実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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【本編続き】

3-10.5.シャンプマーニュ家VSバイレンス家(前編)

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 リリカは事件のあったその日の夜、ミラの飼い犬であるシルクの様子がおかしいことに気づいた。

 そばにピッタリと付けて、シルクの行動を追ったのだ。
 それにシルクも気付き、途中からは散歩のように一緒に歩いていた。

「なぜこんな夜中に外に出て? 前にも言ったけど、この王都は犬には危ないよ?」

 シルクから返答があるわけではないのに、声に出して話しかけるリリカ。
 しかし、そんな事は知っているとでも言わんばかりに、シルクはふんっと鼻を鳴らして、歩を進める。

「じゃあ、もしかしてこの王都の異変に気付いたってこと?」

 リリカは片手を胸の高さまで上げると、青白い光が空中を舞っていた。
 両目には青白い光が集まり、王都と王城の様子を左右の目でそれぞれ映し出す。右目には王城外周、左目にはパイレンス家の別邸だ。

 そこには、確かにフードをかぶったおかしな人物たちがアリンコのように溢れていた。
 もともと、リリカは王都の異変はすでに感じ取っていた。まさかとは思ったが、シルクがそれに気付いたのはリリカも半信半疑だった。

「おおかた王族を狙った襲撃ってところ? 私にはあまり関係ないけど……ふう。ミラが王城にいるみたいだから、関係大ありになっちゃった」

 右目の青白い光が消えると、再び点灯し、両目にバイレンス家の様子が映し出された。

「うっわ、何この数……」

 リリカが目に映し出したのは、大勢のフードの男たちだった。
 王城の襲撃先遣隊とは比べ物にならない。一体、何百人集めたというのか。
 シルクに再び問いかけた。この犬は理解しているからこそ、王城に向かっているのだ。いや、薄々は動物ではないことに気付いていた。この生き物は犬などではない。ミラが信じているから、犬だと合わせて言っているに過ぎなかった。

「ねえ、聞いてる? あなた、王城にそんなに行きたいの?」

「わんっ!」

「そこだけ犬みたいに吠えるんだ。まあいいや、じゃあ私はあっち行くよ。この地図のこことあそこに、敵の中継部隊いるけど、潰せる?」

「わんぅ」

 そこで、シルクと別れた。
 シルクは先遣隊の中継路をふさぐ敵を始末しながら、王城へと歩を進めたようだ。

 ミラたちは襲撃者が城の中に入ってこない本当の理由を知らなかった。 
 実は、中継地点が潰されて、援軍が全く来ず、先遣隊が拠点から動けない状態になっていたのだ。


***


 一方で、リリカはバイレンス家の別邸へと向かうことにした。
 ミラの噂はすでにあの街で情報収集して、冒険者ギルドでも聞いて回った。だからある程度は知っている。それなりの実力もあるようだし、戦えるのかもしれない。しかし、さすがのミラでも、あの数が王城になだれ込んだら、厳しいだろうと予測する。

「はあ……これじゃあ、王家の手伝いをするみたいで気乗りしない……」

 リリカは、王城の方角に一度だけ振り返る。もともと、シャンプマーニュ家は王家と仲が悪い。というのは前代までの話で、今代の当主は別になんとも思っていない。ちょっと邪魔くさいハエ程度の認識だ。

「そうでしょ?」

 リリカは後ろに話しかけると、そこには現当主のはずの男がいた。

「は、おっしゃるとおりです……」

 顔は青白く、まるで死人のような精気の抜け出た人形のようだ。
 王家はこの男がまだ当主だと思っているようだが違う。偽装しているのだから当たり前だが、今代の当主はすでにリリカが継承していた。

 屋敷にいた人形に魂を入れる魔法の術式もすべて、リリカが制御している。
 前代の当主だった男は、子どもたちとの戦いで一度死に、リリカがそのまま死体に魂をリリースして定着させている状態だ。肉体は人間のものなので、いわゆる死んで生き返ったゾンビ人間である。

