【完結】恋と瑠璃色の弾丸 〜番外編2〜

朔良

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黎明譚 【1】

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「ご無沙汰して申し訳ありませんでした。藤堂さん。」

藤堂堯之とうどうたかゆきの目の前に、唯一心を許した友人の一人娘が居た。
15年前の飛行機墜落事故でその友人夫妻と一人娘は死んだと思っていた。
しかし、15年の時を経て突然の連絡に驚いたとともに嬉しさが込上げた。
大事な友人の一人娘だけでも生きていた。その事実が嬉しかった。
名前を変え、過酷な時間を過ごしたであろうその子に慈愛の笑顔を向けた。

「葵・・。大きくなったね。若い頃のお母さんにそっくりだ。」

藤堂の言葉を聞いた葵は、フワリと笑顔を浮かべた。その笑い方は倉橋黎くらはしれいの笑い方にそっくりだった。




✡✡✡✡✡✡✡✡




今から20年前。
まだ、藤堂の父親が裏社会のフィクサーとして君臨しいてた頃。
息子の堯之たかゆきは父親の仕事を手伝い始めたばかりだった。
当時、中国マフィアの『メイ・ロン』が日本で勢力を伸ばし始めていた。
堯之はメイ・ロンについて探っていた所を構成員に見付かり追われていた。

「はぁ・・はぁ・・。くそっ!!」

繁華街を疾走し、路地裏に逃げ込む。
地の利は堯之の方がある。

「大丈夫だ。逃げ切れるっ!!」

その時、堯之の足元に銃弾が撃ち込まれた。

(嘘だろ?こんな所で発砲するかっ?)

「止まれ!!」

一般人を巻き込む訳にはいかない。
堯之は足を止めると、追ってきた二人組に向き直る。

「随分と見境無いんだな?こんな所で、チャカ出すなんて。」

平静を装う。

「何を探ってた?お前、何者だ?」

「別に?俺は一般人だ。何も探ってないがな?」

「嘘つくな。あの場所を知ってるのはおかしい。我々メイ・ロンの縄張り。日本人近付かない。」

(くそっ!しくじったな。俺もここまでか?)

死を覚悟した時だった。

『彼の者の動きを封じよーーーーー急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう!!』

背後から鋭い声が聞こえた。
淡い光が追手の二人を包む。

「何だっ!?身体が動かないっ!」

何故か、金縛りにあったかの様に動きが止まった。
堯之は訳が解らず混乱していると、後ろから手を掴まれた。

「今のうちです。こっちに!」

手を引かれ、走り出していた。
無我夢中で走った。何処をどう走ったか覚えていなかった。気付いたら、大きな公園に辿り着いていた。

「ここまで来れば大丈夫でしょう?貴方、お怪我はありませんか?」

堯之はそこで初めて男性の顔を見た。
年は堯之と然程変わらない位、和装の穏やかそうな雰囲気の男性だった。

「さっきのは一体・・?」

男性は手を離すと、身なりを整えた。

「ちょっと、彼らの動きを封じただけです。」

「封じたって・・?どうやって?」

「ふふっ。その辺は企業秘密って事で。」

男性はフワリと笑顔を浮かべた。

(何なんだ?この得体の知れない男は。とりあえず、関わらない方がいいな。)

「助けてくれた事は礼を言う。」

すると男性は堯之をマジマジと見つめた。何故か全てを見透かされそうで落ち着かなかった。

「いいえ。貴方が無事で何よりです。あのままだったら一般人も巻き込み兼ねない所でしたからね。」

「・・・。それじゃ、俺はこれで。」

「待ってください。これを持っていると良いですよ。」

男性は胸元から折りたたまれた紙を取り出すと堯之に渡した。

「これは?」

「お守りの様な物です。一度だけ貴方の身代わりになってくれます。」

(身代わり?こんな紙が?一体何を言ってるんだ?)

いよいよ、変な男に捕まったと思う。
とりあえず受け取るとジャケットのポケットにねじ込んだ。
その様子をニコニコしながら見ている男性に背を向ける。

「それじゃあ、

(また?)

振り向くと、そこには既に男性の姿は無かった。
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