実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

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【本編続き】

3-15.前門の虎、後門の狼

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 ステージを見に来たミラたちは、第一王女のエリスが攫われたと聞かされた。
 ミラは急いで現場に向かおうとするが、リリカにその手を止められる。

「ちょっと待って!」

 ミラはリリカの方を見て一度冷静になる。

「そうですね、攫われたのにいまからあの場所に戻っても……」

 そこに第二王女のフローラが声をかけた。

「リリカさんはともかく、ミラさん落ち着いて下さい。この誘拐、少し変です」

 それに疑問で返したのは、ミラの隣りにいる領主の息子のレモンドだ。

「どういうことかな?」

「いま王城は警戒体制で私たちはこのステージを見に来ました。お母――王妃様が外出を許したということは、相当な護衛をこのステージに用意していたということです」

 それに頷いて答えたのは護衛の1人だった。血まみれで、ミラにポーションを貰って回復した。

「フローラ王女様、その通りです。このステージの特設観客席は、いまや王城の外壁のまもりよりも強固でした。それが謎の男の小集団に正面突破されました」

 フローラはその回答に頷いて、話を続ける。

「それを正面からわざわざ破って、エリスお姉様を攫った。もう意味がわかりません」

 ミラは、フローラの話に頷く。

「たしかに変ですね。教団なら、間違いなく殺しに来たはずですし、私ではなく彼女を攫うなんて、もう何がしたいのかわかりません」

 フローラはミラの目を見た。

「それにです。あんな強固な護衛の布陣に正面から突撃せずとも。ここには、数人の護衛で観戦していた私たちがいます。それも狙わず、エリスお姉さまをわざわざ攫った。私達の優先度が低かったのだとしても、まだ戦力的に王城の王妃様を狙ったほうがマシなくらいです。ということは、犯人は教団ではないのかもしれません」

 それに、特徴の黒いフードも着ていなかったのですよね、と護衛に確認をとった。

「じゃあ、一体誰が何の目的でエリス様を……」

 ミラは首を傾げた。そして、どこに誘拐されたのだろうと。
 ミラの索敵でも誘拐で連れ去られた場所を特定することはできない。

 フローラの袖をくいっと引っ張って第三王女のフレドリカは不安そうにフローラを見上げた後、ミラを見て、どうしようという表情をしていた。

「あ~、ちょっといい?」

 そこに声をかけたのは、リリカだった。
 それに少しだけ棘のある声で返すフローラ。

「あの、今考えるのに忙しいので、雑談なら後に」

「いや、違くて。場所なら分かるけど、って話」

「え!」

 フローラとミラは同時に驚きの声を上げる。
 その上でミラが聞く。

「わかるのですか?」

「うん。ミラとは少し違うけど、私も索敵が使えるんだ」

「そうだったんですね。それで一体どこに攫われて?」

「ちょっと待ってて」

 リリカは後ろを向いて、片目を隠した。
 ミラには一瞬、青白い光のようなものが周囲に見えた。
 そしてリリカは振り返る。

「わかった。これは王都の路地裏にある廃墟かな。王都に巣食うごろつきの集団だと思う」

 フローラは怪訝な声を上げた。

「本当に……? あの護衛の数をごろつきの集団が突破したと?」

「1人、めちゃくちゃ強い男が現場にいたみたい。でしょ? 護衛さん」

 まるで見ていて攫われた現場の状況がわかっているように言うリリカ。
 服が血まみれの護衛は頷いた。

「はい……。私たちではなすすべもなく……くっ!」

「そうですか……」

 フローラは事実確認を終えると、さらに疑念の表情を浮かべた。

「となると、ごろつきの背後に、誰かいますね。第一王女に執着する誰かが裏で糸を引いている可能性があります。とにかく現場に向かいましょう。フレディは、護衛と合流して? 私たちはミラちゃんと一緒にエリスお姉様を迎えに行きますので。そちらの護衛の方は、王城に連絡を」

 その指示に、皆が頷くが、リリカは不満そうな顔でフローラを見た。

「私は?」

「不本意ながら場所を知っているのはあなたなので来て下さい」

「釈然としないけど、わかった……」

 レモンドもそこに声をかける。

「じゃあ、私も行くことにしよう。ミラ師匠の弟子として、遅れは取らないつもりだ」

 フローラはそれに頷く。
 こうして、ミラたちは会場を出て、王都の一角にある廃墟に向かうことになった。


***


 護衛はずっとフローラの側にいた者たちがフレドリカの護衛についた。 
 そのため、誰も廃墟には護衛が付いてこない。というより、ミラのそばにいたほうがむしろ安全な気さえするフローラだった。すでに全幅の信頼である。

 リリカが路地に入ったところで足を止め、片手を横に上げる。

「止まって! ここがそうみたい」

 フローラは入口を確認すると、分担する指示を出した。

「じゃあ、正面は私とミラさん。裏口の待ち伏せをリリカさん。横の扉からはレモンドさん。お願いできますか?」

 戦力を正面に集めた形だ。

「はい」

 そして、ミラの弟子だというレモンドを横からの別動隊にした。

「かしこまりました」

 リリカは実力不明のため、待ち伏せで雑魚が逃げた時の牽制役として置いた。
 いざとなればリリカだけは逃げられるような配置である。場所がわかるという理由で着いてきてもらっただけだから、一応配慮はしてあった。

「まあ、戦う気はなかったし、いいよ~」

 とはいえ、貴族の子女で学院入りしているのだから、最低限戦う力はあると踏んでいる。気の抜ける返事がフローラの癇に障るが、今は無視するのだった。

 フローラも王女で戦う機会はないが、ただのごろつきよりも弱いわけでは決してない。一通りの王族式の戦闘訓練は受けている。まあ、レオや他の兄たちとなんとか訓練の相手できるくらいで、腕はぼちぼちだ。
 それでもフードの集団で手練と戦えば厳しいが、雑魚なら相手にできる。

「では、いきましょう!」

 もちろん、あくまでもフローラはミラのおまけとして横に付く形だ。


***


 それぞれが配置について、廃墟の扉を正面から開く。

 作戦立案はフローラだ。あくまでも陽動的な形でミラが正面を破り、側面からレモンドが助けるというシンプルな作戦だ。
 敵の雑魚を破れば一番強い者が尻拭いにミラのところに来る。あとは、こっそり王女をレモンドが助ければ状況完了のはずだ。

 ミラが扉を開けると、酒場のような場所になっており、ミラは以前の盗賊騒ぎを思い出していた。
 またしても身体が弱くなるようなこんな不健康な場所にたむろしているのである。
 そんなことをフローラに呟いた。
 フローラは首をかしげるが、ミラが声を上げたので口出しをやめる。

「あの、お邪魔します」

 侵入者が来るとは思わなかったのか、ごろつきたちがミラたちをぽかんと見た。
 遅れて、一人の若い男が叫んだ。

「侵入者だ!」

 その声で、ごろつきたちが手近な武器を構えて、ミラたちを取り囲む。
 フローラは一歩下がって、ミラに戦うスペースを開けた。

 ごろつきたちはミラに声をかけた。

「お嬢さん方、今日は何をしにここへ?」

 ヘラヘラ笑う男がミラたちに聞いた。

「大切な方を取り返しにです」

 その言葉を聞いて、ごろつきたちの目の色が変わった。

「こいつら、王女の関係者か! 護衛には見えないが」

 そのセリフにフローラは呟く。

「やはり王女を攫った自覚があったのですね。でもなぜ……」

 その疑問も当然である。
 ごろつきが王家の人間に一般人が手を出せば、集団ごと根絶やしにされるだけである。後は時間の問題だ。リリカが今回は場所を探し当てたが、いずれ王家の命で王都戦力が総動員で投入され、ありんこ1匹も残らない結末が待っているだけである。

「抵抗するなら覚悟して下さい。こんな不健康な場所で、身体を弱くしている人たちには負けません」

 ミラは大見得を切って言った。

 その発言にフローラが目を丸くする。

「あの、ミラさん。さっきから何を言っているのですか?」

「え?」

 ミラはフローラに「なぜ暗い場所にいると身体が弱くなるのか」を説明し、王女が目を点にして間抜けな顔を晒す。

「……たいへん申し上げにくいのですけど、それ間違ってます」

「そうなんですか?」

 そんなあほなやり取りをしていると、後ろから誰かが突入してきた。

「観念しろ!」

 ミラとフローラは後ろを見て、無言で顔を見合わせた。

「「……」」

 誰か知らないが、ミラたちと同じような目的で正面から乗り込んだのである。
 しかし、フローラが見る限り、その中に王家の関係者や護衛は一人もおらず、見たことのない者ばかりだった。
 
 フローラはこそっとミラに話しかけた。

「敵対勢力なのか、素人の救出作戦なのか、よくわかりませんけど、私たち挟まれた形です」

 仕方なく、後ろの集団にミラは声をかけることにした。

「えっと、あなたたちは?」

 すると、ギリっと鋭い目でミラを見た男たちのいかにも武器を揃えた集団だった。

「こちらに名乗る前に自分から名乗ったらどうだ。この犯罪者共」

 ミラたちも犯罪者にされていた。
 そこで、フローラはミラをフォローする。
 
「いえ、私は王家の者で第二王女のフローラです」

 すると、武装集団の中央の男が叫んだ。

「黙れ! 俺たちは騙されないぞ。第二王女は第一王女様よりもブスだと聞いたが、お前は聞いている以上のブスだ。そんなブサイク面が王家を語るなど、私たちが処刑してくれる。その横にいる長髪ブスもだ」

 フローラは、そのセリフに頭の血管がブチ切れそうになった。
 ミラへのブス発言に堪忍袋の緒が切れたのである。

「……黙って聞いていれば」

「フローラ様?」

 フローラは今までに見せたことのないような怒りの表情をしていた。
 さりげなく、ミラも侮辱されていたが、いまはそれどころではない。フローラが人には見せられないような鬼の形相になっていた。

「ふん、そんな顔芸の脅しでは俺らは屈しない。俺は、高貴な家に仕える私兵団の隊長だ。いますぐ、武装を解除して捕まるんだ」

 私兵団はエリスに執心しているのか、それ以外を全員ブスと罵るおかしな集団だった。

 前門の虎、後門の狼、状態となった。
 ミラはこの状況で反動しようもないと剣を抜くことにする。



 そして5分後。
 地面に1人残らず倒れた男たちの姿があった。

 そこにフローラがさっきの隊長の顔面をアイアンクローで持ち上げる。
 意識はまだあるようだった。

「ごめんなさいは?」

「なに?」

「ごめんなさい」

 その形相に、男は最終的にひるんだ。

「ひいっ! ごめんなさい」

 そのまま意識を失った。

「フローラ様? そのお顔が」

「お顔がどうかしましたか?」

「いえ、なんでもありません」

 ミラはフローラの表情がもとに戻ってホッとした。

「それにして、このタイミングで動く私兵団なんて、誰が裏で糸を引いているのでしょう……」

 ミラとフローラは、「エリスへの執着」「高貴な家の私兵団」という知り得た材料から嫌な想像が浮かび、それを浮かべては頭を振って否定した。

「「さすがにそこまで馬鹿ではないだろうと。いくらなんでも」」

 だが、ミラとフローラの予想は的中するのである。


 それを最初に知るのは、裏から救出に突入したレモンドだった。
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