「バイレンス家は教団との噂は聞いてたけど、ここまで過激な行動に出るなんて、頭がおかしくなったの?」

 後ろの男は、数瞬だけ考えて答えた。

「一度、バイレンス家から交渉を持ちかけられたことがございます。しかし、断りました。あまりにも独善的な方法だったがゆえに」

「それをあなたが言うの?」

 息子たちを殺してまで、聖女儀式で似たようなことをしようとしていたはずだ。

「滅相もない。それは勘違いでございます。私は――」

「そのへんのことは、もうどうでもいいから。それより、さっきの話だけど」

「はい、それでしたら、バイレンス家当主は教団に乗せられているのでしょう。もともと、1つの家格で制御できるような連中ではございません。動いているのもどうやらルナド聖教国の下っ端に過ぎませんから」

「そっか。ルナド聖教国は馬鹿なバイレンス家の当主を利用して、王国の王権を手に入れるつもりなのかもね。あと聖女の権限も」

「ご明察のとおりです。聖女の権能は、聖国が独占したいようですから」

 そこで、リリカはポンっとグーに握った手を打ち合わせた。

「ああ……、だからあなた、2年前にあんな無謀な計画を立てていたのね?」

「不甲斐ないですけれど、そのとおりです。バイレンス家が事を起こす前に」

「じゃあ、私がしようとしていたことと、だいたい同じなんだ。ふ~ん」

 リリカは少しだけ驚きと関心の表情を男に向けた。

「……」

「もともと、深海クラゲの事件の前にあからさまに計画を練っていたし、聖女の暗殺までしでかしたのだから、猶予はないと思っていたけれど」

「でも、聖女の最終試験に行く前の資格試験では……」

「わかってる。間に合わなかったのよ。聖女の資格試験は2つの薬師試験でしょ。って思ったんだけど、なかなかうまく行かないのよ」

 リリカは、まさか試験でつまずくとは思っていなかった。薬師の養成学院にも落ち、独自学習で試験に挑むも、本番に弱く全滅。当主までなった人間が、そんな欠点があるとは誰も思わない。

「しかし、早く聖女の代わりにその地位につかなければ……」

「気付いている。この国は根幹から早々に崩壊する」

 リリカにとって王家がどうでもいいのは、聖女の試験官役的な役割を与えられているにすぎず、その程度としか思っていないからである。

 あくまでも聖女になれるのは、候補に選ばれた人間が資格を満たしており、最終試験を合格して、初めてその地位につく。王家は候補までは選べても、最終試験を勝手に合格させることはできない立場だ。もし、合格確実な人間が入れば、そのまま王家が押した人間が聖女になれるが、そんな人物が存在することなどありえないだろうと考えている。
 
 そして、リリカが別の視点からも王家に良い印象を持っていないのは、王家はもうすでに敵の侵食が内部からかなり進んでいるからである。下手に機密の話などすれば、教団に全部筒抜けだ。



***


 リリカがバイレンス家に到着すると、門番のように立ちふさがる怪しいフード男たちがいた。
 
「あなたたち。とりあえず、こいつらを押さえてくれる?」

 そういうと、リリカの周囲に突然現れた人形メイドたちが、フードの男たちに襲いかかった。2体で1人を押さえ、動けなくしてから、リリカは男の胸に手を入れた。
 そこから引き抜くように青白い光を取り出し、片手で握りつぶした。

 すると、男の目から精気が消えて、息絶えた。

「代わりに、これあげる」
 
 反対の手で青白い光を胸に押し込み、フードの男は再び立ち上がった。
 まるでリリカに付き従うように、敵を押さえるために加勢するべく行動を開始したのだ。

 この手順の繰り返しで、生きる屍を量産し、正面から堂々と制圧していった。

「数は多いけど、人形で押さえられる程度の奴しかいないのかな? 見た限りだけど……」

 リリカは人形たちとの視覚を共有し、広いこの場所を常に客観的に見ている。遠くの場所の出来事もわかるのはそのためだ。

「油断は禁物です。教団員の中には手練てだれが混じっていることがあります。そういう者がチームリーダーをしています」

「そうなんだよね~。まあ、魔人の出現とか、いざという時はあなたが魔法を使ってよ。一番わからなかったのは魔人の強さなんだよね……証言に一貫性がなくて、王家も情報を掴んでいないみたいだし」

「心得ております」

 前当主は、魔法も武器もレベルの高い息子たち数人を相手にして、相打ちとなった。それだけ魔法に優れていた当主だからだ。
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