実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
8 / 69

1-7.ギルドで書物を読む。薬草知識と薬師

しおりを挟む
 ミラは最初の依頼で、薬草の意外な採集方法があることを知った。
 そこで、薬草採集に関する書物を読むために、冒険者ギルドに来ていた。
 もう少し薬草のことを知ってから、次の依頼を受けたいと考えていたのである。
 
「こんにちは、今日はどうされました?」
「実は、冊子に書いてあったギルド併設へいせつの『書庫』を利用したくて来ました」
「なるほど、採集の情報収集ですね?」
「はい」

 カウンターで受け答えするお姉さんは、目的をすぐに察した。
 さすがはギルドの受付嬢といったところだろう。優秀な人しかなれない職業だけはある。
 
 案内されたのはギルドの奥にある結構な広さの書庫だった。
 魔物の書物が多いが、採集の書物もコーナーにある。
 
「じゃあ、終わったら声をかけてください」

 ミラは、棚の端から順に採集の書物を読み始めた。
 薬草の種類、採集方法、特徴や注意事項。特に世界で発見済みで採集用の薬草は450種類以上にものぼった。だいたい60冊ほどで、ページ数の多いものや少ないもの、イラストばかりのもの、専門書もある。
 ページをめくるスピードは、1ページにつき数秒。全部読むのに半日もかからなかった。

 適度に飲み物は口にしていたが、ようやくギルドを出た頃には、さすがにお腹が空いていた。それは、ぐぅっとお腹がなるほどだった。

「どの本を読んでいたんですか? ギルドがまとめた採集の仕方でしょうか?」

 今回案内したのは長い銀髪が特徴のスフィアという受付嬢だ。
 半日も読むのにかかっていたことから、採集をまとめた『薬草大全(採集編)』を読んでいたのだと予想していた。
 
「いえ、薬草関連はだいたい全部です」

 ミラは本当のことを言った。

 スフィアは「え?」と首を傾げた。

「全部ですか?」
「はい」
「内容も? ちゃんと読んで?」

 ミラは首を縦に振った。

「書いてある中身も理解して?」
「そうですけど……」
「へえ……って、え? いやいや、全部?」
「え?」

 ミラは、彼女が何をそんなに驚いているのかがわからなかった。

「いや、だって……。薬草の書物は全部で50冊以上、1000ページを超えるものもありますよ?」
「えっと、それが?」

 不思議そうにするミラに対し、スフィアは真顔で言った。

「いやいや、普通は無理です」

 冗談を言っているような顔ではなかった。

「……そうなんですか? それは驚きました……」

 むしろ、ミラのほうがスフィアよりも驚いていた。

「いやいやいや、こっちが驚きましたよ!」

 スフィアは受け答えするたびに、「いや」の数が増えていき、その事実を受け止める心の許容範囲が限界に近づいてきたらしい。

 手をぱたぱたと振って、スフィアは驚きを無意識に表現した。

「てっきり、一般庶民の方なら誰でもあれくらいは普通なのだと」
「いやいやいやいや~、一般庶民にはぜ~ったいに、無理ですって。そんなこと出来る人なんて見たことありませんよ」
「そう、なんですね……」

 実家でミラが教えられた『常識』がドミノのように倒れ、心のなかで作ったハリボテの城が崩れていく。
 姉は本を読む速度に対し、「それくらい庶民にも普通にできること。調子に乗らないことね。私はあえてゆっくり読んで楽しんでいるのよ」と何度も念を押された。あれすらも嘘だった。

 目の前のスフィアは、受付嬢としての笑顔が完全に崩れていた。
 優秀な人物と評価され、自尊心の強くあったスフィア。自己否定に陥らないために、必死にミラを持ち上げる。

「ミラさんは、とてもすごいです。自信を持ってください。むしろ、それが当たり前みたいな顔されてもこっちが困りますよ、本当に……」

 スフィアは何年も時間をかけてギルド員に必要な最低限の薬草や魔物の知識を学び、書物を読んだ。
 そのときも全部を読んでいるわけではなく、必要な知識だけ詰め込んで理解するのに基礎的な教育を受けて、対策本を通じて集中的に学び、試験に挑んでいる。

 こう見えて、ギルド受付嬢はギルドで多くの仕事をこなすため、知識が必要だ。実務でも優秀であり、かつ、高度な教育を受けている。ミラのしたことは、スフィアさえ仰天するほどだ。

 しかし、まだスフィアは読んで理解するスピードだけに驚いている。だが、それでよかったのかもしれない。
 実は、その中身をミラは全部覚えているなんてことを知ったら、精神崩壊して奇声を上げ、発狂していたことだろう。

 この日、薬草採集に必要な知識はすべてミラの頭の中に入った。
 だが、1つわかったこともある。ミラが所持している薬草の中に高級な『上級ポーション』や『エリクサー』の材料が混ざっていたことだった。

 これがあれば薬師のようにすぐ上質なポーションを作ることが出来る。今日読んだ本に、製造方法は書いてあったし、必要な材料や機材、あとミラに不足する技術があれば可能だ。売ればお金にもなる。

 ミラはこれなら薬草を採集して冒険者ギルドの依頼をこなすよりも、早く借金を返して、生活を安定させられる。
 思ったよりも早く薬師になることを実現できそうだと、その知識に期待した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

処理中です...