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この危機的状況について、ミラも必死に考える。
「どこかに隠れ潜むというのは?」
ミラの提案に対して、スフィアはゆっくりと、首を振った。
そして、その理由を説明する。
「無理なんです。深海クラゲというのは深海の水圧にも耐えつつ、噴射する強力な水鉄砲を持っているんです。戦闘現場を見たことのある冒険者なら知っていることなんですが、飛行中に障害物にぶつかると、その水圧で目の前のものを吹き飛ばすんです」
スフィアの話だと、深海クラゲは木々が障害物となって、毎年、何本もの木の破片が移動経路に散乱しているのだという。
しかし、障害物にぶつかった反応で攻撃するだけ。遠距離から弓で撃ち抜けば、ただの雑魚である。しかし、盾や壁で障害物に阻まれると、それをぶち壊す。
深海クラゲの耐久度も弱いし、攻撃も針に気をつけるだけなので1匹のランクは低いが、対処を間違えると大惨事になるという。
「そうなんですね。それで冒険者の方たち、盾ではなく弓を……」
壁のある建物に隠れても破壊されて、生き埋めになるだけだった。
良い案だと思ったミラだったが、すべての話を聞いた限り、もはや地下にでも穴を掘ってこもるしか思い浮かばない。
この街はそういう地下シェルターのようなものはほとんどなく、隠れられても1割も収納できないため、9割が地上で被害を受ける。
ミラの案はすべて通用しないものだった。
いよいよ時間がなくなり、避難のために職員が慌ただしくギルドから出ていく。
ミラとスフィアは、今から慌てて逃げてももう間に合わないと、気づいてしまった。
打開策もなく、その場を動けない。
ミラはさらに考え込む。
(そもそも、どうして深海クラゲはこの街に向かってきているのでしょうか?)
ミラはこの事態に何かが引っかかった。
考えるために足りないのは知識だと気づく。
「あの、書庫の閲覧に行ってきます!」
ミラは走った。
後ろからスフィアの声が聞こえた
「ちょっと、どうするつもり……ってあれ? 足はやっ!」
スフィアが驚く前に、ミラは書庫にものすごい速さで消えた。
ミラは以前、書庫に案内されたときに本の表紙を見て、本のどのタイトルがどこにあるのかは覚えていた。
そこから、魔物の本を選んで片っ端から読む。
ミラは深海クラゲのことを知らなかったため、知識がまったくない。
かといって、なにか対処のできる情報があるなら、ギルド員が知っているはず。
それがないということは、もっと些細な情報が欠如しているのだと考えた。
「あったわ、深海クラゲのページ」
そこには深海クラゲの生息域や生体、魔物としての特徴などが書かれていた。
読んだ説明を一通り頭に入れる。
そして、そもそもなぜ、深海クラゲは海を目指して飛べるのかという説明箇所があった。
それによると、深海クラゲは、磁気を感知して、方角を把握し、100~300の群れの先頭にいる深海クラゲが群れの動きをコントロールするとある。
さらに、最も先頭にいる群れのクラゲは大群の一段を率いることが観測されている、という。
「方角を察知して飛べるなら、この街には来ないはず……」
ミラは過去に読んだ全ての専門書・文献の知識を総動員して、答えを探す。
(そういえば、生物の本には、渡り鳥にも磁気を捉えていて、目的の場所に行き、それが乱されると動きが狂うと書いてあったわ)
ミラはさらに、頭の中の知識に深く潜る。
(物質の仕組みを記述した書物の中に、放電現象で磁気が狂うことが書いてあったはずよ)
だが、放電で方向感覚が狂う理由はわかったが、深海クラゲがこの街に来る理由は判然としない。
「そもそも、どうして今年だけだったの? 深海クラゲの放電はずっとしているはずだし、今年だけ街に来ようとしている。それはなぜ……」
その原因がわからなければ、根本を解決できず、意味がない。
だが、理由がこの磁気と放電現象であるのは間違いない。
ミラはよく考えてみる。
放電現象とは何なのか?
それは、目の前の書庫にある本でいくらでも答えの見つかることだった。
目次からさっとその場所を探して、読む。
すると、魔物の放電現象は、魔力による生物の魔法である、となっていた。
(魔法……そういえば、魔法は媒介するものによって、威力が変わるのよね。あっ!)
