青年A

宇佐川 昭俊

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第4章

悲哀

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 A君は、Cさん宅からの帰り道。とても、ふわふわしていた。自分の発した言葉は最低だったが、あの雨。そして虹が、全てを浄化してくれた。

 あの素晴らしい虹を見た後、またCさん宅へ遊びに行く約束をした。正直、口笛を吹き、スキップしたいくらい、嬉しかった。

 Cさんは、あまり美人といえる方ではない。しかし、何でも許容してくれる優しさがあった。そして、A君にとっては、人生で初めての「女友達」という訳だ。何だか、温かい気持ちをもらった気がする。彼女には、お世話になりっぱなしだ。

 しかも、彼女の家は、お金持ちである。「逆玉の輿」に乗れそうだということも、A君を高揚させた。

 今までは、スタイルが良く、美人さんで、明るいBさんが良い。そう思っていたが、Cさんみたいに、自分を好いてくれる女性は、とても貴重だ。この頃から、A君は、Cさんを意識し始めた。

 こうして、「自分を好いてくれるから好き」などという感情で、付き合っても良いのだろうか? まあ、いいや。Bさんを諦めることにはなるが、こっちの方が、義理も通って良い。

 ちなみに、Cさんと同じ高校に転入したい。そう両親に相談したが、即刻突っぱねられた。流石に落ち込んだが、Cさんとスマートフォンで連絡を取り合い、下校中に、待ち合わせていた。とはいっても、二人で家に帰る間に、お互い、今日あったこと。最近のテレビ番組などについて、話すだけ。どこまでも、純粋な恋だった。

 まるで兄妹のような、仲睦まじいその姿を、みんなが温かく見守っていた。

 時には、お互いの家を行き来し、ゲームに興じたり、テストの点数で張り合ったり、人生初の、キスも・・・。二人とも、夢のような、濃密な時間を過ごした。

 しかし、幸せな時間は、長くは続かない。Cさんの父親は、A君のことを、あまり良く思っていなかった。そのため、娘のCさんに「さよなら」のメールを打たせ、家を賃貸として貸し出し、家族全員で引っ越してしまった。

 A君がメールを受けて、Cさんのお宅を訪ねた時には、既に空き家となっていた。A君は、その場で崩れ落ちた。せっかく仲良くなれたのに・・・。

 一応、Cさんのスマートフォンに電話を掛けてみたが、一度も出る事はなかった。

 次の日から、また、なんでもない無味乾燥の学校生活が始まった。そして、それに慣れてくると、いつの間にかCさんの事も忘れて、自分の将来について考えるようになった。

 A君の目標は、国立大学への進学だった。そのため、視力が更に落ちても、予習、復習を欠かさなかった。

 また、学年が上がると席順が変わり、Bさんとは程遠い席になり、ますます勉学に励む・・・と言いたいところだが、残念なことに、遠くからBさんのことを眺めていた。それでも成績は維持されていたため、親や教師には、何も言われなかった。

 どうやら、風の噂では、既にBさんに告白して振られた同級生が何人もいるらしい。やはり、彼女は、男子には興味が無い。それはつまり、恋愛にも興味が無いと考えられる。正直、他の女子生徒に、妬まれているのでは? と思ったが、やはりそうだった。廊下を歩いていると、Bさんに関する噂を小耳にはさんだ。

「Bさん。また男を振ったらしいよ!」

「えー、誰? 誰を振ったの?」

「本当に鬼だわー」

「男の事で、昔のトラウマでもあるんじゃないの?」

「何それー。チョーウケる(笑)」

などと、好き放題言われていた。モテるのも、大変なんだな。モテたことのないA君でも、同情した。

 それから数日が経って、ある日の休憩時間。A君は、次の授業に備えて、教科書を斜め読みしていた。そこへ、Bさんが声を掛けてきた。

「あの、さっきの授業で、分からなかったところがあるので、できれば教えて欲しいのだけれど、大丈夫かな?」

 数学の質問か。こういう事は、これまでも何度かあった。そして、その度に、心臓が早鐘を打っていた。だが、今日の彼女は、いつもと違った。近くの人のいすを借りて、A君の隣にピタッと付くようにして、教えてもらおうとしていた。

 正直、A君にとっては、心臓の鼓動が半端ではなく、Bさんが何を言っているのかが、分からなかった。
そんなA君の異常を感じ取ったBさんは、

「邪魔して、ごめんね」

と言って、自分の席に帰ってしまった。

 後に残されたA君は、心臓バクバク。頭は沸騰し、そして、Bさんに嫌われたのかもと、不安が募った。その時の、緊張と心臓のバクバク。そして、Bさんの良い匂いが忘れられず、その日は、授業中も上の空だった。結局、家に帰ってから、復習を多めにやる羽目になった。

「嫌われていなければ、良いけどなあ」

一日の終わりに、そんな事を呟いて、床に就いた。
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