らばかりだ。みんな何かしらの思い入れがあるだろう……それに、これはあくまでも『優秀な人材を生徒会に入れ、学園をより良いものにする』ってのがコンセプトだしな。もしかしたら入学前は選挙とかで勝利するために親の力を借りてこの学園に入り、我々を油断させる作戦なのかもしれないな」
会長は冗談混じりに笑いながら言った。(それってつまり…)

星宮「まぁ 確かにね~。ただの一般人が生徒会役員に所属するなんて無理があるもんね」会計が苦笑いする。
会長「ま、そんな事はどうでもいい。兎に角新しい者が入ると言うことだ。今日はもう帰っていい」
話は終わったとばかりに会長は椅子から立ち上がり部室から出ていった。僕も帰り支度をして、生徒会室を出ようとすると……
星宮「椋橋」扉に手をかけた瞬間、会計に呼び止められ、僕は振り返った。星宮「……ちょっといい」星宮さんは真剣な面持ちで僕を見つめていた。

椋橋「何……」
星宮「さっきの話、アンタならどう思う?」
普段とは違う雰囲気に不審に思いながら「別に…僕はただ皆の意見に従うだけだよ」と言うと、会計は興味深そうな顔で。

星宮「いや、さっきは色々と言ったけど……俺は正直反対だな~。新しい風を取り入れるって言っても所詮は『政治家のコ』でしょ?有能な人材でもそれは教科書通りの事なら完璧でも、それが外れればどうなるか想像に難くないな~」

意外な言葉だ。会計は今まで生徒会長である会長の意見に全て賛成していると思っていた。
星宮「それに、その有能な奴がどんな人間なのかも分からないしね」と会計は続ける。
「……」僕は何と言っていいのか分からず、言葉が出てこない。
すると会計は、更に言葉を続ける。

星宮「だから俺と賭けをしようよ」
……賭け?会計が何いってるか分からない。
星宮「俺が負けたら、もう何も言わない。でも、もしアンタが負けたら……」会計はそこで言葉を区切ると、僕を睨みつけながらこう言った。
星宮「アンタの秘密をバラす」
その言葉に僕は一瞬ドキッとしたが、すぐに平静を装った。

椋橋「だから…?」
星宮「へ~、こんな状況でもアンタって相変わらず人形の様に表情が出ないんだ。お高くとまちゃって~」
会計は僕の目をジッと見ながら嘲笑した。

(……やっぱりこの人は苦手)
椋橋「僕は別に、君に人形の様にお高くとまってると思われても気にしない」
そう言って僕は会計をじっと見る。すると、星宮はまた僕を見て言った。
星宮「へ~生粋。氷の公がまさか売春紛いの事をしてるなんて学園の生徒達にバレたらって思うと面白そうじゃない?」
悪意の籠もったその言葉は、僕の心に突き刺さる(……売春紛い) 

星宮「だってアンタっていつも無表情だし、何にも喋んないじゃん?それなのに皆からチヤホヤされて。龍二だってアンタの事を……。俺、それが不思議で不思議なワケ。それに、生徒会メンバーの中でのアンタの立ち位置も気になるし」
会計は僕の目を見て言った。僕は一瞬ドキッとしたがすぐに平静を装う。
椋橋「……」
星宮「あれれ?もしかして、ビビってる?」
椋橋「……別に」
星宮「ふ~ん。まぁいいや」そして会計は僕に向かって嘲笑した。「じゃあ賭けの説明ね。ルールは至ってシンプル。これから入って来る霧森 翔英が何日保つか…。一ヶ月保つか保たないか、アンタはどっち?先に選ばせてやるよ」僕は少し考えた後、こう答えた。
椋橋「一ヶ月保つ…」
星宮「……ふ~んOK決まりね。じゃあ俺は保たない方か…。はは…一ヶ月後が楽しみ、頑張ってね!」そう言って会計は僕の背中をポンっと叩くと、生徒会室を後にした。
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