ミラは、調合で、ラビッティアという魔物の角には、魔力を増幅する作用があった。
すぐに目の前の本を開いて、ラビッティアについて調べる。
ラビッティアの角は、こう記述されていた。
『いまの常識では、生体器官と考えられている。器官の大きさには違いがあり、個体によって大きさが変わることで魔法の規模も変わることは有名である。』
ミラは、その知識と頭の中の深海クラゲの知識を合わせる。
深海クラゲにも器官があり、その個体差があると書いてあった。
「では、あの街に向かう深海クラゲは、先頭集団の中に『異常に発達した生体器官を持つ個体』がいるのかも知れないわ」
ミラはこう結論づけたのである。
深海クラゲの放電現象は、磁気を狂わせるほどではなかったが、異常発達によって強い放電をする個体が、方角を狂わせ、先頭集団を街に導いた。磁気の狂った深海クラゲの残りすべても方角が狂い、街に向かってしまったのではないか?
検証などしている時間はない。
もうこれが理由と考えて動くしかない。
これが本当なら、解決するには手段が1つしかない。
その先頭集団の中にいる異常発達の深海クラゲを撃破すれば、地場の狂いが戻り、すべての深海クラゲがもとに戻るはずだと。
この点は『深海クラゲが方角を滅多なことでは間違えない理由』としても書かれてある。
ただ磁気を感知しているだけでなく、磁場を群れの全個体が読み取り把握して、正しい空路を選択し続けていると。
一時的な狂いならば、深海クラゲが勝手に修正して、方向も戻るはず。
確かめている時間はない。
だから、ミラは走った。
剣を腰に下げ、ポーションと薬草の袋を腰にくくり、深海クラゲが来ている方角に向かった。
確証のない方法で避難の手を止めてしまうのもまずい。
もし、間違っていたら困るからだ。
街の冒険者はほぼ全滅。麻痺で置物と化した。手を貸してくれる者はもう誰もいない。
冒険者ギルドを飛び出す時、後ろからまたスフィアがなにか声を掛けた気がする。
だが、いまはその1秒が惜しかった。
スフィアは目が点になっていた。
「一体、ミラさんは何を……。書庫に入ったと思ったら、すぐに出てきて飛び出していったけど」
本を読んだにしては早すぎる。
だが、スフィアは思い出す。ミラは本を読むのがすごく早かったのだと。
本当にそれだけなの? と疑問を浮かべる。
ここでじっとしていても仕方ないと、ミラの後を追うことにした。
だが、ミラの足が早すぎて、スフィアは全く追いつけなかった。
「ちょっと……待ってください、ってもういない……。足、早すぎません?」
とはいえ、向かった方角はわかる。
あれは、深海クラゲの群れが来ている方角だ。
「1人で、馬鹿なこと考えてませんように……」
スフィアはそんなことを祈りながら急いだ。
***
ミラは、街の城門の上に駆け上がると、空を漂う深海クラゲがすぐ近くまで来ているのを確認した。
そのまま個体の中に、異常な発達器官を持っているものが居ないかを確認していく。
ミラは、見たものすべてを記憶できるため、俯瞰で記憶して、目をつぶり、頭の中ですべてのクラゲを精査する。
動いているものから『違うもの探し』をするのは難しい。
だが、記憶で動きを止めてしまえば、問題ない。
あっという間に、先頭集団の異常個体を発見する。右から縦2列の30番目。
かなり巨大な胴体と体内の光る器官を持っていた。
「あれだわ……」
剣を抜いて、それを右手で構える。
空の敵を攻撃するには弓しかないが、ミラはそもそも弓を使ったことすらない。
「なら、もう、飛ぶしかないわよね?」
(姉は、一般庶民なら頑張れば空も飛べると言っていたけれど、私には無理だから……)
「こうするわ!」
左手を城門の地面にかざす。
ミラが使える魔法は、調合魔法だが、1つだけ精度と威力の高いものがある。
最も練習した『気弾』である。
この魔法は、コントロールを放棄して出力を調整すると前方に大きな気弾を出せる。
発射する力と空気の押し戻しを受けられるだろう。
だが、この方法はほとんど自爆覚悟である。
噴射した力と同じだけの反発力をミラの人体だけで支え受け止めるのだから。
「けど、やるしかないわ」
(街のみんなが死んでしまうのも嫌だし、この街以外にまだ行けそうな場所もないですもの)
手に魔力を意識して、気弾の魔法を放った。
すると、空気の塊が、臀部から腰のあたりまでを押し上げる。
ミラは空に高くまっすぐ放り出された。
ぎりぎりまで群れを近づけていたから、個体まで距離は届きそうだ。
だが、ミラの体は節々から変な音を上げていた。
それも気合で我慢する。
進行方向にあった邪魔な個体をすべて切り伏せ、蹴り飛ばし。そして、たどり着く。
ミラは叫んだ。
「これ!」
右手の剣で素早く、異常個体を縦に切る。その後、倒し損ねないように、回転しながら鋭い剣速で細切れにする。
(成功したわ!)
ミラは着地する場所を近くの砂地に定める。
だが、この威力のまま墜落したら間違いなく死ぬ。
そのため、剣を鞘に収めて、両手で弱い気弾を放出した。
落下に掛かる力を弱めていく。
何度かそれを繰り返して、無事着地できた。
後から、切った異常個体の破片と大量の針が落ちてくる。
その針をミラは容易に避ける。
「攻撃した時、だいぶ食らったわね」
体から大量の針を抜く。
攻撃時に、全身に針を受けたのだ。
冒険者用の防具服が穴だらけになった。
「これ、買い換えないと」
特に異常個体は大きな針を突き刺してきた。ミラはその穴から流血していた。それも抜く。
針だけでなく、飛んだときの体にかかった負担も大きい。
もし、ミラでなければ、内臓破裂と血管の断裂で死んでいただろう。
森の薬草で強化された謎の耐久力で強靭化された状態のミラは、体がきしむ程度で済んでいた。
そして、痺れは、麻痺のポーションで治す。大きな傷には薬草も塗った。
ミラは緊張を解かずに、空をもう一度見つめる
「これで、元の方角に帰ってくれると良いのだけれど」
ミラはしばらく空に浮かぶ深海クラゲの群れを観察していた。
すると、先頭集団が、方向転換して帰っていく。
それにつられるように、後続も方向転換する。
「やったわ……(助かったのよね?)」
ミラは安心して、思わず地面に座り込んだ。
そこに声をかける存在がいた。
追いかけたのか、スフィアがミラを見つけて声をかけたのだ。
ミラはそちらに向かって手を振り、歩き出した。
ぼそっと、ミラは疑問を口にするのだった。
「こんなことは今までなかったそうだけど、あれほど大きな個体の異常発生が起きたのはなぜかしら?」
(私がこの街に来たタイミングで起こるなんて……偶然って怖いわね)
すべては偶然だったはずと、深く考えなかった。
「どこかに隠れ潜むというのは?」
ミラの提案に対して、スフィアはゆっくりと、首を振った。
そして、その理由を説明する。
「無理なんです。深海クラゲというのは深海の水圧にも耐えつつ、噴射する強力な水鉄砲を持っているんです。戦闘現場を見たことのある冒険者なら知っていることなんですが、飛行中に障害物にぶつかると、その水圧で目の前のものを吹き飛ばすんです」
スフィアの話だと、深海クラゲは木々が障害物となって、毎年、何本もの木の破片が移動経路に散乱しているのだという。
しかし、障害物にぶつかった反応で攻撃するだけ。遠距離から弓で撃ち抜けば、ただの雑魚である。しかし、盾や壁で障害物に阻まれると、それをぶち壊す。
深海クラゲの耐久度も弱いし、攻撃も針に気をつけるだけなので1匹のランクは低いが、対処を間違えると大惨事になるという。
「そうなんですね。それで冒険者の方たち、盾ではなく弓を……」
壁のある建物に隠れても破壊されて、生き埋めになるだけだった。
良い案だと思ったミラだったが、すべての話を聞いた限り、もはや地下にでも穴を掘ってこもるしか思い浮かばない。
この街はそういう地下シェルターのようなものはほとんどなく、隠れられても1割も収納できないため、9割が地上で被害を受ける。
ミラの案はすべて通用しないものだった。
いよいよ時間がなくなり、避難のために職員が慌ただしくギルドから出ていく。
ミラとスフィアは、今から慌てて逃げてももう間に合わないと、気づいてしまった。
打開策もなく、その場を動けない。
ミラはさらに考え込む。
(そもそも、どうして深海クラゲはこの街に向かってきているのでしょうか?)
ミラはこの事態に何かが引っかかった。
考えるために足りないのは知識だと気づく。
「あの、書庫の閲覧に行ってきます!」
ミラは走った。
後ろからスフィアの声が聞こえた
「ちょっと、どうするつもり……ってあれ? 足はやっ!」
スフィアが驚く前に、ミラは書庫にものすごい速さで消えた。
ミラは以前、書庫に案内されたときに本の表紙を見て、本のどのタイトルがどこにあるのかは覚えていた。
そこから、魔物の本を選んで片っ端から読む。
ミラは深海クラゲのことを知らなかったため、知識がまったくない。
かといって、なにか対処のできる情報があるなら、ギルド員が知っているはず。
それがないということは、もっと些細な情報が欠如しているのだと考えた。
「あったわ、深海クラゲのページ」
そこには深海クラゲの生息域や生体、魔物としての特徴などが書かれていた。
読んだ説明を一通り頭に入れる。
そして、そもそもなぜ、深海クラゲは海を目指して飛べるのかという説明箇所があった。
それによると、深海クラゲは、磁気を感知して、方角を把握し、100~300の群れの先頭にいる深海クラゲが群れの動きをコントロールするとある。
さらに、最も先頭にいる群れのクラゲは大群の一段を率いることが観測されている、という。
「方角を察知して飛べるなら、この街には来ないはず……」
ミラは過去に読んだ全ての専門書・文献の知識を総動員して、答えを探す。
(そういえば、生物の本には、渡り鳥にも磁気を捉えていて、目的の場所に行き、それが乱されると動きが狂うと書いてあったわ)
ミラはさらに、頭の中の知識に深く潜る。
(物質の仕組みを記述した書物の中に、放電現象で磁気が狂うことが書いてあったはずよ)
だが、放電で方向感覚が狂う理由はわかったが、深海クラゲがこの街に来る理由は判然としない。
「そもそも、どうして今年だけだったの? 深海クラゲの放電はずっとしているはずだし、今年だけ街に来ようとしている。それはなぜ……」
その原因がわからなければ、根本を解決できず、意味がない。
だが、理由がこの磁気と放電現象であるのは間違いない。
ミラはよく考えてみる。
放電現象とは何なのか?
それは、目の前の書庫にある本でいくらでも答えの見つかることだった。
目次からさっとその場所を探して、読む。
すると、魔物の放電現象は、魔力による生物の魔法である、となっていた。
(魔法……そういえば、魔法は媒介するものによって、威力が変わるのよね。あっ!)
ミラは、調合で、ラビッティアという魔物の角には、魔力を増幅する作用があった。
すぐに目の前の本を開いて、ラビッティアについて調べる。
ラビッティアの角は、こう記述されていた。
『いまの常識では、生体器官と考えられている。器官の大きさには違いがあり、個体によって大きさが変わることで魔法の規模も変わることは有名である。』
ミラは、その知識と頭の中の深海クラゲの知識を合わせる。
深海クラゲにも器官があり、その個体差があると書いてあった。
「では、あの街に向かう深海クラゲは、先頭集団の中に『異常に発達した生体器官を持つ個体』がいるのかも知れないわ」
ミラはこう結論づけたのである。
深海クラゲの放電現象は、磁気を狂わせるほどではなかったが、異常発達によって強い放電をする個体が、方角を狂わせ、先頭集団を街に導いた。磁気の狂った深海クラゲの残りすべても方角が狂い、街に向かってしまったのではないか?
検証などしている時間はない。
もうこれが理由と考えて動くしかない。
これが本当なら、解決するには手段が1つしかない。
その先頭集団の中にいる異常発達の深海クラゲを撃破すれば、地場の狂いが戻り、すべての深海クラゲがもとに戻るはずだと。
この点は『深海クラゲが方角を滅多なことでは間違えない理由』としても書かれてある。
ただ磁気を感知しているだけでなく、磁場を群れの全個体が読み取り把握して、正しい空路を選択し続けていると。
一時的な狂いならば、深海クラゲが勝手に修正して、方向も戻るはず。
確かめている時間はない。
だから、ミラは走った。
剣を腰に下げ、ポーションと薬草の袋を腰にくくり、深海クラゲが来ている方角に向かった。
確証のない方法で避難の手を止めてしまうのもまずい。
もし、間違っていたら困るからだ。
街の冒険者はほぼ全滅。麻痺で置物と化した。手を貸してくれる者はもう誰もいない。
冒険者ギルドを飛び出す時、後ろからまたスフィアがなにか声を掛けた気がする。
だが、いまはその1秒が惜しかった。
スフィアは目が点になっていた。
