実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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3-6.状況分析と城内、薬品庫

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 ミラは、敵がいまだに襲撃を仕掛けてこない理由を思案する。

 ミラとフローラがそれについて話している間に、母親のマーガレットが襲撃前の情報を騎士たちから聞き出していた。
 それによると倒れる直前に気になる何かの兆候はあったらしい。

「この毒が理由、でしょうね」

 フローラがそのことに気付いてハッとなった。

「本当に報告にあった深海クラゲのものだとするなら、長期間動けないと襲撃者も考えるはず」

 ミラはそれでも疑問が残った。

「王家のフローラ様たちが狙いなら、動けない今が絶好の機会のはず。そうだとしても、動きが遅いですよね?」

「たぶんだけど、彼らも近づけないのではないかしら?」

「……どういうことでしょうか?」

「毒って集めるために自分が受けないようにする対策は決して難しくないわ。でも、城内全体に散布されていたら入れないわよね。護衛の何人かはこの外でも同じような薄い煙が窓から出てくるのを見たというのよ」

 確かに、部屋の中には倒れた直後から薄い煙のようなものが立ち上っていた。
 よく見ないと視認できないくらいの薄さのため、護衛役のうちの2人しかその光景を見ていないようだ。

「なるほど……。ネズミ一匹通さないしかけが、逆に自分たちも入れない、足枷になっているんですね……」

 ミラは森のことを思い出した。
 深海クラゲから毒を受けると普通の毒回復ポーションを飲んでも冒険者はしばらく動けなかった。
 飲んですぐ動けるような薬効があるのは、ミラの作ったポーションくらいだ。

 そこに、薬の専門的なことはあまり詳しくないフローラが聞いた。

「襲撃者は自分たちで回復薬を使って身を守りながら侵攻はできないのですか?」

「いざってときのために麻痺回復ポーションは用意していても、行動はできなくなってしまうんですね」

 それにはミラが答えた。
 麻痺の神経毒は、行動不能に陥り、通常はすぐ動けるようにならない。
 それでは薬も意味がないと。

「でもミラさんのポーションは動き続けられますよ?」

「……その私の作ったポーションやこの薬草はなぜかちょっと変わってるんです」

「ああ、なるほどですね」

 なぜか納得されてしまったミラは、逆に大丈夫かなと疑問に思った。
 その説明で納得してよいのだろうかと。
 だが、あの街のギルドでは周知の事実だ。ミラの薬の効能はちょっと変わっていると。
 フローラはこういうことでよいかと聞き返す。

「つまり、襲撃者は神経毒が自然に薄まるのを待って、城内に入る予定だったわけですね?」

 マーガレットは軽く顔を左右に振った。

「大まかにはそうだろうけど、少し違うんじゃないかしら? それだと時間がかかりすぎるから、魔法で空気を循環させるのでしょうね」

「あっ、気弾ですね! その方法なら……」

 ミラは手をかざして、周辺索敵を行う。
 次に、気弾を放つために手のひらを扉の外に向けた。

 空気の循環が必要そうな場所を把握する。
 空間内に流れる空気を掴むように、窓から勢いよく風が流れ込んで、範囲検索が完了した。

 王城内に敵らしき人物はいなかった。
 確かに、マーガレットの言ったとおりで、外から空気を循環させて、毒を排出すれば何とかなりそうな構造だ。

 扉が開くと風が王城内を駆け抜けた。
 しばらくしてかざした手を下ろすミラ。

「終わりました」

 ミラはマーガレットに報告した。
 それに対して、フローラが首を傾げて不思議そうにミラに聞くのだ。

「終わったんですか?」

「はい……」

 ミラは頷いた。

 フローラは、本当にこれで大丈夫なのかと少し心配になったようで、疑問の声を浮かべていた。
 もう城内にはないと言われて、無意味に鼻をスンスンするフローラ。
 臭いで城内の毒分布がわかるならすごいが、心配で無意識に出た行動だろうとミラは予想した。
 
「その、本当に?」

「そうだと思いますけど」

 フローラは思考を放棄したのか、納得するように頷いた。

「ミラちゃんはやっぱりあれだったんですね」

「……えっと、あれ?」

 ミラは目の焦点がぼやけて半笑いするフローラ。
 さらに母親のマーガレットは、自分の頭に手を乗せて、複雑な表情をした。
 ミラはその様子を交互に見た。

 後ろから呆然とするレオもいた。

「剣だけではなかったのか……」

 と誰かが呟く。
 声がして、ミラはそれがたぶんレオだと思い顔を見ると、なんとも言えない表情をしていた。

「でも、これって、毒を消してしまうと襲撃者が早く来ませんか?」

 ミラは、例の黒フードたちを思い浮かべた。
 この毒を集められる場所にいた人物で、王城襲撃など、元実家のバイレンス家しかミラには心当たりがなかった。

 毒の侵入経路もわからず、敵らしき存在の襲撃もない。
 このままこの場で二の足を踏んでよいのか、ミラは不安になった。
 それはマーガレットやフローラ、レオも感じていた。
 まずはできることからする必要がある。

