実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
53 / 69

3-9.掃討作戦と大きな脅威(後編)

しおりを挟む
 ミラの目の前で魔人化した男は少し余裕を取り戻した。

「さて、死ぬ準備は……できていないようですね。以前、回収部隊の教団員が魔人化してまであなたに負けた理由はわかりませんが、私はあれとは別格ですよ?」

 ミラは手の動きに注視し、攻撃内容を見極める。
 以前の男とは違って、攻撃が単調ではない。すぐにはあの黒い球を打ってこない様子だ。
 防げないタイミングで打たれるのが一番困る。だから、ミラは前に出るしかなくなった。

 疲れているレオは休ませて、他の護衛も魔人の周囲を取り囲んだ。

「話には聞いていたが、何だこの化け物は!」
「魔人というSランクの魔物らしいぞ。こいつらが王家を狙う敵教団か。これが国と正面から戦える理由なんだろうさ」
「おしゃべりはそのへんにしな。あのお嬢ちゃんの警戒の仕方。ただ強いってだけじゃなさそうだ」

 ミラは、正面から走り込んで剣を縦に振った。
 とりあえず、余計な遠距離攻撃をさせないためだ。普段なら、こんな正面から突っ込む戦い方はしない。

「さすがに動きは早いですね。変身していなかったら危なかったかも知れない」

 魔人の男は軽やかに攻撃を避けて、ミラに蹴りを放った。
 その尋常ならざる破壊力に、ミラは剣を水平に振って後ろに受け流した。それも、護衛たちの居ない場所に衝撃波が行くようにだ。
 遅れて、周囲に衝撃が走り、後ろにあった建物が粉々になって倒壊した。

 護衛の男たちは叫んだ。

「なんだあれは!」
「まじで化け物なのかよ」
「あれはヤバかったな。受け流してくれていなかったら、俺たち身体が粉々だったぞ」
「じゃあ、お嬢ちゃんがさっき突っ込んでいったのも、攻撃させる場所を選ばせたってことか?」
「そうらしい」
「ひえ~」

 彼らはミラと魔人との戦闘に加わることが難しく、その場に立ち尽くしていた。
 そのどさくさで、なぜか戦闘の実況を始めてしまった。
 距離を取りつつ、ミラの戦闘のじゃまにならないように後ろに下がったようだ。
 武家の新興の家ということもあり、判断が早いのはさすがだろう。

 後ろからその声をかすかに聞きながら、ミラは魔人に問いかけた。

「なぜ長期戦をしようとするのですか?」

 ミラはその魔人化について詳しいことは知らない。寿命を消費することもだ。
 しかし、その変身リスクは高いと考えていた。

「教える義理もないんですが、まあいいでしょう。私の前に現れたご褒美に教えて差しあげますよ。人間と魔人の差は時間が長引くほど有利なんですよ。あなたのように一瞬で片付かない人間は、多少寿命を減らしてもここで撃破しておくべきだ」

「回収はどうしたんですか? 私を連れ戻したいんでしょう?」

「命だけは取りませんよ。腕と脚を切り落として、ダルマの状態で穴だらけになった身体を生命維持だけして持ち帰るとします」

「そうですか……やはり」

 ミラは、自分が回収対象だということを周知されている様子だ。
 その会話でミラは、バイレンス家の仕業だと確証を得られた。

「ですが、周りの連中はいらないので消しておきましょうか」

 そこで、あの黒い球が手の中に収束していくのが見えた。

「まずい!」

 ミラは、護衛の前に立ちはだかり、あの光を生み出す空間制御を行った。
 手の中に空気のすべての動きを把握し、それを圧縮していく。
 すると、ある地点から、光のようなエネルギーが生み出された。

 黒い球は拡散しながら放たれる。
 黒い球が目の前に迫った。
 そして、ミラが打ち消した以外の場所は、物質が枯れるように消滅していった。
 相変わらず理解不能な攻撃だ。
 そして、ミラの防御も自分で理解不能だった。