「一体、ミラさんは何を……。書庫に入ったと思ったら、すぐに出てきて飛び出していったけど」
本を読んだにしては早すぎる。
だが、スフィアは思い出す。ミラは本を読むのがすごく早かったのだと。
本当にそれだけなの? と疑問を浮かべる。
ここでじっとしていても仕方ないと、ミラの後を追うことにした。
だが、ミラの足が早すぎて、スフィアは全く追いつけなかった。
「ちょっと……待ってください、ってもういない……。足、早すぎません?」
とはいえ、向かった方角はわかる。
あれは、深海クラゲの群れが来ている方角だ。
「1人で、馬鹿なこと考えてませんように……」
スフィアはそんなことを祈りながら急いだ。
***
ミラは、街の城門の上に駆け上がると、空を漂う深海クラゲがすぐ近くまで来ているのを確認した。
そのまま個体の中に、異常な発達器官を持っているものが居ないかを確認していく。
ミラは、見たものすべてを記憶できるため、俯瞰で記憶して、目をつぶり、頭の中ですべてのクラゲを精査する。
動いているものから『違うもの探し』をするのは難しい。
だが、記憶で動きを止めてしまえば、問題ない。
あっという間に、先頭集団の異常個体を発見する。右から縦2列の30番目。
かなり巨大な胴体と体内の光る器官を持っていた。
「あれだわ……」
剣を抜いて、それを右手で構える。
空の敵を攻撃するには弓しかないが、ミラはそもそも弓を使ったことすらない。
「なら、もう、飛ぶしかないわよね?」
(姉は、一般庶民なら頑張れば空も飛べると言っていたけれど、私には無理だから……)
「こうするわ!」
左手を城門の地面にかざす。
ミラが使える魔法は、調合魔法だが、1つだけ精度と威力の高いものがある。
最も練習した『気弾』である。
この魔法は、コントロールを放棄して出力を調整すると前方に大きな気弾を出せる。
発射する力と空気の押し戻しを受けられるだろう。
だが、この方法はほとんど自爆覚悟である。
噴射した力と同じだけの反発力をミラの人体だけで支え受け止めるのだから。
「けど、やるしかないわ」
(街のみんなが死んでしまうのも嫌だし、この街以外にまだ行けそうな場所もないですもの)
手に魔力を意識して、気弾の魔法を放った。
すると、空気の塊が、臀部から腰のあたりまでを押し上げる。
ミラは空に高くまっすぐ放り出された。
ぎりぎりまで群れを近づけていたから、個体まで距離は届きそうだ。
だが、ミラの体は節々から変な音を上げていた。
それも気合で我慢する。
進行方向にあった邪魔な個体をすべて切り伏せ、蹴り飛ばし。そして、たどり着く。
ミラは叫んだ。
「これ!」
右手の剣で素早く、異常個体を縦に切る。その後、倒し損ねないように、回転しながら鋭い剣速で細切れにする。
(成功したわ!)
ミラは着地する場所を近くの砂地に定める。
だが、この威力のまま墜落したら間違いなく死ぬ。
そのため、剣を鞘に収めて、両手で弱い気弾を放出した。
落下に掛かる力を弱めていく。
何度かそれを繰り返して、無事着地できた。
後から、切った異常個体の破片と大量の針が落ちてくる。
その針をミラは容易に避ける。
「攻撃した時、だいぶ食らったわね」
体から大量の針を抜く。
攻撃時に、全身に針を受けたのだ。
冒険者用の防具服が穴だらけになった。
「これ、買い換えないと」
特に異常個体は大きな針を突き刺してきた。ミラはその穴から流血していた。それも抜く。
針だけでなく、飛んだときの体にかかった負担も大きい。
もし、ミラでなければ、内臓破裂と血管の断裂で死んでいただろう。
森の薬草で強化された謎の耐久力で強靭化された状態のミラは、体がきしむ程度で済んでいた。
そして、痺れは、麻痺のポーションで治す。大きな傷には薬草も塗った。
ミラは緊張を解かずに、空をもう一度見つめる
「これで、元の方角に帰ってくれると良いのだけれど」
ミラはしばらく空に浮かぶ深海クラゲの群れを観察していた。
すると、先頭集団が、方向転換して帰っていく。
それにつられるように、後続も方向転換する。
「やったわ……(助かったのよね?)」
ミラは安心して、思わず地面に座り込んだ。
そこに声をかける存在がいた。
追いかけたのか、スフィアがミラを見つけて声をかけたのだ。
ミラはそちらに向かって手を振り、歩き出した。
ぼそっと、ミラは疑問を口にするのだった。
「こんなことは今までなかったそうだけど、あれほど大きな個体の異常発生が起きたのはなぜかしら?」
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