 フローラが提案することにした。

「では、レオお兄様をこの部屋の護衛にして、私、ミラちゃんで麻痺回復ポーションを薬品庫に取りに行きませんか?」

 王家にとっては、王様と王妃が最重要護衛対象なのは間違いない。
 そして、兄弟姉妹の中でこの場の戦力が高いのはレオだ。
 
 そこに、母親のマーガレットが助言した。

「2人だと人数分は持ってこれないわ。手伝いが必要よ」

 それを聞いたフローラが三女のフレドリカにお願いした。

「フレドリカ、お手伝いしてくれる?」

「……はい」

 フレドリカはしぶしぶ首を縦に振った。

 そうして、ミラたち3人は薬品庫に向かう。
 

***


 廊下を警戒しながら歩いた。
 先頭で少し先をミラが歩き、その後ろにフローラ、その横に手をつないで移動するフレドリカ。

 フローラは、手をつないだままフレドリカに声をかける。

「何かあればフレディちゃんのことも私が守りますから、安心して下さい」
「……」
「ねえ、さっきから変ですよ? どうかしたのですか?」

 ミラはその会話が聞こえて後ろを振り向く。

 やはり麻痺がないはずなのに、いまだに身体が小刻みに揺れている。
 ミラは立ち止まって心配そうにフレドリカの顔色をよく観察した。
 すると、フレドリカがそれに気付いて立ち止まり、またしても顔を背けられた。

 ミラは、フローラの横まで移動して歩く早さを合わせる。
 そして、小声でフローラの耳元に顔を近づけて話しかけた。

「あの、もしかして私って、フレドリカ様に苦手意識を持たれているのでしょうか。なにか知っていますか?」

 フローラは急にその場で立ち止まり、後ずさった。
 手をつないでいない右手で耳を押さえている様子だ。

 ミラはそれに気付いて、失敗したと思った。
 急に耳のそばで話しかけられるのは、ぞわっとしてしまうかも知れないと。
 ミラもリリカにそれをされて同じ経験があった。

「あ、ごめんなさい」

 とりあえず謝ることにした。
 
「いえ、ミラさんは別に……悪くは」

 フローラは言葉に詰まるのだった。


 そのとき、フレドリカがフローラの少し後ろからじっと見ていることに、ミラは目の端で気付いた。
 しかし、目が合うと視線をそらし、顔を背けた。
 
 フレドリカの謎行動の理由はわからないまま、薬品庫に到着した。


***


 ミラは入る直前に、念入りに索敵をかけて、中の敵性存在の有無を確認した。

「中には誰もいません。大丈夫です。」

 フローラは首を傾げた。

「あの、さっきからどうしてミラちゃんは見えない場所に敵がいるかどうかが分かるんですか?」

「索敵です。この前、冒険者の方のを見様見真似で覚えました」

 一瞬、フローラは呆然として、口を開けたままになった。

「ミラちゃんの才能が私の予想をどんどん良い意味で裏切ってくれて嬉しいです……」


 室内は暗闇で、廊下のように明かりが灯っていない。
 フローラが魔法の起動でランプの明かりをつけた。

 3人で手分けして、2つに内部が扉で分かれている倉庫から場所を探して薬品棚を見回し始めた。
 本来、王女の仕事ではないため、どこに何があるかはわからない。
 薬品は特に厳重なため、配置の把握は限られた人員で行われていた。

「お母様に聞いておけばよかった……」

 フローラが失敗したと後悔する。

「フローラ様、3人で探せばきっとすぐ見つかりますよ」

「ありがとう、ミラちゃんはずるいくらい優しいね。あ、隣にも保管庫があって、その扉から入れるから、ミラちゃんはそっちを探して?」

「わかりました」

 この場はフローラに任せて、ミラだけ隣の部屋を探しに行こうと、扉のノブに手をかけた。
 すると、後ろから誰かがミラの上服の裾を引っ張る。
 急に接触されたためか、背中に冷や汗が流れて、振り向いた。

 するとフレドリカがいた。

 扉を開ける手が止まり、ミラは彼女を見たままその場で佇む。

「あの……フレドリカ様、どうかしましたか?」

「……私もそっちを探す」

 ミラは少し疑問に思ったものの、それに了承して頷いた。

 そのときのフレドリカの顔は、何かの覚悟を決めたような真剣さに見えた。

(フレドリカ様が一緒に探してくれるのかしら? そんなに真剣な顔をして、きっとお姉さんフローラ様の力になりたいのね)

 そんな呑気なことをミラは考えていた。
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