青年A

宇佐川 昭俊

文字の大きさ
4 / 8
第3章

告白

しおりを挟む
 Cさんは、病院へ入院した。どうやら、あばら骨が折れたらしい。

 その間に、男子グループは、全員が警察の取り調べを受けた。
 
 直接Cさんに手を出した「リーダー格」の男子は逮捕され、他の者は、非行歴が付いた上に、全員退学処分となった。マスコミは、このニュースに色めき立ち、連日、校長先生や教育委員会の面々に、頭を下げさせた。

 そして、被害者であるA君も、顔にモザイク。声も変えてもらって、沢山の取材を受けることになった。
 
 その場で、全く抵抗しないCさんに、ひどい暴行を働いたリーダー。そして、周りでそれを見て楽しんでいた面々に対して、怒りの声を上げた。

 その合間を縫って、Cさんの入院する病院に足しげく通い、毎回のように感謝と謝罪を繰り返した。Cさんは、
「もういいの。私、転校することに決めたから。少し遠いけど、A君も来ない?」
と、誘った。

 しかし、A君は、家から学校まで遠くなること。通学の費用が高くなること。そして、悪者がいなくなったことで、転校の必要がなくなったと、即答で断ってしまった。

 色々御託を並べていたが、結局は、今の学校でなら、エリートでいられること・・・。Cさんの行こうとしている高校は、レベルの高い私立高校だった。

 そして、何よりも残忍なのが、Bさんのことを諦めきれないことだった。

 そんな恩知らずな自分が嫌で、御託を並べていたのだ。そんな、最低な深層心理を持ちながら、自分の中で明確に気づいていないところが、A君のひどいところだった。

 結局、Cさんのお誘いを無下にしたまま、Cさんは退院して、転校したため、せっかくかばってくれたのに、大したお別れも言えずに、会う事もなくなってしまった。

 彼女からしたら、一生懸命にA君をかばい、そして、別の高校に一緒に転校したかった。そこまで熱心に関わろうとしたのも、A君に好意を寄せていたからだと、A君は、気づいていなかった。

 しかし、Cさんの友人は、そのことをA君に伝えた。このままでは、あまりに不憫(ふびん)だと。

 A君は、驚いた。もしそれが本当なら、一緒に転校、とまではいかなくても、週末に、デートなどすれば良かった。僕も、わが身を挺してかばってくれた、正義感のあるCさんの事が気になっていたから、病院にお見舞いに行ったのだ。

 もし、もう一度チャンスがあるものなら、Cさんの事を大切にしたい。しかし、Cさんの友人も、もう連絡が取れない。この学校の面々とは、連絡を絶っていると、教えてくれた。

 A君は、心に哀しみを刻み込んだが、過去は過去。どうしようもできないと、開き直った。

 そして、何とかBさんと仲良くなれる方法を考え始めた。邪(よこしま)な気持ちで、勉強だけは頑張っていた。

 しかし、それだけでは、「利用」されるだけで終わってしまう。そこで、丁度、同じ委員会や部活に入る事。そして、何かしら接点を持つことから始めようと、閃いた時だった。

 先ほどの、Cさんの友人から、

「Cさんの住んでいるところは、変わっていないみたい。家に、連れて行ってあげようか?」

 そう声を掛けられた。A君は、2つ返事で、Cさん宅を訪ねる事となった。しかし、あまりに楽観的なA君は、拒絶される可能性を「友人」から聞き、慌てて菓子折りを買いに行くほどだった。

 昔から、いいところのお嬢さんだとは、聞いていた。だから、どんな邸宅。いや、豪邸に住んでいるのだろうと、とても気になった。

「ここよ!」

と、指さした先には、隣近所の家々の2倍の面積はあろうかという、広い2階建ての一軒家が、建っていた。

 A君は、その堂々とそびえたつCさん宅に、圧倒された。ほおっておいたら、朝まで茫然(ぼうぜん)としているだろうと踏んだCさんの友人は、チャイムを鳴らした。

「ピンポーン ピンポーン」

 A君は、その音で、我に返った。ここまで来たのは良いが、いったい、どんな顔をして会えば良いのだろう?
 
 女子生徒は、「じゃあね」と言って、速足で帰ってしまった。その後に、

「はーい」

という女性の声が、インターフォンから聞こえてきた。A君は、一気に緊張が高まりながらも、

「あのー、えっとAという者ですが、Cさんは、ご在宅でしょうか?」

と、何とか噛まずに伝えられた。

 Cさんは出てきてくれるだろうか? 少し時間が経ってから、玄関の戸が開き、あのCさんが出てきた。思わずホッとしたA君だったが、Cさんの表情は、硬かった。

「どうしたの? A君」

「Cさん。まずは、転校のお誘いを無下にして、すみませんでした」

「いいえ、それならご家庭の事情もあるだろうし・・・私立だから、こちらこそA君の事情も知らずに、ごめんなさい」

「違うんだ! あの時、すぐに断ったのは、実は、片思いの人が・・・」

「えっ!」

 Cさんは、あまりの衝撃に、口元を覆った。A君は、話を続けた。

「僕は、Cさんに助けられながら、感謝の気持ちはあっても、恋心は生まれなかった。さっき、同級生からあなたの気持ちを伝えられて、びっくりしたけど、今も、自分の気持ちが分からない。あなたに逢えば、自分の気持ちはどうなのか、分かると思ったけど、やっぱり、まだ分からない。突然押しかけて、こんな話でごめんなさい」

「・・・ひどい」

 Cさんは、溢れんばかりの涙を堪えていた。だが、A君はかける言葉も見つからず、下を向いた。Cさんは、泣き崩れ、こんなタイミングで、雨まで降ってきた。

 Cさんは、泣き崩れて動けない。A君も、このタイミングで帰るのは、非情な決断である気がして、只々、立ち尽くしていた。

 そして、数分が経ったころ、Cさんの涙と、雨が止んだ。そして、雲の間から晴れた空に、虹が架かった。

 二人はその虹に見とれ、段々と色が薄くなって、最後に消えてしまうまで見届けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...