【完結】恋と瑠璃色の弾丸 〜番外編2〜

朔良

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黎明譚 【8】

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堯之は倉橋と一緒に沙羅が目覚めるのを待った。

「んっ・・・。」

沙羅がゆっくりと瞼を開けた。

「さらっ?」

「おとう・・さん?」

「痛い所は無いか?」

「うん。」

身体を起こすと堯之に気付く。

「おにいちゃん?」

真っ直ぐに見つめた沙羅の瞳は深い瑠璃色だった。
ホッとして思わず笑みが浮かぶ。

「沙羅。大丈夫か?」

「うん。」

「そうか。」

思わず沙羅の頭を撫でる。倉橋はそんな堯之を嬉しそうに見ていた。
その後、堯之は度々倉橋の元を訪れる様になっていた。

「おにいちゃん!こっち。」

沙羅に手を引かれ庭に出ると新緑が目に眩しかった。

「ほら、きれいでしょ?」

沙羅が指差す先には紫陽花が咲き誇っていた。

「ああ。」

「お母さんとお父さんといっしょにおせわしたんだよ!」

「そうか。」

頭を撫でると、沙羅はフワリと微笑んだ。




倉橋と堯之が出会って数年が経っていた。
堯之にとって、倉橋は唯一心を許せる友人になっていた。
何時もの様に仕事をしていると、佐々木が慌てて堯之の元に来た。

「堯之さん、大変ですっ!倉橋さん達の乗った飛行機が墜落したそうです!」

「何だってっ!!!本当なのかっ?」

「はい。今一報が入りました。」

一気に全身から血の気が引いていく。

「倉橋達は?」

「わかりません。まだ、情報が錯綜していて・・。」

「くっ・・。とにかく情報は逐一報告してくれ?頼む・・。」

「わかりました。」

力無く椅子に身を預けた。

(頼む、無事でいてくれっ。)

数日後、堯之の願いは残酷に引き裂かれた。

「乗客乗員全員死亡・・?」

乗客名簿を持つ手が震えた。名簿には倉橋夫妻と沙羅の名前が載っていた。

「倉橋っ!沙羅っ!くそっ!!」

手に持っていた乗客名簿をデスクに叩きつけた。

「堯之さん・・。」

報告をした佐々木も手を握りしめた。




✡✡✡✡✡✡✡✡




「藤堂さん?」

「ああ、悪いね。それで?桜は見れたかい?」

「はい。とっても綺麗でした。昔、藤堂さんとも一緒に桜を見ましたよね?」

懐かしそうに目元をほころばせた。
葵の深い瑠璃色の瞳が藤堂を見つめた。

「・・・。」

嬉しそうに幼い頃の話をする葵を優しい眼差しで見た。
昔と変わらない笑顔が懐かしかった。
でも、過酷な時間を過ごしたのかと想像すると酷く胸が痛んだ。

「葵。事故の真実を知りたくはないのか?」

藤堂の問に葵は目を伏せた。

「『憎しみに染まってはいけない。』父の最期の言葉なんです。」

(最期まで娘を思って・・。倉橋らしいな。)

「そうか、倉橋はいい娘を持ったな。」

葵はどこか寂しそうに笑った。

「私の事は父親だと思って頼ってくれ。」

「ありがとうございます。藤堂さん。」

葵と別れた堯之は車窓を眺めていた。

(倉橋。お前の娘は俺が守る。お前の分までな。)

スーツの内ポケットから昔倉橋から貰ったお守りを大事そうに取り出す。
ずっと、大切に持ち歩いていた。そのお守りをそっと握った。
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