3 / 8
黎明譚 【3】
しおりを挟む
(何で俺が・・・。)
堯之は不満そうにリムジンの後部座席で車窓を眺めていた。
数時間前。
父親に呼び出された。
「倉橋さんから花見の誘いが来た。俺が行くはずだったんだが急な用事が出来て行けなくなったからお前が行ってくれ?」
堯之は面食らった。
用事が出来たならば花見など断れば済むはずなのに自分に行けと言う父親に。
「・・・。断る選択肢は無いんですか?」
思わず本音が溢れる。
「無いな。倉橋とは良好な関係を築いておきたい。くれぐれも、失礼の無い様にな?」
(あの倉橋って何者なんだ?あの親父がここまで気を使うなんて・・。)
堯之は大きなため息を吐いた。
「堯之さん?大丈夫ですか?」
リムジンを運転している佐々木が心配そうに訊ねてきた。
「ああ、大丈夫だ。ただ、気乗りしないだけだ。」
「倉橋さんの別邸はもうすぐですので・・。」
「別邸?」
「ええ、倉橋さんの本邸は京都なんです。でも、東京での仕事が増えたからと別邸を構えたそうなんです。」
「ふん。いいご身分だな?別邸で呑気に花見なんて。」
「・・・。」
「佐々木?どうかしたか?」
「いえ、何でもありません。ああ、あそこが倉橋さんの別邸ですよ。」
東京郊外にある倉橋の別邸は、緑に囲まれた静かな所だった。
和風の平屋の玄関で堯之を迎えたのは、上品な着物を身に着けた美しい女性だった。
「遠い所ようこそいらっしゃいました。さぁ、どうぞお上がり下さい。」
女性に案内されながら庭を見ると桜が満開に咲いていた。
「黎さん。藤堂さんがいらっしいましたよ。」
障子を開けると倉橋黎が満面の笑みで迎えてくれた。
「堯之さん。よく来てくれましたね?さぁ、どうぞ。」
「失礼します。」
室内に入ると女性がお茶を出してくれる。
ぐるりと部屋を見渡す、屋敷も部屋も質素であるがどこか上品さがあった。
「堯之さん。こちらは、妻の沙織です。」
沙織は上品な笑みを浮べてお辞儀をした。
「藤堂堯之です。宜しく。」
「それにしても、堯之さんが来てくれるなんて嬉しいなぁ。」
ニコニコしながら倉橋が身を乗り出してきた。
「堯之さんとはゆっくりお話したいと思ってたんですよ。」
「そ、そうですか?」
「ええ。」
どうも、この倉橋相手だと調子が崩れる。
その時、廊下をパタパタと走る足音が聞こえた。
障子が少し開くと女の子が入ってきた。
「お母さん!」
女の子は沙織に抱きついた。
「沙羅?どうしたの?今、お客様が来てるのよ?」
「おきゃくさま?」
振り返り堯之を見つめた。
可愛らしい顔立ちの少女だった。深い瑠璃色の瞳が印象的だ。
「娘の沙羅です。沙羅ご挨拶しなさい。」
倉橋が声を掛けると堯之に近付きペコリと頭を下げた。
「こんにちは。」
「ああ、こんにちは。」
「おにいちゃんは、お父さんのお友達?」
「いや、友達という訳じゃ・・。」
「ちがうの?」
「沙羅。堯之さんとはこれから友達になるんだ。」
「これから?」
「・・・。」
不思議そうに倉橋を見上げた。
倉橋は優しい笑みを浮べていた。
「さぁ、沙羅も一緒に花見をするからお母さんのお手伝いしてくれるかな?」
「はぁい。」
「じゃあ、沙羅行きましょう?」
沙織は沙羅の手を引いて部屋を後にした。
堯之は不満そうにリムジンの後部座席で車窓を眺めていた。
数時間前。
父親に呼び出された。
「倉橋さんから花見の誘いが来た。俺が行くはずだったんだが急な用事が出来て行けなくなったからお前が行ってくれ?」
堯之は面食らった。
用事が出来たならば花見など断れば済むはずなのに自分に行けと言う父親に。
「・・・。断る選択肢は無いんですか?」
思わず本音が溢れる。
「無いな。倉橋とは良好な関係を築いておきたい。くれぐれも、失礼の無い様にな?」
(あの倉橋って何者なんだ?あの親父がここまで気を使うなんて・・。)
堯之は大きなため息を吐いた。
「堯之さん?大丈夫ですか?」
リムジンを運転している佐々木が心配そうに訊ねてきた。
「ああ、大丈夫だ。ただ、気乗りしないだけだ。」
「倉橋さんの別邸はもうすぐですので・・。」
「別邸?」
「ええ、倉橋さんの本邸は京都なんです。でも、東京での仕事が増えたからと別邸を構えたそうなんです。」
「ふん。いいご身分だな?別邸で呑気に花見なんて。」
「・・・。」
「佐々木?どうかしたか?」
「いえ、何でもありません。ああ、あそこが倉橋さんの別邸ですよ。」
東京郊外にある倉橋の別邸は、緑に囲まれた静かな所だった。
和風の平屋の玄関で堯之を迎えたのは、上品な着物を身に着けた美しい女性だった。
「遠い所ようこそいらっしゃいました。さぁ、どうぞお上がり下さい。」
女性に案内されながら庭を見ると桜が満開に咲いていた。
「黎さん。藤堂さんがいらっしいましたよ。」
障子を開けると倉橋黎が満面の笑みで迎えてくれた。
「堯之さん。よく来てくれましたね?さぁ、どうぞ。」
「失礼します。」
室内に入ると女性がお茶を出してくれる。
ぐるりと部屋を見渡す、屋敷も部屋も質素であるがどこか上品さがあった。
「堯之さん。こちらは、妻の沙織です。」
沙織は上品な笑みを浮べてお辞儀をした。
「藤堂堯之です。宜しく。」
「それにしても、堯之さんが来てくれるなんて嬉しいなぁ。」
ニコニコしながら倉橋が身を乗り出してきた。
「堯之さんとはゆっくりお話したいと思ってたんですよ。」
「そ、そうですか?」
「ええ。」
どうも、この倉橋相手だと調子が崩れる。
その時、廊下をパタパタと走る足音が聞こえた。
障子が少し開くと女の子が入ってきた。
「お母さん!」
女の子は沙織に抱きついた。
「沙羅?どうしたの?今、お客様が来てるのよ?」
「おきゃくさま?」
振り返り堯之を見つめた。
可愛らしい顔立ちの少女だった。深い瑠璃色の瞳が印象的だ。
「娘の沙羅です。沙羅ご挨拶しなさい。」
倉橋が声を掛けると堯之に近付きペコリと頭を下げた。
「こんにちは。」
「ああ、こんにちは。」
「おにいちゃんは、お父さんのお友達?」
「いや、友達という訳じゃ・・。」
「ちがうの?」
「沙羅。堯之さんとはこれから友達になるんだ。」
「これから?」
「・・・。」
不思議そうに倉橋を見上げた。
倉橋は優しい笑みを浮べていた。
「さぁ、沙羅も一緒に花見をするからお母さんのお手伝いしてくれるかな?」
「はぁい。」
「じゃあ、沙羅行きましょう?」
沙織は沙羅の手を引いて部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる