実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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【本編続き】

3-14.領主の令息、握手会と笑顔にトドメ

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 歌い踊るステージが終わって、観客の移動が始まった。
 ミラはそこで以外な人物に遭遇した。

 師匠のルーベック。そして隣には見たことのある若い青年が立っていた。
 男性2人でこのステージを見に来ていたのだ。
 意外なのはルーベックではなく、隣りにいる若い青年。名前はレモンド・サンポードである。

「やあ、来ていたんだね」

 ルーベックが挨拶をしたのを見て、レモンドもミラに挨拶する。

「ミラさん、この前ぶりですね」

 彼は、ミラが住んでいる街一帯を治める領主の息子だ。
 ミラがギルド訓練場で弟子と模擬戦をしているときに遭遇し、弟子のウィントと一緒に訓練を受けた仲だ。
 つまり、弟弟子となった人物である。なり行きは省くが、ミラと弟子の訓練を見て、自分も参加したいと申し出てきた。いまはウィントと同じ訓練をして、特製ポーションを飲みながら一緒に頑張っている。
 近況も王都に行く前に聞いていた。

「2人とも王都にいらしてたんですね。ルーベック様の目的はやはりこのステージセンターのメンバーの方ですか?」

 それを聞いて、「そうなんだよ」と答えようとしたところで、ルーベックが言い直す。

「それもだけど、今回は王都試験が近づいていたからね」

「あ、国中から集まってきますもんね。試験官のお手伝いですか?」

「まあ、そんなところだよ」

 ミラはそこで周囲を見回した。「あ、メリエラ様もいたわ!」とミラは心のなかで呟いた。
 ここまで来て、なぜかルーベックに話しかけない。
 距離が離れたままだ。人影ひとかげに紛れるようにこっちを見ている。

「レモンド様は……失礼ながら、お相手探しですか?」

 本当に失礼な問だ。だが、そういうのも仕方ないことだった。
 お探し相手とは、レモンドは19歳とそろそろ結婚の歳で、まだ婚約者がいない。だから、近場に良い相手がいないから歌姫のメンバーでも探しに来たのかと聞いた。

 端正な顔立ちに、性格も穏やかで優しいのだが、婚約にふさわしい相手の女性が見つからず難儀している。ミラにはその原因がよくわかなかった。
 ミラは相手が見つからないことを何度か相談で聞いていた。しかし、ミラが紹介できる友達の女性は、当時、受付嬢のスフィアと冒険者の数名ピタや一緒になったメンバー、王女くらいである。

 ミラは、これまで受付嬢のスフィアを紹介して失敗し、王女のフローラはお見合い自体を以前断られたと聞かされた。冒険者からは丁重にお断りされた。だから、力にはなれなかった。
 次期領主のお相手探しは大変なようだ。

 そんなこともあり、お相手探し以外に目的が思いつかなかったのである。
 
「ううん……今回はそういうのじゃないよ。ルーベック君がぜひにと誘ってきてね。この歌姫ってグループがすごいからと見に連れて来られただけなんだ」

 領主の仕事を一部だが任されて忙しい上に、空いた時間で訓練までしている彼をルーベックが強引に連れてきたみたいだ。相変わらず、歌姫のステージに誘うときは、人が変わる推し優先の人生だ。これが『布教』というものかもしれないと思うミラ。

 それに、もしかすると、ミラが王女たちを連れてきたみたいに、ルーベックは息抜きをさせようとしたのかもしれない。そんな見当違いな理由を勝手に見出すのだった。

「そうなんですか」

 レモンドは頷いた。

「相手は、まだ決まっていないんだけどね」

 お見合い候補はかなりいるらしい。でも、なぜか対面して話をしても相手が決まらないらしく、お見合いは何度も流れ続けているという。
 どうもそれは別に、彼の贅沢な理由などではなく、令嬢の方に何かしら問題というかクセがあるのだという。詳しくは聞いていないが、とミラはレモンドを見て、ふと相手になりそうな人物を思いついて口添えした。

「あ、もうひとり紹介できそうな人はいました」

 ミラはこのグループのことを勘違いしていた。「歌とダンスをする人たち」という漠然とした認識しか持っていない。それもあって、彼のお相手にユーニスはどうだと言い出したのである。

「このグループの中に、僕の相手がいそうってこと?」

「はい、以前こちらで握手したメンバーの方なんですけど。友達ではないのですが、握手しにいってみてはどうでしょうか? もしかしたら、お相手としてふさわしい方かも」

「う~ん、ミラさん――いや師匠の提案なら一度だけ見て話してみるよ」

 歌姫グループの握手会が、お見合い現場になりそうになるが、周囲には初参加者ばかりで、そんな常識を持つ者はおらず、誰も止めない。

 ルーベックはといえば、センターのメンバー以外に興味がないのか、すでに話を聞いていない。握手会で話すことを考えているのだろう
 。顔だけウキウキでだらしない表情だ。その表情を見て悔しげな表情をするメリエラも遠くに見えた。


***


 会場に握手会用の設備設置が終わり、その場の全員で、移動を開始した。
 ルーベックだけは中央のメンバーと握手をするために真ん中に向かって歩いていった。

 ミラはレモンドと歩き始めるが、後ろを振り向いて、気付いた。
 王女たち全員が付いてくることに。
 意外な光景に、ミラは首を傾げる。

「あの、皆さんはお好きなメンバーのところに握手をしに行かないのですか?」

 ミラは気に入ったメンバーをついでに紹介できるからよいのだが、費用を払って握手するから、好きなメンバーのところに行ったほうがよい気がした。

 最初に答えたのはフローラだった。

「ミラちゃん、お構いなくです。私はこのグループは皆さんのことを気に入りました。けど、ミラちゃんが気に入ったという方を間近で見てみたいです」

 続けて末妹のフレドリカも頷いた。

「フローラ姉様が行くなら私も一緒」

 次いでリリカは、色々なメンバーを物色、というか睨むように凝視していたはずだが、ミラと同じ列に並ぼうとしている。

「私は最初からミラが握手する子を見ようって決めてた」

 ミラはもう一度だけ面々を見まわして、頷いた。

「では行きましょうか。私も本当は来てほしかったんです。ぜひ紹介したくて」

 友達に気に入ったメンバーを紹介するというのは、なぜかそうしたいと思ってしまうのは不思議だ。これがルーベックの言っていた『推す』というものなのだろうか。いや、ルーベックは同じメンバーを推させる気はないようだ。むしろ同じメンバーを推すことはなぜか拒否する。

 それに私は彼女を応援しているだけ、というのもある。

 王女の後にシャンプマーニュ家の令嬢、サンポードの領主の貴族令息というVIPなメンバーを引き連れて、ミラはこのグループの1人、ユーニスという子の列の前に並ぶのだった。

 王都公演だからか、客も多く、列には結構な人が並んでいた。
 地方ステージとは比べ物にならない数だ。他のメンバーに比べるとかなり少ないほうだが、握手までは少し時間がかかりそうだ。それで待つことにした。

 護衛も横に並んでいるため、そこだけ異様な雰囲気に包まれていた。
 まだ決めかねている観客もミラたちの近くに来ていたが、とりあえずセンターの方に歩き直していた。

 列が進み、ミラが最初にユーニスと握手をすることになった。

「あ、ああ……。また来てくれたんですね。確か、お名前は……」

「ミラです」

 名前は言っていないから、知らなくて当然だった。

「そうミラちゃん!」
 
 そういって両手で握手をしてきた。
 相変わらずの営業スマイルだ。最初言いよどんで、少し眉が上がったのを除けば。
 まるで知っていたかのように名前を呼ぶユーニスにミラはあれ? という顔をした。

 いや伝えることが先かと、ミラは言葉を選ぶ。
 
「ダンス、頑張られていましたね。あ、でも……なんでもないです。それで歌もとてもお上手だったです。すごく見た目も可愛らしく、歌いながらのダンスでも、なんかその……目立っていました」

 それを聞いたユーニスのまぶたがピクッと動く。
 直前に変な疑問を持ってしまったせいで、たどたどしい伝え方になってしまった。
 それでも満面の笑みでファン対応するユーニス。

「はい、ちょっと失敗しちゃいましたね。ごめんなさい。またがんばりますから応援してくださいね?」

 声がワントーン上がっている。だが、手がぷるぷる震えているのは気のせいだろうか、とミラは握手する手を見つめる。
 だがすぐ首を振った。

「そうだ、今日は紹介したい方たちがいて、この後ろに並んでいる……」

 ミラは後ろを振り向くと、空いた手で王女たちを紹介した。

 ユーニスは握手対応で気付いていなかったのか、VIP全員が自分の列に並んでいることに気付いた。
 何が起こっているのか、という顔をして、顔面が石のように固まっていた。

「あ……ああ、なるほびょ?」

 最後、噛んだらしく、舌をぴろぴろと出して、ムカっとした表情をした。笑顔が一瞬崩れている。しかし、ファンたちの前だと気づき、すぐに表情を戻す。

 それを見て、ミラが少しだけニヤッとした。
 思った通りの人物だったことに笑みがこぼれたのである。

 ユーニスは、またしてもピクピクっとまぶたが動いた。

「あ、ごめんなさい、変な所見せちゃいましたね。テヘっ」

 頭をコツンと叩く。
 テヘっといったその声は全く笑っていない。むしろ、トーンが落ちた。
 この「テヘっ」という言葉を初めて聞いたミラは、それはどういう言葉や仕草なのだろうと首を傾げた。