 得体のしれない攻撃には、解析不能な防御をぶつける。

「なるほど、なるほど。変身した魔人があっけなく負けた理由はそれですね?」
 
 ここで隠しても意味がないため、ミラは肯定した。
 本当は少し違うが、まあいいだろうと。

「……そうです。どうしますか?」

 どのみち、この防御が破られたら終わりだ。
 敵の反応からその手段の有無を探った。

 あるなら、黒い球で徹底的に押されるだろう。

「確かに困りました。でも、防御できるのは前だけなんですね?」

 防御は破れないとわかった。
 だが、ここまで出し惜しむということは、回数制限や連射に問題があるはずだ。
 


 ミラは再び黒い球を収束させた男が高速で空を飛び回った。

「これは……」

 ミラは冷や汗をかいた。
 タイミングを合わせないと防げない方法で、タイミングの撹乱を計算しているのだ。

(光は維持や制御ができるのかしら?)

 ミラはとりあえず、空間を制御して光を発生させたまま、それを自分の周囲に生み出した。

 あの男は以前の魔人とはレベルが違う。
 黒い球は大きな隙と動かないことによるタメが必要なはずだった。それがなくても良いということだ。

 右ななめ後ろに姿を現して、手から放たれた黒い球は、ミラの後頭部を狙う。
 そこにせいの剣で迎え撃つようにして、光の玉で相殺した。
 
(できた! 意識どおりに動かせるわ)

 剣先と連動した光の現象だ。

「なに!」

 男は魔人になって初めて驚きをあらわにした。
 おそらく、黒い球は必殺技とか、決め手・切り札のたぐいなのだろう。

 それが当たらない相手は肉弾戦で倒すしか無い。しかし、近接でミラと戦えるものはそもそも少なく、魔人の肉体能力でも厳しいはずだ。

 少し距離を取るが、黒い球は意味がないため、結局、近距離での肉弾戦となった。
 そこに、ミラは目の色を青くして、水平に剣を構えた。


 迎え撃つ拳と蹴りを受け流し、魔人の力を利用して背中に何度も致命傷を浴びせた。

 だが、そのたびに魔人は身体が治ってしまう。

(いえ、関係ないわ……ダメージが蓄積することはわかっているのだし、薬草がないと時間はかかるけど、最後には倒せるはず)

「くっ!」

 距離を取る魔神に対して、ミラは追いすがる。

 それをうっとおしそうにハエでも払うように攻撃するが、それも倍返しでミラの攻撃が当たった。

 肉弾戦の衝撃波で地面の草にしがみついていた護衛たちはミラの戦闘を見て、目を見開いた。
 あの攻撃を受けて、剣の刃こぼれもしておらず、衝撃も全て後ろに受け流していた。

「あれは普通じゃないな……」
「見たこと無い剣術だな。あれと戦えているのがもうおかしいけどな」
「そろそろ決着がつきそうだぞ」

 護衛の1人が言ったように、すでに魔人は地面に倒れ伏していた。
 そのまま粉のようにして身体が消えていく。
 最後はあっけない。

 遠距離戦を封じられると肉弾戦に頼るしかなくなる、という魔人の新しい情報も得られた。

「ふ……負けたようだな。だが、こんなの序の口だぞ。せいぜい抗うんだな」

 どうでもいい捨て台詞だけ残していった。

「わかっています……。バイレンス家は……」

 ミラはそう言って、護衛に振り向き、衝撃波で至るところに怪我をした護衛にポーションを手渡すのだった。
 よほど満身創痍に見えたのだろう。
 そして護衛の1人がポツリと言った。
 
「なんで戦ってない俺たちがケガしまくってるんだ……」
「さあ、今度はもっと遠くから観戦しないとダメってことだ」
「いや、なんで観戦することが前提なんだよ」

 護衛たちの上司だったのか、若い護衛の男の頭をぽかんと叩いた。

「ですよね……」
「当たり前だ」

 ミラはレオにもポーションを渡して、少し休んでから、王家のいる部屋に戻ることにした。
 いま王城を狙っている部隊は壊滅させた。
 とりあえずは一件落着だが、まだ全てが終わったわけではないのだろう。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...