 何か勘違いをしたユーニスは、悔しそうに下唇を噛んだ。
 もともとユーニスの列に女性が並ぶことはほとんどなく、ファンサービスがいまいちわからなかったのである。
 男性ファンなら喜ぶはずなのに、と言いたげな表情を浮かべた。


***


 時間が来て、ミラは握手を終えると、今度は王女の面々が握手をした。

 ユーニスはなぜか緊張している様子に見えた。
 普通に考えればわかったことだが、ミラは気づかない。

 王女が握手するのは、普通はサービス的に逆である。
 王女に国民が並ぶのが普通のこと。いや、握手自体ができないほどレアなこと。
 逆に、王女が並んで握手をしに来るなんてことは、ありえないのだ。

 粗相をしてはいけないと、ユーニスは緊張したのである。
 ミラはその様子に気付いて、列の近くで立ち止まって振り向いて見ていた。

 次に、リリカが握手して、しばらく何かを話したと思ったら、「むー」と2人から変なうなり声が聞こえた。
 どうやら握手にかなり力を込めるらしく、もはや握手会ではなく、力比べみたいになっていた。
 すでに握手会とは別のイベントだ。

 列を整理する係員になぜか引き離されて、2人が同時にミラを見る。すると、リリカはこちらに歩いてきた。

 はあ、とため息を付いて首を振ったのである。

「私はあの子、ダメそう」

「え?」

 ミラは首を傾げた。
 とても仲良さそうにしていたのに。
 でも、試験のことはすっかり忘れているらしく、目的は果たせたようだ。むしろ、リリカの顔から清々しい気分にも見えた。




 最後は、レモンドだ。
 男性の相手は慣れているのか、ユーニスはいつもの感じで営業スマイルで対応していた。
 しかし、握手して少し会話した後、レモンドはなぜか首を横に振り、すぐに握手していた手を離した。

「えっ……」

 ユーニスは手が離れた空間を凝視して、そのまま固まった。
 ミラは首を傾げながらその様子を見ていた。

「君じゃなかったみたいだ。ごめん、もう来ないよ。君を相手に選ぶことはできそうにない」

 握手会で、なぜか振られたみたいなセリフを吐き捨てられて、まぶたがピクピク動くのを通り越し、まぶたが痙攣し始めた。

「本当にすまない」

 その一言がトドメだった。何にトドメをかと言えば、営業スマイルにだ。

 ユーニスは両手をワキワキさせはじめて、必死に怒りを抑えるような素振りをしていた。
 まるで、「なぜ握手会で、見ず知らぬ男性に振られなきゃいけないんだ!」といわんばかりである。
 発狂する寸前である。
 叫んで大声を出さなかった自分を褒め称えたいと言わんばかりの表情で「むふん」と鼻息を荒くしていた。


 その表情がよほど恐かったのか。レモンドの後ろにならんでいた観客たちが、それを見て、ささっと別のメンバーの列に移動を始めてしまう。

 それに気付いて、ユーニスは営業スマイルに戻す。
 だが、もはやあの満面の笑み作られし笑みに引き寄せられた観客は戻ってこない。

 顔も戻らない。
 唇の端も中途半端に上がって、半笑い状態である。

 列には、もはや誰も並んでいなかった。ミラたちの後に列んだ、列の人の少なさを見てあわよくば自分だけ仲良くなることを狙ったハイエナの一見ファン人気のないメンバーに集まる習性の彼らばかりだが、それをミラたちのコンボで蹴散らしたようだ。

 そこに冷たい風が吹いた気がして、ユーニスは半眼のまま棒立ち状態になった。
 



 ミラは戻ってきたレモンドに話を聞いた。

「どうでしたか? あの方はお相手に――」

「あの子は選べないよ。きっとあの子にはもっとふさわしい、僕よりも似合う相手がいると思うんだ。それに……いや、なんでもない」

 最後のフォローは、ユーニス本人に言ってあげればいいのに。本人ではなく、それをミラだけが聞いていた。
 レモンドは女性を見たときに『独特の嗅覚』があるのか、お見合いでも何かを見分けているのだと聞いた。
 それが何かはミラも知らないが、お相手選びにはとても大事なことなのだそうだ。

「残念でしたね。では帰りましょうか?」

 そういったところで、会場の手前あたりで何かが割れる音がした。
 まるで会場全体が緊張が緩む一瞬でも狙ったかのように、静まる会場でその音は大きく響いた。
 
「あれ……いま音が」

 それはこちらとは別のVIP観客席となっていた、第一王女のエリスがいる場所だった。
 またしても何かが倒れる音がした。

「これって……」

 フローラはその方角をじっと見つめた。なにかまずい事が起きている予感がしたのである。

 そして、残してきた護衛の1人がミラたちの前まで走ってきて、こう言った。
 その姿は全身血だらけで肩を押さえていた。

「エリス様がさらわわれました!」

 全員が「えっ!」という声を漏らした。

 無事に過ぎ去るはずだった今日、何かが起きようとしていたのである。
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